犬と人が幸せに暮らすためにドッグトレーナーが教えたい3つのこと

犬と人が幸せに暮らすためにドッグトレーナーが教えたい3つのこと

今回インタビューするのは、新潟県佐渡市でドッグスクールを運営しながら、犬猫保護活動も行っているドッグトレーナーの山本絵里子さん。

動物を飼っている人たちにとっては「家族」と言えるペットたち。お互いが幸せに暮らし、その関係をより良くするためには、飼い主や、地域の人の意識の変化が必要だと彼女は言います。

警察犬訓練士の資格も所持し、犬の専門家として飼い主のいない犬猫に関わる山本さん。今回は特に「犬のためにできることは何か?」を中心に聞いてみました。

犬との出会いから、ドッグトレーナーになるまで

犬と人が幸せに暮らすためにドッグトレーナーが教えたい3つのこと

ー山本さんは、小さな頃から犬が好きだったんですか?

最初に犬を飼っていたのが小学校一年生で、その頃から犬が好きになりました。当時も漠然と「動物関係の職につく」イメージをもっていました。

そして、小学六年生のとき、道に捨てられていた犬を拾って飼い始めたのですが、そのとき「何で犬を捨てるんだろう」と疑問に思ったんです。そこからいろいろ調べて、殺処分される動物がいることを知り、犬により強く関心が向くようになりました。

ちょうどその頃、「盲導犬クイールの一生」という映画にも出会い、盲導犬訓練士に憧れたんです。そして仙台の「仙台第一警察犬訓練所」に入りました。

犬と人が幸せに暮らすためにドッグトレーナーが教えたい3つのこと

ードッグトレーナーになる一歩を踏み出したんですね。でもなぜ、警察犬訓練士を取得することになったんですか?

実は、警察犬には全く興味がなかったんです。でもある日、のちの師匠になる方が、当時通っていた動物専門学校に講師として訓練に来てくれたんです。その方が関わる時の犬の反応や、顔の輝き方、動き方が私たち生徒と全く違い、衝撃をうけました。「犬は関わり方でこんなに変わるのか!」と。

「この人の下で学びたい!」と思い、師匠のいる「仙台第一警察犬訓練所」で4年間修行をし、JKCの公認訓練士の資格を取得しました。その後、犬の訓練や資格試験を重ね、日本警察犬協会公認三等訓練士も取得したんです。

犬と人が幸せに暮らすためにドッグトレーナーが教えたい3つのこと

ー警察犬訓練士の資格を取ることになったのは、尊敬できる人との出会いがあったからなんですね。実際に警察犬の訓練士は需要があるんですか?

はい、佐渡にも警察犬がいて、トレーニングの仕事があります。ただ、以前に比べ、警察犬種(シェパードなど7種類)を飼う人が減ったので、メインのお仕事は家庭犬のトレーニングです。

「犬と人が気持ちよく付き合うために」飼い主にしてほしい3つのこと

ー犬と幸せに暮らすために飼い主にしてほしいことはありますか?

ペットにかける愛情は人それぞれです。私は、それでいいと思っています。でも、その上で飼い主だからこそできることがたくさんあります。今回は3つの点について説明をさせていただければと思います。

その1「終生飼養を考える」

私が、犬を飼う人に最初に考えてほしいのが、終生飼養(しゅうせいしよう)です。自分がもし亡くなったり、万が一に自分のペットを手放さなければいけなくなった時、誰にでも預けられるようにしていますか?実は、そこを意識しない人がすごく多いんです。

私は東日本大震災の時に宮城にいたことや、幼なじみが若くして亡くなったことをきっかけに「明日って当たり前にあるものなのではないな」と思うようになりました。

かわいがるだけじゃなく、自分になにかあった時、だれにでも託せるよう「自分が今飼っている犬が最後まで命を全うできる環境をつくる」のは飼い主がすべき最低限のことなんです。

その2「犬種に合ったしつけをする」

犬種によっては、飼いやすい犬と、ケアや、しつけが難しい犬がいます。でも、実際に自分がお金を出して飼うときは「自分がほしい」と思う犬を飼うことが大半だと思います。

しかし「自分が想像していたよりも、ケアやしつけが難しい犬だった」という場合に、しつけが中途半端になってしまったり、面倒を見きれなかったりする場合があります。その結果として、はじめに思っていた理想から外れてしまい、犬を手放すケースも多いんです。

保健所に連れて行かれた結果、「手が付けられなくなった状態」たとえば「一回噛んだ事例がある犬」など、譲渡できないと判断されて、殺処分対象にされてしまう悲しい現実があります。

ですから、犬を飼う時は、この犬は「自分にケアやしつけができるのだろうか?」と先のことまで考えて選んでほしいと思います。

ーしつけをすることが、犬の幸せを守ることにつながるんですね。

はい。子犬の時期にトレーニングをしないと、その結果として褒めてもらえる機会が減り、主張して暴れるようになってしまいます。

犬は、リーダーを必要とする本能があり、リーダーの不在は犬を不安にさせてしまうのです。ですから、飼い主がリーダーとして従順関係を築くことができれば、犬は安心できます。

犬と人が幸せに暮らすためにドッグトレーナーが教えたい3つのこと

ーしつけをするときの簡単なコツはありますか?

本当に簡単なことで「やりだしたら最後まで向き合うこと」です。一番いけないのが「お座り、お座り、お座り……やる気分じゃないか……」と、途中でしつけを終わらせてしまうこと。

しつこくてもいいから、そのコマンドをきちんとやらせて、褒めることまでする。褒められないと、従う喜びは育まれません。本能である服従心を上手に呼び出して、喜びを見つけると、「この人と一緒にいることが楽しい」と思えるようになり、飼い主との間に絆がうまれます。

その3「健康の管理や病気予防をする」

犬と人が幸せに暮らすためにドッグトレーナーが教えたい3つのこと

犬と幸せに長く過ごすためにも、健康管理と予防もしてあげてほしいです。ペット保険などペット医療も近年充実してきていますが、それよりも、病気を防ぐためにお水やご飯を変えるなど、今、その子にできることはたくさんあります。あとは、体中どこでもさわれる犬にしておくのが理想です。

例えば「犬の口の中を触れない」という飼い主さんがすごく多かったりします。この場合、いざ口の中に炎症が起こったとき、苦しむのを見ているだけになってしまいます。

ー予防の観点では、人にも同じことが言えますね。

そうなんです。そして、もっとも大きなポイントとして、人間と違って犬や猫は食べるものを自分で選べません。つまり「ペットの健康は飼い主に全てゆだねられている」ということです。

ですから、私自身もこの仕事を通して、犬との出会い方や飼い方、予防・ケアの仕方など、ペットを飼う人たちに正しい知識と健全な環境を知ってもらう機会を増やしたいと考えています。

犬と人が幸せに共存するために ~アニマルレスキューの現場から~

犬と人が幸せに暮らすためにドッグトレーナーが教えたい3つのこと

ー山本さんは、犬や猫の保護活動もなさっていますよね

アニマルレスキューdear PAWS(ディアパウズ)の活動を2018年11月に始めました。

ただ、シェルターなど保護する場所はもってはいません。それは後継者がいないうちに、万が一のことがあると、事業や保護した子たちを誰が引き継ぐかという問題が出てくるためです。ですので、今の自分たちの生活に無理のない程度に行っています。

とは言っても、保護団体なので「引き取ってほしい」という連絡はよく来ます。私は、「私共の団体では保護シェルターを保有しておりませんので、現状では保護は難しいです」と一回断ったうえで、「ゲージをお貸しするので、しばらくそちらで保護していただけませんか」と、相談します。

そうすると、私達がサポートをしながら、意外と自分でお世話をしたり、飼い主を探すことができることに気づいてくれます。そういう経験を通して、飼い主不明の犬猫と向き合ってくれる地域の人が増えるのが理想です。

こういった活動では周りの人達の協力が必要不可欠です。一時的に保護してくれたり、迷い犬の情報をSNSでシェアしたり、物資等の保護活動に関わる寄付をして頂く事も継続して活動していく上でとても助かります。

飼い主不明の犬猫の問題は、人間側の問題である事が多いので「他人任せにしない」意識をもってもらうことが大事だと思っています。

ーペットを飼う人の意識を変えるには、何が必要なのでしょうか。

実は、お子様のいるお家でペットを家族に迎えるとき、親の教育がすごく大事なんです。親がどうやって動物を飼っていたか、自分が「犬を飼いたい」と言った時に「親がどう対応したかが、ペットに対する意識をもつ基準にもなる」と考えています。

私の親は、犬を飼うことにしても、将来の夢を目指すときも、私がやりたいことを否定をしませんでした。「自分が決めたんだからちゃんとやらなきゃいけない」と考えられるようになったのは、親のおかげです。ですから、私も犬を通して、気づきやきっかけを、「たくさんの人に与えられるお手伝いをできればいいな」と考えています。

行動や意識の変化で、犬と人の未来は変わる

山本さんは、このほかにも学校訪問をして、ドッグトレーナーが普段どんなことをしているか、実際に犬に触れてもらいながら子ども達に伝える機会ももうけています。

子ども達にとっても、身近なドッグトレーナーとの出会いが、今後ペットと向き合う意識の変化や、将来を決めるきっかけのひとつになるかもしれません。

一人一人が犬や猫の問題をひとごとにせず、できることに気づいて行動していけると、ペットにやさしい環境がもっと広がり、人とより良い関係が築いていけるのではないでしょうか。

山本絵里子さん

犬と人が幸せに暮らすためにドッグトレーナーが教えたい3つのこと新潟県佐渡市出身。高校卒業後、専門学校で家庭犬の訓練を学び、その後宮城の警察犬の訓練所に入所。4年間家庭犬訓練、警察犬訓練、スポーツドッグなどの訓練を学び、2011年に地元佐渡でヤマモトドッグスクールを開業。犬猫保護活動「アニマルレスキューdearPAWS」の代表も務めるドッグトレーナー。
愛犬はラブラドールレトリバー「アルファ」、甲斐犬ミックス「賢」、トイプードル「あい」、愛猫 ハチワレ「オレオ」。

【有資格】
ジャパンケネルクラブ公認訓練練士
日本警察犬協会公認三等訓練士

この記事を書いた人

さかもとみき

1986年高知生まれ。広告代理店や旅館勤務を経て、現在は佐渡島でライター・恋愛コラムニストをしています。