「聖人君主」は間違い!「君主」と「君子」の違いや適切な表現も

「聖人君主」は、「聖人君子」の誤用表現です。「君主」と「君子」の語が似ていることが、誤用の要因だと考えられます。
この記事では、誤用である「聖人君主」がどのような意味で使用されているのかを、本来の「聖人君子」の意味を含めて解説します。「聖人君主」を言い換え可能な表現にも触れているので、参考にしてください。

「聖人君主」とは「聖人君子」の誤用

「聖人君主」は「聖人君子」の間違った表現

「聖人君主(せいじんくんしゅ)」という四字熟語はありません。「聖人君主」は、「聖人君子(せいじんくんし)」という言葉の誤用です。

「聖人君子」である君主が存在すること、「君子」と「君主」では字面も音の響きも似ていることなどから、誤用されるようになったのでしょう。

「聖人君子」の意味は「高格で教養のある立派な人」

「聖人君子」は、高格であり優れた知識や教養も併せ持つ、理想的な人物を意味します。中国の儒教を起源とした「聖人」と「君子」が重なった言葉です。

「聖人君子」のより詳しい意味や使い方については、以下の記事で紹介していますので、参考にしてみてください。

■関連記事:「聖人君子」とは?例えば誰のこと?語源や類語・対義語も解説

「聖人君主」が意味するところは「道徳的な素晴らしい君主」

「聖人」とは、他人から崇拝されるような、徳が高く理想的な人を意味します。「聖人君主」は、聖人である君主すなわち、誰からも信頼される人格のすぐれた道徳的な君主を言い表すために用いられているようです。

「聖人君子」が「聖人君主」と誤用されるようになった一因には、「聖人君子」とされる人物が為政者に多かったことも挙げられるでしょう。為政者となるには、人徳も教養も必要だからです。

「聖人」の意味と「君主」「君子」の違い

「聖人」とは高貴で人徳もある偉大な人

「聖人君子」でいう「聖人」は、誰からも尊敬されるような高貴で人徳もある偉大な歴史的人物のことです。

儒教では尭舜三代(聖天子尭(ぎょう)・舜(しゅん)、夏(か)の禹王(うおう)・殷(いん)の湯王(とうおう)・周の文王・武王)、周公旦(しゅうこうたん)、孔子などを聖人としています。

「君主」は世襲により国家の最高地位にある人

「君主」とは、国家を統治する最高地位にある人のことです。皇帝や天皇のように世襲を取ります。

かつて君主は主権者として絶対的な権力を持っており、近代以前は君主が全権力を握る専制君主制を取る国が多くありました。

しかし、現在では君主は象徴として存在し、憲法に基づく議会による政治を行う立憲君主制を取る国が大部分です。立憲君主制の典型的な国としてはイギリスが挙げられます。

「君子」は学識とともに人格が優れた人

「君子」とは、学識とともに人格が優れた人のことや、高位な人のことです。「聖人」に次いで優れた人のことで、為政者としてふさわしい人でもあります。

儒家(じゅか)では、君子は学問修養における目標とされました。儒家とは諸子百家の一つで、 孔子の学を奉ずる学派です。

「君子」の反対語は「小人(しょうじん)」で、「小人」は品性卑しい人、欲深く性根のひねくれたつまらない人物などを指す言葉です。

「聖人君主」を適切に言い換えるには?

優れた君主を意味する「名君」「良主」

「名君」は優れた君主という意味です。名君として知られている人物には、中国では清の康熙帝(こうきてい)や乾隆帝(けんりゅうてい)、日本では徳川家康や徳川吉宗などが挙げられます。

また、立派で良い君主を意味する「良主」でも「聖人君主」を言い換えられるでしょう。

賢い君主を意味する「賢君」「明君」

「賢君」には賢明な君主、賢くて優れた君主、という意味があります。「明君」も同義です。

日本では近世中期の藩主、上杉鷹山(米沢藩9代藩主)や細川重賢(肥後熊本藩6代藩主)などが明君といわれています。どちらも藩政改革を推し進めた人物です。

「聖人君子」を言い換えられる四字熟語とは

「聡明叡知(そうめいえいち)」

「聖人君主」の元となった正しい言葉「聖人君子」の類語・言い換え表現をご紹介します。

「聡明叡知(そうめいえいち)」は聖人のもつ四つの徳を指します。そこから転じて、生まれつき才能があり賢く、先々まで見通せること、物事に精通していて、すぐれた才知があることを意味します。

「冠前絶後(かんぜんぜつご)」

「冠前絶後(かんぜんぜつご)」は、ずば抜けて優れていること、また、非常に珍しいことを形容する四字熟語です。

今までで最高であり、これからもないだろうという意味からきた言葉で、略して「冠絶」ともいいます。

まとめ

「聖人君主」という四字熟語はなく、「聖人君主」は「聖人君子」という言葉の誤用です。「聖人君子」である君主が存在することや「君子」と「君主」は字面も音の響きも似ていることなどから、誤用されるようになったと考えられます。「君子」と「君主」の違いや、正しい表現も覚えておきましょう。