今回は、慶應義塾大学メディアデザイン研究科を卒業後、フリーランスのマルチクリエイターを経て27歳の時に合同会社METACRAFTを起業し、現在はクリエイター/経営者としてマルチに活躍する、同社代表の西條鉄太郎さんへインタビューを行いました。
「METACRAFT(http://metacraft.jp)」は、ファッションイベントや店舗向けのデジタルアート、CM映像やプロダクト写真のようなビジュアル作品の制作、WEBメディア『SILLY』『FATTY』をはじめとした、自社独自プロジェクトなど、数多くの実績を残しています。そんな「METACRAFT」を率いる西條さんの仕事哲学について語っていただきましたので、ご覧ください。
フリーランスから「METACRAFT」立ち上げまでの経緯
ーまずは今までの西條さんのご経歴とどのようにMETACRAFTを立ち上げていったのかについて、教えて頂けますでしょうか。
学生時代からWIREDなど複数のメディアでライターとして仕事をしていて、そのまま就活をせず、文章のほかデジタルアートやWEB制作など、自分にできることを全てやるフリーランスのマルチクリエイターとして仕事を始めました。
コネも金も頼れる実家も東京になかったため、駆け出しの頃は経験がなくても何だって「できる」と言い切り、求職サイトでクリエイティブ系の会社を検索して、あいうえお順に営業しに行きました。
当時は真剣でしたが、今思えば客観的に見て言動も風貌もなかなか正体の知れない若者ですから、簡単に仕事が見つかるはずもなく、それに学部から院まで奨学金を満額借りていたため、稼いでもほとんどがその返済と家賃に消えていくという、貧乏な、野良犬のような生活が続きました(笑)
毎日、家のある池尻大橋から、当時仕事をいただいていた会社があった外苑前まで徒歩で行き来し、そこの社長の机の周りに散らばっている小銭を拾い、カップ焼きそばを食べて生きていました。ちなみにこの小銭は全てきちんと返しています(笑)
いつか自分だけの方法で食べていけるようになりたい、大好きな仲間と一緒に仕事がしたい、という夢や、世間知らず故の根拠なき自信ばかりあり、どんなにお金がなくとも明るく楽しい生活でした。
フリーの活動を続けるうち、「会社を作り仲間を増やすことで、自分の枠や領域を超えた”ものづくり”ができるんじゃないか」と直感したことや、理化学研究所から仕事の依頼を受けたことがきっかけでMETACRAFTとして会社化しました。気がつけば会社を立ち上げて6年経ち、来年1月から7期目です。
「METACRAFT」流、仲間のふやし方
ーなかなかハードな形で会社を立ち上げていかれましたね(笑)。ちなみに「METACRAFT」を立ち上げられた後、どのようにメンバーを拡大されていったのでしょうか?
初期の頃は僕と、大学の同級生だったプログラマーの二人でやっていて。”若い”というだけで、安いし体力がありそうだったりで、なんとなく可愛がられて仕事が来ました。
プログラマーの彼はプログラミング経験がない引きこもりでしたが、物理は首席だったので「プログラミングくらいできるだろう」と思い、僕の家の近くに引っ越して来させ、一緒にゲームをつくったりするところからスタートしました。
二人では回せる仕事の数が限られていましたが、実績をSNSで公開して少しずつ問い合わせやクライアントが増えたため、スタッフを増やしていきました。
スタッフ募集については特に求人サイトを利用したりはせず、飲み屋やネットで偶然知り合った気の合うクリエイターと次の日から仕事をするというパターンばかりです。
僕はクリエイターの潜在能力を見抜くことには自信があり、その観点からすると今まで一度もスカウトで失敗したことはありません。
一時期8名ほどでやっていましたが、現在は僕含め4名がMETACRAFTに所属しています。
過去に在籍していたほとんどの人は、うちを卒業した現在も一緒に仕事をしています。
受託から自社サービスまで、RPGゲームのように仕事を進める「チーム」
ーメンバーの集め方も独特なんですね。では「METACRAFT」で手がけるお仕事は、どのようなものがあり、そしてどのように進めているのでしょうか?
受託制作と自社サービスの2パターンがあります。
まず現在ビジネスの軸になっているのは受託制作案件で、デジタルアートや動画制作、WEB制作などを、依頼を受けて行っています。
企画や提案段階から入ることが多いですが、すでにクライアント側に制作したいもののイメージがある場合それを丁寧にリスニングをして、フィジビリティの確認からカタチにするまでを全て、お手伝いさせていただいてます。
特に僕らとしては受ける仕事の分野を絞っているわけではありませんが、主にファッションやエンターテインメント、美容分野の案件をいただくことが多く、クライアントから直接依頼を受けたり、デザイン事務所など領域の異なる制作プロダクションから全体施策の一部のみ協力依頼をいただくことが多いです。
[受託制作事例1 -ロボットアームを使ったデジタル体験-]
上海/新天地のショッピングモールK11にて、GATSBY新商品のプロモーションイベントをプランニングから制作、実行するところまで全て担当しました(https://vimeo.com/372553617)。
ロボットアームを使用したビデオブースを制作し、商品体験とブランドプレゼンスを魅力的に演出。
ロボットアームは独自のシステムを開発し、iPadのボタン一つで起動、撮影、動画ダウンロードURL発効までを行っています。
商品体験とGATSBY公式wechatアカウントのフォローまで一連の流れを作り、フォロワー離脱率を15%以内(通常50%)に抑えることに成功しました。
[受託制作事例2 -アーティスト撮影-]
amazarashi Live Tour 2019 Blu-ray & DVD のジャケット、ウェブサイト上の写真をMETACRAFTで撮影しました(http://www.amazarashi.com/miraininarenakatta/)。
また、受託制作だけではなく、自社で独自のサービスを興すこともよくあります。
僕らはクリエイティブを生業にしているものですから、常に新しい文化、表現を発信していくことを使命とし、メディアやアートプロダクトをつくっています。
[自社サービス事例1 -WEBマガジンFATTY-]
FATTYは、「食(飲食店)にまつわる風景」を軸にしたスタイル・カルチャー・ビジュアルインパクトを発信するウェブマガジンです。(2020年2月公開予定)
[自社サービス事例2 -デスクトップアーケードゲーム機MEMEBOY-]
MEMEBOYは、デスクトップサイズのオリジナルアーケードゲーム機です。
主に飲食店やアパレル販売店向けに、その店のオリジナルデザインで制作しています。
ー大きく受託制作と、自社サービスで別れているのですね。それでは、それぞれの仕事の進め方、会社の制度などについても、もう少しお伺いしてもよろしいでしょうか?
METACRAFTは、代表社員である僕、総務、システムエンジニア、ビジュアルディレクターからなる4名のみで構成されている小さなチームですから、感覚的には会社というより、RPGのパーティーに近い気がします。
そもそも会社勤めをしたことがないため、普通の会社の普通の仕事の仕方というのがわかりません。
ただ、「定時出社はあるのか」、「どこに集まるのか」、「スタッフへの支払いは出来高なのか」ということをよく聞かれるのでお答えすると、定時出社はなく、必要に応じて事務所や現場に集まり、月給制です。
受ける仕事の内容によってはオンラインのやりとりのみで完了する場合もあるし、リアルで集まって進めた方がいい場合もあるし、それぞれの仕事状況やプライベートの都合もあるし…集まる場所も時間もそのとき次第です。
スタッフは各々で繁忙期にバラツキがありますが、それでも出来高ではなく月給制にしているのは、僕らは何でもつくれるが故に、仕事内容も依頼されるタイミングもランダムなので、対応できる機動力を常時確保しておく必要がありますし、単純に工数換算できない業務も多いため固定給制がわかりやすいのです。
これらは、明確なポリシーがあって決めたルールというより、”そういう仕事の進め方が、僕らにとって最も自然なスタイルだった”ということです。
全員が互いのプロフェッショナルやライフスタイル、案件ごとの見積もり内容、会社の経営状況などが見えている小規模の会社だからこそできるやり方だとは思います。
西條鉄太郎が大切にする「カオスと秩序の均衡」
ーありがとうございます。それでは西條さんがお仕事を進めていくにあたって大切にされている、常に意識されていることなどありますでしょうか?
利益率が高い、もしくは今後のポートフォリオとして有益な仕事にすること。チャレンジングな案件は、事前の綿密なフィジビリティ検証や代替プランの用意にも、きちんと時間をさくこと。常に最新技術や新たな表現手法について、学び続けること、考え続けること、新しい価値を世の中に提案し続けること…とか、クリエイティブ系の会社としてごく当たり前のことを大事にしていると思います。
ポリシーという側面からあえて言えば、「METACRAFTは、スタッフにとってもクライアントにとっても、生きるためだけの会社ではなく、幸福を得るための会社」だと思っています。
僕らにとっての幸福とは、”誰かに喜んでもらえる新しい何かをつくり、世に残す”ことです。それは僕らの存在意義であり、僕らの提供するサービスそのものでもあります。
「edge of chaos(カオスの淵)」という、複雑系や人工生命の領域で口にされる言葉があります。それはカオスと秩序の境界領域という意味で、そこでこそ万物の進化が起こりやすいと言われてます。クリエイティブにおいてもまた、カオスと秩序の均衡がイノヴェーションを起こすと僕は考えています。
METACRAFTのクリエイティブアウトプットは、多様でランダムで、カオスです。カオスであるMETACRAFTと、秩序とも言えるクライアントの要求をバランスさせ、斬新なアウトプットをともに創り上げ世に残すこと、それを常に目指しています。
ピンチの時にも助けてくれる社内外のネットワーク
ーそんな「カオスと秩序の均衡」を意識しながら、ギリギリを攻めている「METACRAFT」さんですが、「ピンチになった」「失敗してしまった」というエピソードはありますか?
そもそも何をもって成功とするかは自分で決めることですし、一時的に「ミスったな」と思う出来事はあっても、そこから軌道修正すればいいので、最終的に失敗したと思ったことはありません。
ただ、僕らのような零細クリエイティブ会社にとって最も難題で、トラブルになりやすいのはキャッシュフローです。
業界あるあるですが、例えば、クライアントの事情で入金日が予定からズレたり、受注予定だった案件が突然キャンセルになったりが運悪く連続すると、大変危険です。
もちろん一本の案件に頼り切らないだとか、契約書を整備するだとか、それなりに対策はとっていても…どうにもならない時だってある(笑)冗談のような不運が重なり、もはや八方塞がりとも思える状況に陥ったことが、実際に最近ありました(笑)
そうなると、自分のせいで大事な人たちを裏切るのではないか、積み重ねてきたもの全てを失ってしまうのではないかという、ハンパない焦りと無力感で、「マジで俺これ心労で死ぬんじゃねーか」って思うほど苦しくなりました。
ちょっとした目先の変化に一喜一憂し、体調を崩し、本来は自分のクリエイティブで周囲の人々を喜ばせるためこの仕事をしているはずなのに、逆に迷惑をかけてしまうだけなのではないかと、どうしようもなく情けない気持ちになりました。
愛してる人の顔や、スタッフの顔、その家族の顔が走馬灯のように頭の中を駆け巡りました(笑)そういうときに助けてくれる友人や先輩がいるかどうか、というのはものすごく大事です。
僕の場合、本当に困ったとき、国内外から励ましに集まって来てくれた、たくさんの友達に勇気付けられましたし、深くは聞かず即決でお金を貸してくださったり出資を申し出てくれる先輩もいました。
それまで積み重ねてきた信頼や人間関係の深度が、最終的には生死を分かつんだなと実感しました。そして、とにかく何度のされても立ち上がる精神力さえあれば、大抵の物事は前に進みます。
西條鉄太郎の「意思決定」方法と「すぐに行動する」ことの大切さ
ー直近にもそのようなハードな場面があったのですね…。そのような難しいピンチの時に、どのような考え方で意思決定をされているのでしょうか?
判断に迷う難しい問題であるほど、最終的には自分の直感に従います。
皆さんは人工知能研究における難題の一つ、「フレーム問題」をご存じでしょうか?何か問題が起きた際、解決に向けたアプローチの仕方や副次的リスクが発生する可能性は無限にあるわけですが、その全てをシミュレーションし検討しようとしても、それこそ無限に時間がかかり、意思決定が永遠にできなくなりますよね。ざっくりですが、これをフレーム問題と言います。
通常、人間は無意識的にそうならないよう、状況を観察し不要な情報や検討する意味のない可能性を排除し思考、意思決定しています。しかし、大事な問題であるほど、あり得ないような可能性まで考えすぎて、思考の迷路に迷い込み、脳もフレーム問題のような状態になってしまいがちです。
例えば、恋に落ちたとき、そうなった経験はありませんか?そんな時、あなたの周りの友達はきっと「布団の中であれこれ悩んでたってしょうがないだろ!さっさと告れよ!」と言うでしょう。
その通りなんです。それと同じで、あまり失敗を恐れず、まずはサイコロを振り前へ進むことの方が大事だと思います。
ーなるほど。「とにかく行動して前に進める」のが重要ということですね。最後になりますが、クリエイターを目指す若い世代へ、何か一言アドバイスがありましたらいただけますでしょうか?
人は誰しもが、元より”クリエイター”です。
だから職業としての、ユニークなプロクリエイターを目指すのであれば、まずは「私はプロのクリエイターです」と今すぐ名乗り、今すぐ「仕事ください」と言って、つくれるものを手当たり次第につくればいいだけじゃないでしょうか。
「ミスや恥を恐れないこと」が大事だと思います。
「まだ修行が足りないから」「決定権がないから」「恥をかくんじゃないか」「今さら始めてももう遅いよ」みたいな、つまらない言い訳を積立てたところで、無駄な時間が過ぎるだけで何も生まれやしません。
特に若い時ほど、相対的にミスをした際のリスクが少ないので試行回数も増やせるし、ライバルも少ないわけですから、大なり小なりミスと成功のキャリアを他人より多く積めて、それだけでも、周りからユニークな存在として扱われる確率が上がるでしょう。
華やかでかっこいい先輩たちだって、たくさん悔しい思いを経験してきたはずです。それでも前を向き、進み続けたことで、プロのクリエイターになったのです。
自らのプロフェッショナルやスタイルというものは、探求し続けること、研鑽(けんさん)し続けることで、いつの間にか形成されているものです。その道の到達点は自ら決めないといけないし、ブレたり迷ったりすることもあるでしょう。それでもたくさん悩み、考え続けることこそがクリエイターとして最大の仕事です。
自分に言い聞かせたい話になりました(笑)
ー最後にオチがつきましたね(笑)、ありがとうございました。
西條鉄太郎さんの仕事哲学をお伺いして
今回はファッションイベントや店舗向けのデジタルアート、CM映像などアート、広告をはじめとしてボーダレスに活躍する「METACRAFT」代表の西條鉄太郎さんにお話をお伺いしました。
一見、華やかに見える数々の仕事の裏には、「METACRAFT」立ち上げに到るまで、努力によってさまざまな問題を乗り越えてきたということが分かりました。そんな西條さんの言葉は、静かではありましたが仕事への情熱を感じる、とても熱い内容でした。みなさんも「まずやってみる」の精神でお仕事に取り組んでみてはいかがでしょうか?