企業分析や人材評価の場面で「コンピテンス」という言葉を見聞きすることも多いでしょう。「コンピテンス」はわかりやすくいうと「能力」、そして知識や技術に限らない幅広い能力を含んだ概念です。
この記事では「コンピテンス」の意味とともに、同時に語られることの多い「コンピテンシー」や「スキル」との違いについても解説します。
「コンピテンス」の意味とは
「コンピテンス」とは日本語で「能力」を意味する
「コンピテンス」とは、日本語で「能力」や「適格性」「強み」のことです。
ビジネス領域では、業務を遂行する上で要求に対応できるだけの能力や力量という意味で用います。いわゆる技能や知識的な能力だけでなく、コミュニケーション能力や積極性など幅広い領域を含有することが特徴です。
「コンピテンス」の語源は英語「competence」
コンピテンスは、英語「competence」がそのままカタカナ語になった言葉です。ビジネスシーンでは「コンピタンス」と表記されることもありますが、心理学用語では「コンピテンス」と定義されています。
「コンピテンス」の例
「コンピテンス」には次のような能力が含まれます。
- 専門知識
- 実践的技能
- リテラシー
- コミュニケーション能力
- リーダーシップ
- マネジメント能力
- 積極性
「コンピテンス」と「コンピテンシー」の違いとは
「コンピテンシー」をわかりやすく言うと「行動特性」
「コンピテンシー」(competency)とは、ハーバード大学のマクレランド教授によって提唱された高い成果発揮につながる「行動特性」を意味します。
コンピテンスは要求される能力そのものですが、コンピテンシーは能力に動機づけられた行動特性である点が違いです。
「コンピテンシー」とは「コンピテンス」の一領域
「コンピテンス」と「コンピテンシー」は、両者とも意味や言葉が似ていること、コンピテンシーの概念のほうが後から生まれたことなどから、使い分けられていないケースも少なくありません。
正確に言うと、コンピテンシーは数あるコンピテンスの中の一領域になります。
成果を生み出すには「コンピテンシー」が必要
「コンピテンス」を持つ人材であっても、「コンピテンシー」が備わっていなければ、要求される成果にはつながりません。コンピテンシーが備わっていても、能力が不足していれば同様です。
そこで、人材管理では、個人が身に付けるべき能力を「コンピテンス」で定義した上で、遂行能力の指標として「コンピテンシー」を用いることが必要です。
近年はコンピテンシーの重要性ばかりが注目される傾向にありますが、コンピテンシーはコンピテンスに裏付けられたものであることも忘れてはいけません。
医療・福祉分野で教育指針としても使われる
コンピテンスやコンピテンシーは、大学のような高等教育の場でも活用されています。
例えば、医療や福祉分野では高い倫理観と専門的な能力が必要です。そのため、教育の場では修得すべき能力を「コンピテンス」、具体的な到達目標として「コンピテンシー」を定めています。
「コンピテンス」の心理学での使い方とは
「コンピテンス概念」はロバート・W・ホワイトが提唱
コンピテンス概念を心理学領域に提唱したのは、ロバート・W・ホワイトです。ホワイトのコンピテンス概念は、潜在的な能力に加え、その能力を認識して活用しようとする自己効力感・有能感を含んでいることが特徴です。
また、「コンピテンス概念」の対象は個人に限りません。例えば「コアコンピタンス」とは企業の中核となる強み、「コンピテンスセンター」は技術やノウハウを蓄積し、製品化や実用化を目指すための施設を指します。
「コンピテンス」は子どもの教育でも重視される
「コンピテンス」は、子どもの教育においても重要な意味を持ちます。子どもの自発的な行動を受け入れ、良い場合には褒めるという教育を行うことで子どものやる気を引き出し、自信がもてるようになります。
ホワイトによると、コンピテンスはすでに乳児期から存在し、親が適切に反応することで子どものコンピテンスを育てることができると言います。
「コンピテンス」と「スキル」「アビリティ」の違いとは
「スキル」とは技術を意味する
「スキル」は能力の中でも、特に自身で訓練などによって身に付けた、高い技術的な能力のことを意味します。
スキルとコンピテンスは同列に扱われることもありますが、スキルは技術そのものです。一方コンピテンスは、要求や目的のためにスキルを使える力という意味を含んでいることに違いがあります。
ただし、これらの定義には諸説あるため、スキルとコンピテンスが同等に扱われていることもある点には留意しましょう。
「アビリティ」とは技量や手腕を意味する
「アビリティ」(ability)はできるを意味する「able」の名詞形で、主に個人の技量や手腕を表します。もともと持ちあわせた潜在能力や個人で身に付けた能力について言うことが多く、ゲームではキャラクターの持つ能力値という意味でも使われています。
まとめ
「コンピテンス」は、要求に対応できる能力や力量のことで、社会的能力など幅広い領域を含む全体的な概念になります。高い成果を発揮する行動特性を指す「コンピテンシー」も、コンピテンスのひとつです。
コンピテンスは能力、コンピテンシーは実力とも言われます。より高い成果を目指せる組織を作るには、両者の違いを理解した上で適切な人材教育や管理を行うことが重要です。