プロポーズアドバイザー土屋道照さんに聞く「プロポーズにかかる費用と成功させるコツ」とは?

今回インタビューするのは福井のジュエリーショップ社長、土屋道照さん。ブライダルジュエリーアドバイザーでありながら、「プロポーズ男子」を増やすべくプロポーズ・アドバイザーも行っています。

土屋さんが仕掛けるのは「エモいプロポーズ」。

プロポーズのあるなしで結婚する男女に意識の差がうまれることを知った土屋さんは、プロポーズの重要性を再確認し、プロポーズ男子の育成に力をいれています。

婚約指輪ではなく男性が買いやすい「プロポーズリング」の提案と、「プロポーズリング」のネット販売とその反響、「プロポーズ男子」の背中を押す活動を行うきっかけ、そしてプロポーズを成功させるためのコツやリアルな費用のお話まで詳しく教えてもらいました。

ジュエリーショップで「プロポーズ」に注力したきっかけ

プロポーズアドバイザーにきくプロポーズにかかる費用と行う重要性

日本のプロポーズ文化には「ひとりよがりにならない視点」が必要

–プロポーズアドバイザーって、どんなことをされるんですか?

一言で言えば「プロポーズの応援」をしています。ところで、プロポーズの定義ってなんだと思います?

–結婚をしようとする相手に対して「結婚してください」と伝えることでしょうか。

僕の定義としては「プロポーズを彼女に伝えて、喜んでもらう」ことで、はじめてプロポーズだと思っています。日本はお見合いして祝言をしてきた文化なので、プロポーズの文化がもともとはなかった。それで仕方ない部分もあるのですが、プロポーズってひとりよがりなものになりがちなんです。

そこで、「ひとりよがりにならない、相手に喜んでもらうプロポーズ」を増やすべく、なぜプロポーズが必要なのか?どうすれば喜んでもらえるのか?などをちゃんと教えた方がいいと思って、プロポーズアドバイザーを名乗るようになりました。

–そもそもジュエリーショップでプロポーズを後押しするようになったのはなぜですか?

もともと実家が福井県の問屋で、父親は宝石店を構えていました。お店を継ぐつもりで大学卒業後にアメリカでG.I.A G.G.(米国宝石学会鑑別士)を取得したあと、東京で10年ダイヤモンド輸入や販売に携わり、福井に戻ったんです。

実家は問屋だったのに、三代目になった自分は親とケンカしながら小売店を構えました。でも、そのとき10年後を考えると独自の販売ルートを持つことも考える時期が来ていると思ったんです。

–時代に合わせた変革のひとつですね。

実際、ハイジュエリーは嗜好品なので売上が安定しません。それで、好き嫌いが関係なく宝石を買う機会といえば「ブライダル」だなと。大手が地方にもチェーン店を出してくるということは、市場そのものはあると考えました。ただ、真っ向勝負じゃ宣伝力や知名度で勝てません。

そこで、地域に根付いた方法を探ろうと、行政の婚活のボランティアなどに参加しました。一年ほどボランティアで婚活支援の仲人をする中で、婚活を行う方の理想やご本人の性格と、マッチングの内容にはギャップがあり、その差をすり合わせるコンサル的な関わりも必要だとわかってきました。けれども、ボランティアで行うには限界がある。婚姻数をあげることは難しいのだと身をもって知りました。

その経験を経て、「婚姻数をあげるための婚活支援って、相手を探すところからではなく、すでに彼女がいる男子への後押しでもできるんじゃないか?」と視点をずらして考えてみたんです。

「彼女はいるけど、結婚に関して悩んでいる、プロポーズを決めかねている」という男性に、女性の結婚に対する考え方とか、妊娠適齢期の話を含めて、「一度真剣に結婚のタイミングを考える」というきっかけを与えることで、結婚を正しくすすめることのほうが婚活支援になるなとじゃないかと考えました。

男性の心理的ハードルを下げるプロポーズリング

プロポーズアドバイザーにきくプロポーズにかかる費用と行う重要性

–なぜ単価の高い婚約指輪ではなく「プロポーズリング」の販売を始めたんですか?

ブライダルに関していろいろと調べたら、プロポーズする人の割合がそもそも少ない。株式会社LIGさんのアンケートでは、結婚する時に「プロポーズされたい」と考えている女性は96.7%と出ました。でも別のアンケートでは「プロポーズされなかった」という女性の割合は59%(※1)となっています。

そして、既婚の8割近くの男性が、プロポーズをしなかったことを「後悔していない」(※2)と考えている。既婚のプロポーズされなかった女性の約8割が「後悔している」(※3)という実態が、調べていくうちにわかりました。

(※1、※2、※3はアニヴェルセル株式会社さんアンケート結果より

結婚届を出す段階でもうこんなに意識のズレができてしまっている。そんなデータを見つけて、「プロポーズの重要性」に気づいたんです。

男性がプロポーズを諦めてしまう原因で多いのが、「婚約指輪」を用意する段階です。プロポーズをしようと思ったら、箱パカ(指輪の入った箱をパカっと開けて指輪を渡すこと)の指輪が必要ですよね。でも、男一人で宝石店に行くということ自体、ハードルが高いんです

実際に行くとしても、彼女の指のサイズも好きなデザインもわからない。そんなものに対して20~35万円位と指輪の価格は高い。この段階でプロポーズをするつもりはあるんだけど諦めて、目を背けてしまう人が多いんです。

–女性がしてほしい箱パカ&プロポーズはそうやって断念されているんですね。

そのミスマッチを解消できるのが「プロポーズリング」だと思ったんです。私どもで扱う「オルコス」というブランドのプロポーズリングなら、価格が2万円前後。約50種類位の中から彼女に似合うものをえらぶことができます。プロポーズが成功した後は2人の証明として飾ることもできます。

プロポーズリングは、「男性のプロポーズのハードルを下げる」ことと「プロポーズが成功したら、彼女の好みでサイズぴったりの間違いない婚約指輪を選ぶことができる」という2つの利点があるんです。あとで婚約指輪を選ぶとき彼女に確認したほうがいいのは、デザイン(ダイヤの大きさ)とブランド。今は0.2ct前後が多くなっています。

–地元だけでなくネットで全国に向けても販売されていますよね

そうなんです。3年ぐらい前、メディアでプロポーズリングが取り上げられ、ネット検索から問い合わせがありました。「郵送もしますよ」って伝えたのですが、その男性が福井の僕の店に仙台から買いに来てくれたんです。交通費も時間もかけて、わざわざ2万円のものを買いに

「なんで?」ってきいたら「2人とも旅好きでネタになるし、彼女もこの話をしたら喜ぶと思って」と彼が言って、「ああ、すごくエモいな」って思ったんです。そのあとも他県からの来店が多くありまして、福井以外にも需要があるなとネット販売を始めました。

–福井から全国展開へシフトしたんですね。

福井だけだと婚姻数は年間2800組位です。全国では59万組とマーケットは約200倍になります。それで来店しなくてもネットから買えるようにしたんですが、店頭でも売れ続けたんです。

お客様の話をきく中で、独身男性は「そもそもプロポーズリングって何?」からはじまり、婚約指輪と結婚指輪を混同していたり、「結婚するには、絶対にプロポーズしなきゃいけないですよね?」と結婚までの流れについてを聞かれたりもします。結局、プロポーズや婚約指輪の話を一から説明して教えることが多かったのです。

それなら「プロポーズをしようかな」と思ってる男性に向けて、エモいプロポーズリングの使い方を伝えたり、話をきき、背中を押す役割をしたりする中で、改めてプロポーズがきちんとできる男性を増やす役割も必要だなと気づいたんです。

男性がプロポーズに全力を注ぐべき理由

–プロポーズリングはプロポーズしてほしい女性の味方ですね。

実は、プロポーズって男性本人にとってもすごくいい機会なんです。プロポーズって、男性が人生でする大勝負のひとつじゃないですか。

プロポーズは、どんなに男性がかっこよくても、成功するとわかってる状況でも緊張します。で、ちゃんとプロポーズすると、男性の自己承認欲求も跳ね上がる。仕事でも同じですが、リスクを負う経験ができると人は成長します。プロポーズができると、彼女にも信用されるし、周りからの評価もあがり、応援される。もちろん自信もつきます。

「エモいプロポーズ」を成功させるコツ

プロポーズアドバイザーにきくプロポーズにかかる費用と行う重要性

–プロポーズの相談に多くのってきたと思うんですが、成功させるコツってありますか?

「君しかできない」まず、これを男性に伝えています。僕はヒントと手順を教えるだけです。その上で、エモいプロポーズはプロセスを大切にします。

コツ1. 自分で考え用意する

プロポーズの準備は、できるだけ自分でする方が気持ちも伝わります。シチュエーションを考え、アイテムや小物を手配し、どこでスーツを着るか、どの場面で伝えるかなどをきちんとプランニングします。ひとりよがりにならず、「彼女が喜ぶ」を軸に考えて用意することが大事です。

コツ2.彼女が喜ぶプロポーズタイミングを考える

男性は、「結婚は自分のタイミングでいきたい」人が多いけど、長いカップルほど実は温度差が生まれてしまって成功率が下がりがち。本当は女の子から、結婚の圧がかかっているうちに結婚したほうが良いんです。

プロポーズの日取りも彼女の誕生日にする人が多いけれど、誕生日の前日にするのもおすすめ。お祝いしたい時に連休もとりやすいんです。他には、バレンタインも本当の意味を知るとプロポーズにピッタリ。あとは地元の花火大会の日なども数年後、子どもと行くお祭りで「ここでプロポーズしたね」って話しもできて、すてきですよね。

コツ3.スーツを着る

プロポーズにはスーツを着ましょう。女性にとってもスーツをビシッと着こなす男性は2割増しに見えます。本気度も伝わるし、本人の気持ちも盛り上がります。

コツ4.手紙を書く

最後、なんといってもプロポーズでは言葉が大切。ただ、残念ながら形として残らない。だから手紙を書いてほしいです。自分と彼女の今までとこれから、感謝など、2人の関係を振り返りながら何度も下書きをして清書することで、言いたい事が頭の中に入ります。これがとても大切です。

なぜならプロポーズっていざ行うときには、とても緊張するものです。そんな緊張の中で、書いた手紙の内容を、彼女の目をちゃんと見て伝えることになります。ですから「言いたい事を頭の中に入れておく」ことはとても大切なんです。

もし言いたい内容が飛んでしまっても、手紙はプロポーズが終わったあとに「手紙を書いてきた。恥ずかしいから家で読んで」ってちゃんと渡せる。手紙は、男性が手紙を書くっていう行為そのものが少ないからこそ女性にも響くし、意味のあるすごくエモいアイテムになるんです。

ナシ婚時代の「プロポーズ」の重要性

プロポーズアドバイザーにきくプロポーズにかかる費用と行う重要性

–土屋さんは「結婚して幸せになるためのプロセスをちゃんと踏む」ためのお手伝いをされてるんですね。ナシ婚がすすむ今、大切なことはなんですか?

カップルによっては金銭的に難しい部分もあるでしょうが、とりあえずプロポーズはちゃんとしてほしい。予算がないからと全てを無くすのではなくて、きちんと「結婚しよう」「はい」のやりとりをすることですね。

実際プロポーズにかかる費用は?

–2人が納得する形を模索していける関係が理想ですね。実際プロポーズするとしたら、どれくらいの費用がかかるのでしょうか。

プロポーズリングを用意するなら2万円(税別)前後です。成功したら、一般的な婚約指輪を彼女と選びに行くわけですが、僕は年齢×1万円位がいいかなと思っています。20代ならば20万円位~、30代ならば30万円位~という目安ですね。

ちなみに、婚約指輪は女性から男性に「お返し(半返し)」をする習慣もあります。そのお返しではオーダースーツや腕時計、財布などが返ってくるので、20万円位~を予算に考える方がいいと思います。

たとえば向こうのご両親とオーダースーツを一緒に選ぶことができればは、冠婚祭でも着られますので、相手のご両親も喜んでくれるかと思います。なにより彼女のご両親との絆がつながるツールにもなります。

婚約指輪と結婚指輪のセットもありますね。結婚指輪はペアで20~30万円前後なので、彼女と一緒に考えて式の2ヶ月前には選んでくださいね。

–プロポーズリングだけでなく、婚約指輪も必要なんですね。

彼氏に悪いから「婚約指輪はいらない」っていう女性もいます。でも、彼女のお父さんたちからすれば、気を遣わせたり、何も用意できない人に娘をあずけるのは不安ですよね。どうしても「婚約指輪はもらったの?式は?」と、親も本人も、良くも悪くも周りに聞かれます。

婚約指輪は結納品だから相手のご両親から半返しがあるように、向こうの両親に示すけじめでもあるんです。婚約指輪じゃなくてもいいんですが、婚約に関して両家の親が安心できる、贈り合うのにふさわしいものかどうか考えて下さい。

プロポーズを女性がしてほしい理由とは

–女性的には男性の「覚悟」が見えるプロポーズ。ぜひできる男性が増えて欲しいですね

そう、女性はプロポーズで男性の「覚悟」が見たい。じゃあなぜ結婚に男性の覚悟がいるのか。それは、今の籍を抜いて名字を変えていいか、2人の子どもを産むために十月十日、妊娠して死ぬ思いをして出産し、育児にこれからの時間をかけていいか、その間キャリアストップしていいかどうか……。

そんな風に女性は、結婚でおこるだろう変化を考えざるを得ない。だから「あなたの覚悟をプロポーズで見せてほしい」と思っているんです。

–結婚を決めるには女性にも男性にもおなじように覚悟が必要なんですね。

男性はこういったことを知ることで、女の子に優しくなれます。彼女が子どもがほしい、結婚したいと思っているなら、彼氏はちゃんと向き合い、考える機会をもってほしい。

プロポーズをして幸せな結婚をする人を増やしたい

–彼女との結婚に向き合い、行動できるプロポーズ男子を増やすことが大切なんですね。

結婚にまつわる段取りをめんどくさがる男性が増えているようですが、それは女性の目に見えない「不満」に直結します。お互いのあいだに温度差を生み、最悪は離婚につながりかねません。幸せな結婚生活をスタートさせるためにも、プロポーズの重要性を見直してほしいんです。

–全国にもプロポーズ男子が増えてほしいですね!

そうなんです。福井にいる自分一人では限界があるなと、プロポーズに特化した新しい試みも始めました。その一つが、恋人から夫婦へのステップアップをお手伝いする「プロポーズを考える会」です。

恋愛のプロ、ブライダルフォトグラファー、結婚への物語を紡ぐライフストーリー作家さんなど4人のプロが集い、相談者のプロポーズへの不安や彼女へのアプローチなどの相談にのっています。

プロポーズって、やる人も、関わる人もいいことしかないんです。だからこれからも、全国のプロポーズプランナーさんやブライダルに関わる人ともプロポーズ男子を増やす取り組みを一緒に広げていきたいと思っています。

土屋道照さん

プロポーズアドバイザーにきくプロポーズにかかる費用と行う重要性ジュエリー土屋 代表/G.I.A G.G.(米国宝石学会鑑別士)/【オルコス】プロポーズリング・ディレクター/『彼女に伝える想い。』ライター/

30代前半まで東京のダイヤモンド・カラーストーン輸入商社に勤務。実家の宝飾問屋業を継ぐため帰郷し、ブライダルジュエリーサロンを開業。 行政を含めた様々な婚活事業にボランティアで携わりながら、プロポーズ待ちの彼女がいる男性の背中を推すことも婚活ということに気づき、【オルコス】プロポーズリングを開発。実店舗でプロポーズ男子と対話していく中で、プロポーズの相談や応援の重要性を再認識し、2019年4月ネット販売開始と同時にとして活動スタート。

この記事を書いた人

さかもとみき
1986年高知生まれ。広告代理店や旅館勤務を経て、ライター・恋愛コラムニストをしています。