「ダイバーシティ」に代わって、「インクルージョン」という言葉を耳にする機会が増えました。どちらもさまざまなものを認めるというというニュアンスがある言葉ですが、ビジネス現場においては違いをはっきり知っておく必要があります。ここからは、「インクルージョン」の意味について詳しく解説していきます。

目次
「インクルージョン」の意味とは?

「インクルージョン」の意味は”包括・包含”
「インクルージョン」の意味は、”包括・包含”です。英語のinclusionをそのまま音で表した言葉です。
「包括」は包み括ることから、全体をひとつにまとめることを指します。また、「包含」は包み込み含むことから、甲の中に乙を含むことや、乙が成り立てば甲も成り立つ関係のことを指す言葉です。
したがって「インクルージョン」は、組織や集団に含まれるさまざまな存在がそれぞれ成り立ち、それによって全体も成り立っているイメージです。
ビジネスの場における「インクルージョン」は、企業のすべてのメンバーが経験・能力などを認められ、活躍の場を与えられている状態となります。
英語の「インクルージョン」も同じ意味
「インクルージョン」は英語で”inclusion”と書きます。分解すると、それぞれの意味は以下のとおりです。
- in:「中に含む」という意味
- clus:.claudereから来ており「閉じる」という意味
- sion:動詞を名詞化する働きを持つ接尾辞
これらを合わせると「中に含んで閉じるもの」となり、日本語訳の「包括」と同じ意味になります。
「インクルージョン」と「ダイバーシティ」との違いとは?

「インクルージョン」と「ダイバーシティ」は「共生」か「共存」か
「インクルージョン」と似ている言葉として「ダイバーシティ」が挙げられますが、直訳すると「多様性」となり、さまざまなものを包含しているという意味の「インクルージョン」とさほど違わないように見受けられるものです。
「ダイバーシティ」は多様性を認めるという考え方ですが、「インクルージョン」は個々の存在を活かすという考え方が基本です。「ダイバーシティ」が単なる共存であることに対し、「インクルージョン」は共生であると理解すれば分かりやすくなります。
「ダイバーシティ」は「インクルージョン」の前提
「インクルージョン」においては「ダイバーシティ」での多様性の許容をベースにしたうえで、多様性を持った個々の存在を活かすという考え方が採られています。
つまり、「ダイバーシティ」は「インクルージョン」の前提となる考え方であり、「インクルージョン」より劣っているものというわけではありません。
英語の「ダイバーシティ」も「共存」
「ダイバーシティ」は英語でdiversityと書き、さまざまなという意味を持つ英語の形容詞diverseが名詞となったものです。分解すると、以下のようになります。
- di:意味を強める働きを持つ接頭辞
- verse:ラテン語 vertere が由来で「向きや性質を変える」という意味
- ity:状態や性質を表す単語を名詞化する接尾辞
diversityのストレートな意味は「さまざまなもの」となり、単語としては「異なる性質のものが共存する」ということから「多様性」という意味合いを与えられています。
「インクルージョン」の活用事例とは?

ビジネスの「インクルージョン」は新しい組織づくりに活用
ビジネス分野では、「ダイバーシティ」からの発展として「インクルージョン」が活用されています。「ダイバーシティ」は1960年頃から、多国籍国家であるアメリカを中心に取り組みが始まっていました。
さまざまな文化を背景に持つ人々で構成されるアメリカ企業では、マイノリティーの採用が早くから行われてきましたが、「ダイバーシティ」と標榜していても、組織に溶け込めない人材に対してマイナス評価を下したり、暗黙に区別・排斥したりすることが一般的でした。
しかし、これでは多様な人材を採用した意味がなくなってしまい、組織のイノベーションも望めないということに気づき始め、ただ組織に受け入れるだけではなく、多様性を活用することで組織の活性化を目指す方向へ進化してきたのです。
具体的な動きとしては、「ダイバーシティ」によって多様な人材の雇用や環境整備を行い、「インクルージョン」によって従業員が各自の個性を活かしながら、業務や事業に参加できるようなマネジメントを行うなどの取り組みが進められているのです。
福祉・保育分野の「インクルージョン」は社会参加に活用
インクルージョンが最初に活用されはじめたのは社会分野で、とくに身体に障がいのある子供たちを対象とする福祉・保育分野でした。障がいの有無にかかわらず、教育を受けて社会参加できる社会を目指した取り組みとして、「インクルージョン」の考え方が導入されたのです。
近年では障がい児童だけにとどまらず、高齢者や犯罪前歴者などまで対象範囲が広がり、誰もが参加が可能な社会として「インクルージョン社会」を目指す取り組みが始まっています。
また、情報弱者が不利益を被らないために、小学校でプログラミングを教えるなどIT教育の機会を強化する動きも出ています。
まとめ
「ダイバーシティ」は本来、多様な人材を活かす戦略として位置づけられていました。しかし、単に多様性を認めるところにとどまり、各自が持っている多様性を発揮して組織や集団の発展に活かすところまで進めることはできませんでした。
「インクルージョン」では、「ダイバーシティ」で認めた多様性を包括的に活用するところまでを目指しています。