「仕事も趣味も本気で楽しむ」地方のゲストハウスのリアルな本音と勝機

今回インタビューするのは、佐渡島でゲストハウス「Hostel Perch(ホステルパーチ)」を運営するオーナーの伊藤渉さん。

センスを生かしたリノベーションで作り上げた空間に、旅人や地元の仲間が集い、オフになると趣味のサーフィンを楽しむ。そんな夢とロマンが詰まった働き方をしている伊藤さんは、元料理人。ゲストハウスを始めると決めた時に、宿泊業の知識は0だったそうです。

そんな伊藤さんが、築70年の古旅館を改装し、エントランスにはカフェバーを構え、宿をオープンしたのが2018年7月。一泊3,500円から泊まれるゲストハウスの稼働率のリアル、見えづらい苦労や、今後の可能性について教えてもらいました。

経験知識0からゲストハウスを始めた理由

ー「ゲストハウスをやりたい」と昔から考えていたんですか?

いえ、実家が飲食店なので、自分も飲食の仕事をしていくんだろうなと思っていました。高校を卒業して3年ほど東京の寿司屋に修行に出たあと、佐渡島に戻って実家の飲食店で働きはじめたんです。

やってみたら接客も面白く、飲食業は自分に合っていました。でも、ふと「この仕事を一生やるのかな」と思うこともあったんです。

そんな中で、友達が来た時に気軽に使える安い宿がないことに気づいて、自分でやろうかなと思ったのが最初のきっかけです。

ー宿泊業の知識経験ゼロで始めたんですね。不安はありませんでしたか?

今はYouTubeとかでなんでもやり方が出ているし、知識0で新しいことを始める人もたくさんいる時代ですからね。

僕の場合は、ネットで自分がいいなと思ったゲストハウスを調べ、オーナーに連絡して「一回泊まりに行かせてください」って話を聞きに行ったりもしました。今も、そんな繋がりといろいろな情報から、悩みを解決するヒントを得ることもあります。

繁忙期と閑散期の実情

ー宿泊業は、繁忙期と閑散期の差が激しいというイメージがありますが、実際に運営されてみてどうですか?

うちの場合、オンシーズンとオフシーズンで、売上に5~6倍ぐらい差があります。オフシーズンには予約がガクッと減るので、怖い部分はありますね。

それで今シーズンの閑散期、カフェバーで「ランチタイムにカレーの販売」を始めたんです。これが効果的でした。そこまで大きな売り上げというわけではありませんが、ランチ販売がきっかけで宴会の依頼をいただけたり、寄ってくれるきっかけになったり、売上も前年より上がりました。

「空き家活用」や「民泊&ゲストハウス」の可能性

ーゲストハウスは宿泊できるだけでなく、ファンを増やしたり、新しい使い方を見つけたり、いろいろな可能性を探れる場所でもあるんですね。

ここは元旅館なので宴会場の大広間があるんです。そこで宴会をしたり、展覧会の提案もできます。ただ、冬期の欠航キャンセルや、今回のコロナの影響もあり、試行錯誤しながらもどうしても売上が見込めなくなることもあります。

基本的にオンオフの差が激しいので、常に一生懸命働くというよりは、抜くところは抜きながら工夫して運営していくのがコツなのかもしれません。

ーおっしゃるように、ゲストハウスをしているオーナーさんには、空いた時間は趣味を適度に楽しみながら、自分の理想の働き方をしているイメージがあります。

そういう部分は正直あります。ただ、金銭的には楽ではないですよね。そして、繁忙期はすごくハード。1年目の繁忙期の8月に不眠不休で戦ってたんですけど、「こんな仕事の仕方では体がもたないな」と思いました。

だから、2年目の8月は意識して休んだり、工夫したんですが、それでも前年比の倍ぐらい収益を上げることができました。ですからがむしゃらに働くのではなく、考えつつ調整してうまくやれたらと今は思ってます。

ーなぜそんなに収益がのびたのですか?

OTA(宿泊サイト)に評価コメントがたまって、泊まっていただきやすくなりました。この宿泊サイトにて値段を地域の最安にして、広告経費を抑えられたのも大きいですね。リピーターも来ていただけました。

また、貸し切りで同級会をやって、そのまま泊まってもらうなど自分が理想とする使い方をしてもらえたのも嬉しかったですね。

DIYは難しい?空き物件改装のメリット&デメリット

ー安く買って、DIYをしたりしながら運営していくイメージのゲストハウスですが、難しいなと思ったことは何ですか?

一番はお金をどうするかですね。新潟県の宿の平均稼働率ってオンオフが激しいんです。新潟市内のビジネスホテルで6割くらい稼働なんですけど、エリアによって稼働率のひらきがあって、新潟県全土での年間稼働率は約40%前後しかないんです。

佐渡も、どんどん観光客が減る中で、宿泊業を始めるということで銀行から借り入れをするのが難しかった。ゲストハウスを始める人のハードルはそこにあると思います。実際に、僕も10人中9人に「無理だ」って言われながら始めました。

ーどこにお金がかかるんですか?

この古旅館はたまたま安く出ていたので自力で購入することができました。でも、改装にはお金がかかりましたね。とはいえ、借りた額も普通の人がマイホームを建てるぐらいの金額です。

ただ、オープン前にトラブルで工事がだいぶ延びて、5月のオープン予定が、7月にずれ込んでしまった。3月末に仕事をやめたので、5カ月程無収入なのに、支払いはある状態。「悪夢みたいだな」と思う時期もありました。

間に合わないからできるところはDIYをしましたが、材料や、工具、時間も必要で、トータルで考えると頼むのとそこまで変わらないですね。完成後も住みながら変える部分もあるので、自分で工夫していく楽しさはあります。

ーゲストハウスを始めるにあたって、難しい手続きなど必要なかったんですか?

ここは旅館だったので用途変更なしで申請できました。都道府県条例も入ってくるので、ゲストハウスを始める時のルールは地域によって違います。新潟市は民泊特区だったり、大阪だと国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業(特区)だったり、地域のルールや強みの理解が必要です。

地方でゲストハウスをするときに大事なことや嬉しいこと

ーゲストハウスをやっていて嬉しいことはありますか?

旅を楽しむためにここで宿泊費を抑えつつ、いいものを食べるとか、佐渡でしかできない体験をしてゲストが喜んでくれているのを見ると嬉しいですね。

ヨーロッパからのお客さんはそのへんがうまくて、旅の仕方がスマート。雨ならこもって、晴れたら海辺をランニングしたりがっつり出かけたりと、自由で自然な楽しみ方をしてくれる。

ゲストに佐渡のいいところを教えてもらって、地元のいいところを再発見できるのも嬉しいです。

ー心地よく、安く、使い勝手がいいゲストハウスは旅を楽しむツールのひとつなんですね。

そうですね。ゆくゆくは「あそこに泊まりたい」って旅を決めるゲストハウスのファンが増えるのが理想です。

沖縄や京都には、明確なコンセプトやウリがあるブランド化されたようなゲストハウスがあります。そんなところを運営しているオーナーたちは、好きなことを形にしながらレベルアップしている。それを見ていると、羨ましいし、「めちゃくちゃすげえなぁ」と悔しい部分もあります。

ー地域によって、ゲストハウスにも個性があるんですね。ここだからできる運営もありそうです。

自分が佐渡の自然で遊んできて「ずっとここで暮らしたいな」と思ったので、旅の人にもこの土地の魅力を知ってもらう手伝いができる宿にしたいです。同時に、地元の子どもたちにもここだからできる遊びや働き方を見せていきたいですね。

僕ら世代が仕事も遊びもめちゃくちゃ楽しんでいないと、子どもたちが佐渡の可能性や魅力に気づけずに島から出てしまうと思うんですね。

今は少なくなりましたが、佐渡も昔は子どもたちがたくさんいました。ここに宿が復活することで「海パンのままで走っていく子どもの姿が久しぶりに見えた」ってご近所さんに言われたときはとっても嬉しかったです。

そんな感じで仕事も趣味も本気で楽しむ大人として、地域に根差しながら未来につながる働き方や遊び方をしていきたいですね。

佐渡の古き良き雰囲気を活かしたゲストハウスのオーナー伊藤さんの話をきいて

一見、自由でオシャレで、楽しそうなゲストハウスの運営。実際は、稼働率の低さや、改装や借り入れの難しさ、オンオフシーズンでの変動もあり、「常に安定して稼げる仕事ではない」と伊藤さんはお話しされました。

それでもゲストハウスは、ただ泊まるだけでなく「時間を過ごす」ことの提案が幅広くできる魅力的な場所でもあると感じました。オフシーズンは違う仕事をしたり、泊まる以外にも人が集まる機会を作ったり、オーナーももゲストも楽しめる方法はたくさんあります。

今後、地方で空き家も増えてくる中、「ゲストハウス」という「泊まれる何でも屋」には、旅の人も、地元の人も集える場としてのポテンシャルがある、そう感じました。

伊藤渉さんプロフィール

伊藤渉

1981年生まれ、佐渡島出身のゲストハウス、HOSTEL Perch(ホステルパーチ)オーナー。料理人を経て2018年7月に地元佐渡で古旅館を改装したカフェバー併設のゲストハウス、HOSTEL Perch(ホステルパーチ)をオープン。「旅先での出会いとゆったりとした時間」をコンセプトに、旅の人や地元の人が集う場所づくりをしている。
趣味はサーフィン。

この記事を書いた人

さかもとみき
1986年高知生まれ。広告代理店や旅館勤務を経て、ライター・恋愛コラムニストをしています。