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目指すは究極のスタンダード。豚野郎、倉持信宏の豚肉へのこだわり

今回インタビューさせていただいたのは、茨城県にて養豚・精肉加工品販売を手がける山西牧場代表取締役である、倉持信宏さん。山西牧場の豚肉は豚特有の臭みが少ないのにコクはあり、さらりとしていることから「飲める脂」とも呼ばれています。豚が好きなあまり「豚野郎」とも呼ばれる倉持さんに、豚肉へのこだわりや販売する上で大事にしていることをお伺いしました。

1人あたり1000頭の豚を管理!?茨城県の山西牧場

目指すは究極のスタンダード。豚野郎、倉持信宏の豚肉へのこだわり

ー養豚場を営んでいるということですが、改めて事業内容を教えてください。

山西牧場として、茨城県で養豚業を営んでいます。豚を7000頭ほど飼っていて、交配から出荷するまでが主な養豚業の仕事です。加えて、茨城と東京に出荷したのち、豚肉を買い戻して加工したり、精肉を販売しています。

ー育てた豚をそのまま加工するわけではなく、出荷した豚をわざわざ買い戻しているんですか?

豚がきちんとした検査を受けて許可が出ないと、販売することはできないので、出荷した後に買い戻す必要があります。買い戻した豚に加工をして、現在は茨城と東京の市場に出荷しています。

ーそのような決まりがあるんですね。山西牧場はどのような形態で経営しているのでしょうか?

山西牧場は代々に続く家業で、現在は私が代表を務めています。全体では十数名で経営していて、養豚場の中でも豚の繁殖部門や離乳部門と担当が分かれています。さらに柵の修繕作業や電気周りの管理をする営繕作業や運送を担当してくださる方などもいるので、実際に豚の世話をしているのは実習生を含め7人くらいですね。

僕は現場にも顔を出しますが、主にECサイトの運営や新商品開発に力を入れています。

ーということは、7人で7000頭の豚を飼育しているんですか?1人あたり1000頭の豚の世話をするなんて想像できません…!

想像ができないですよね(笑)。もっと多くの豚を飼育しているところもあると思いますが、餌もパイプから落ちるように機械化されているので、毎日1頭ずつ何かしなきゃいけないという事ではありません。

目指すは究極のスタンダード。徹底した”良い餌”へのこだわり

目指すは究極のスタンダード。豚野郎、倉持信宏の豚肉へのこだわり

ー続いて、山西牧場のブランドについてもお伺いしたいです。

山西牧場には農場直送の精肉ブランドである「三右衛門(さんえもん)」と三右衛門豚の加工品ブランド「3 é mon」があります。もともと三右衛門は家系で代々と受け継がれてきた人の名前だったのですが、祖父の代で途絶えてしまっていました。

この名前を私自身ではなく豚肉に名付けて生き返らせれば、先の未来にもつなげていけると思ってブランドに名付けたんです。

精肉ブランドである「三右衛門」と加工品ブランド「3 é mon」、どちらも読み方は同じですが、精肉は上の世代が作ってきたものを受け継いでいるので、これまでにあった漢字表記に。自分たちが作っていくベーコンやハムなどの加工品には、職人・手作り・あたたかさという意味を込めたCraftを付けて「3 é mon CraftPork」としています。

ーブランド名として名付ければ、商品がなくならない限りは途切れることがないですもんね…!では精肉ブランド「三右衛門」のこだわりから聞かせてください。

1番は豚の餌にこだわっています。肉の美味しさの決め手は脂であり、豚の食べたものが体(豚肉)を作ると考えているからです。私はよく「究極のスタンダードを作りたい」と考えており、特徴がなくとも美味しい豚肉作りにおいて「良い餌を取り入れること」に重きを置いています。

自分たちが生産のプロなら、餌のプロは別にいるので、飼料会社の方と相談しながら指定配合の餌を注文しています。

ー餌にこだわると聞くと特殊な成分が入ること想像をしてしまうので、特徴がないというのは意外です。

大きな特徴はありませんが、餌についてはとことん良質な餌にこだわっています。必要なところできちんとコストをかけることは大事ですからね。

また、豚は汗腺がないので暑い夏はバテやすくなってしまったり、冬の寒い時期にはよく食べるようになったりと四季によって生活スタイルが変わってきます。定期的に餌の配合を調整することは欠かせません。

また、一般的に豚の餌はサラサラして粒度のあるもののイメージがあると思いますが、弊社では「リキッドフィーディングシステム」と呼ばれる、水に溶かしてお粥のような状態で与えているんです。そうすると夏場でも水を飲む感覚で食べられるし、吸収の効率が良くなっています。

ーとにかく良い餌、美味しいお肉を突き詰めていますね。

大規模の養豚場だと多くの人にお肉を届けるという、また違った使命があって、生産性がより重要になってくるかもしれません。それも正しいことですが、わたしたちはこの規模だからこそ、良いものを作ることが大事だと思っています。良いものを作るためには餌が重要で、削ってはいけないところだったんです。

ー続いて、加工品ブランド「3 é mon CraftPork」のこだわりを聞かせてください。

加工品に関しては、絶対に現場に出向くようにしています。ハムを勉強するために、実際に工場で働かせてもらったこともあります。

やっぱり工程を見ることでわかる苦労やこだわりが多くあります。例えばベーコンだったら、一般的には機械を使って調味料を注射して味付けしますが、今販売しているものは塗り込むようにしています。

そのため、味が浸透するのに時間も手間もかかる上、量も多くは作れません。「ベーコン1kg1万円で販売している」と言葉だけ聞けば、高すぎると感じる方もいるかと思います。でも手間を含めた工程やこだわりをきちんと説明すれば、納得してもらうことができるんです。

出来上がったものだけ見て売り込んでも、良さを伝えることはできません。よく企業の研修で新入社員が工場見学しているように、販売するなら工程をきちんと知ることが大事なんです。

徹底した買い手の目線がファンを生み出していく

目指すは究極のスタンダード。豚野郎、倉持信宏の豚肉へのこだわり

ー山西牧場のお肉はECサイトで販売してもすぐに売れ切れてしまうことが多く、ファンやリピーターさんも多いですよね。人気の秘訣は何だと思いますか?

例えばECサイトで購入する時に決済画面に移ったら消費税が乗って、送料も乗って、となると「やっぱりいいかな」と思ってしまうお客様もいると思います。なので表示は税込にして、送料も基本は500円で統一しています。(北海道九州沖縄離島は除く)

そうして少しずつではありますが、お客様側の心の障壁を減らしていけたら良いなと考えています。

自信を持って良いものだと言えるのに、売れなくて悔しい思いをしてきたこともあるからこそ、どうしたら知ってもらえるか、どうしたら手に取ってもらえるかは工夫していますね。

ーどうしても生産者側と消費者側で目線が異なってしまうものだと思いますが、買い手目線を徹底されていますね。

そうですね。購入してくれたお客様との対話も大事にしていて、挙げていただいた声はできるだけすぐに取り入れるようにしています。現在、精肉と塩やマスタードなどの調味料をセット販売しているのですが、これは「おすすめの調味料はないの?」とお客さんに聞かれたことがきっかけでした。

商品は自分の好きなように作らせてもらっているので、その分売り方においてはお客さん目線を1番重視していますね。「飲める脂」「豚野郎」といったキャッチコピーも自分で考案したものではなく、お客さんとの対話の中で生まれたんです。

ーお客さんに販売する中で印象に残っていることはありますか?

大事な節目のタイミングに使っていただいたり、大切な人に食べさせてあげたいというエピソードを聞くとすごく感動しますね。結婚式の引き出物に「山西牧場のレトルトカレーを使いたい」と言われたこともあります。

他にも「いつも黙ってご飯を食べる彼氏が、山西牧場のお肉を使った時は顔を上げてすごく美味しいって言ってくれた」とか。それは買ってくれた方の愛情が伝わったからだと思いますが、その媒体に使ってもらえたことが嬉しいですね。

ーとても心がほっこりするエピソードをありがとうございます!最後に、山西牧場の今後の展望を聞かせてください。

今は精肉や加工品の販売をメインに行っていますが、豚の革を使ったプロジェクトも進めています。豚の皮はほとんど値段がつきませんので、豚のすべてに価値を生み出したいと思い、豚革のパッチを採用したエプロンを制作しています。

われわれは面白い取り組みをしていきたいとは思いますが、商品を有名な豚肉にしたいわけではなく、規模を大きくしたいとも考えていません。美味しい豚肉を作る、この一言に尽きます。「美味しい豚肉って言ったら山西さんだね」と言ってもらえるような、愛され続けるものを作っていきたいです。

山西牧場 倉持信宏さんインタビューを終えて

妥協しない豚肉へのこだわりと徹底したユーザー目線で、美味しい豚肉を届けたいとまっすぐな気持ちがひしひしと伝わってきました。豚の価値を余すところなく生み出す姿勢に、豚への愛情も感じます。山西牧場の豚肉を食べてみたいと思った方はぜひオンラインストアものぞいてみてくださいね。初めて食べる方はバラや肩ロースがおすすめだそうです!

倉持 信宏さんプロフィール

目指すは究極のスタンダード。豚野郎、倉持信宏の豚肉へのこだわり株式会社山西牧場 代表取締役
1990年生まれ。明治大学農学部卒。卒業後家業の山西牧場に籍を置いた上で農場勤務、1年のスペイン留学。帰国後ハム工場での研修を経て自社生産豚肉の販売事業・OEMでの加工品製作に着手。2018年5月に自主制作での自社サイトおよびウェブショップを製作しwebでの販売を開始。2019年、自社サイトリニューアル、リブランドを目的としたクラウドファンディングを実施後、2020年3月に農場直送ブランド「三右衛門/3 é mon」を立ち上げて今に至る。

山西牧場オンラインストア(https://yamanishifarm.com/

この記事を書いた人

伊藤 美咲
ステキな人やモノを広めるフリーライター。1996年東京生まれ、東京育ち。関心のあるジャンルは働き方・ライフスタイル・美容・邦ロックなど。