平川地一丁目・林龍之介にきく「好きなことを続ける大人」になる方法

今回インタビューするのはミュージシャンの林龍之介さん。小学6年生でギターを始め、地元佐渡のカウントダウンライブに出場するため、弟と2人でギターデュオ「平川地一丁目」を結成しました。

ライブ後は、ソニーミュージックオーディションで賞を獲得。のちに斉藤和義プロデュースのシングル「とうきょう」でメジャーデビューをし、本格的な音楽活動をはじめます。多感な学生時代に音楽という仕事をしながら過ごした彼らですが、龍之介さん20歳の時に一度デュオを解散し、音楽から離れる選択をしました。

その後、2019年12月に再結成を発表。2020年には13年ぶり4枚目となるアルバム「時のグラデーション」がリリースされ、配信ライブや新しい曲作りを精力的にされています。今回は、龍之介さんが過ごした「空白の10年間」と、再度音楽の仕事に戻ってきた理由、好きなこととの向き合い方を教えてもらいました。

「音楽が仕事になる」ということ

平川地一丁目・林龍之介にきく「好きなことを続ける大人」になる方法

–小学6年からギターを始めたということですが、どういうきっかけで音楽が仕事になっていったんですか?

当時、なにかに挑戦したくて、ひとりじゃ心細いから弟を誘って地元・佐渡金山のカウントダウンイベントに出たんです。その頃、家庭環境の問題があり、「自分たちが有名になれば、うちの状況も変えられるんじゃないか」と子どもながらに思ってオーディションに応募したんです。

それで、実際に受かってから、学生時代は金銭的な理由もあって音楽をやらざるをえない状況が続きました。音楽があったから、僕らは高校にいけたり、弟は専門学校もいけたんです。

–音楽が好きでというよりは特殊な家庭環境の中で「仕事として音楽をしていた」側面があったんですね。

そうです。でも、活動していく中で、音楽を好きになっていく瞬間がありました。

ライブでの反応だったり、僕らの歌に「勇気づけられた」とか、「誰にも言えない気持ちをうたっていてくれた」というファンレターを読んで、「音楽ってすごいな」と思えたんです。それは予想してなかった結果でした。

僕らは「家庭環境が変われば」と思って音楽をやっていたんですけど、全く知らない方々とのつながりが音楽によってうまれて、そのつながりにすごく僕自身が支えられた。それが音楽にのめりこむきっかけになりましたね。

–音楽が家族や自分たちの人生を変えたんですね。ずっと続けたいとは思わなかったんですか?

やりがいがある反面、10代の頃は「夏休みに友達に遊びに誘われてもいけない」など、音楽に縛られている時間がだんだんストレスにも感じられるようになりました。そもそも、僕らが音楽をやると決めたのが家庭環境によるものだったので、正直、「はやく自分の人生を歩みたい」という気持ちがありました。それで、僕が20歳になって音楽を辞めたんです。

音楽をやめた間にしていた仕事は

平川地一丁目・林龍之介にきく「好きなことを続ける大人」になる方法

–そうやって音楽から一度離れたんですね。やりたいことはあったんですか?

弟は理容専門学校に、僕は…特にやりたいものがあったわけじゃないんです。それでも、人生経験を増やしたいという思いは持っていました。

僕の音楽は、自分の経験から感じたことを書くスタイルだったので、10代の頃は自分を削る感覚がありました。その「経験から感じたことを書く」ということを通して、自分には経験が圧倒的に足りないと感じていたんです。もっと広い世界を知りたい、一人の人間として経験をつみたいと思っていました。

–実際にどんな仕事についたんですか?

最初は横浜でレストランとバーテンダーをかけもちでやりました。そのあと、映画の『UDON』に影響されて香川で泊まり込みのうどん修行をしていたこともあります。

あとは、不動産の売買。知り合いのサッシ屋さんで働いたり、クラブで働いたり、音楽業界の新人発掘やスカウトマンをしたり…。「経験」が目的になっていたので、今、振り返るとすごく青いまま20代をすごしたなと思います。

再結成してリスタートした理由とは?

平川地一丁目・林龍之介にきく「好きなことを続ける大人」になる方法

–たくさんの経験をつんだのですね。そして10年の時間を経て、再結成したことにはどんな心境の変化があったのでしょうか。

音楽から離れることによって「音楽の力」に気付いたんです。

自分が今までやってきた音楽と全然関係のない音楽で人と通じ合えたり、社長さんや歳の離れた方とも音楽の話でうちとけられたりしたことで、音楽が身近で人にパワーをくれるものだということに気付いたんです。 世界中でも音楽がないところはないくらい、音楽はどこでも、誰にでも寄り添ってくれる。 同時に、自分が狭いところにいたことも実感できました。

人がどういうことで悩んでいて、その人が励まされる音楽もある。なんで励まされるのかを客観的にみることによって、「また音楽をやりたい」というエネルギーに変わってきました。

ちょうどその頃、プライベートでは離婚して間もなかったし、何の目標もなかった僕を見かねて、弟や事務所を立ち上げてくれた友人が「音楽またやらないの?」と声をかけてくれて、再結成を決めました。

–離れることで音楽を客観視できて、改めて音楽と向き合いたくなったんですね。そして「平川地一丁目」に戻ってきた。

僕自身はロックが好きで、他にもクラブミュージックに影響を受けたり、いろいろなものをつくれるようにもなりました。

でも、それを仕事にしたいとは思いませんでした。経験を積んで自分がパワーアップしたからこそ、やっぱりちゃんと音楽をやろうって思った時、平川地一丁目らしい音楽をしたいなと思えたんです。

–再結成を決め、すぐアルバムをリリースするなど精力的に活動されてますね。再結成直後の「時のグラデーション」はどんなアルバムですか?

平川地一丁目・林龍之介にきく「好きなことを続ける大人」になる方法

再結成後にリリースした「時のグラデーション」はみなさんに久しぶりに届ける作品だったので、解散してからの過去を振り返るようなアルバムでした。

テーマは「時間」で、解散してからの流れを感じられるようなものになっています。ノスタルジックで「懐かしい、でも新しい」そんな風に感じられるアルバムになっていますね。

「好きなこと」を続ける大人になってみて

–今は音楽一本で活動されているんですか?

はい、音楽活動だけですね。今僕は新しいアルバム作成を、アレンジャーやプロデューサーもつけずに作詞・作曲・アレンジまでやっています。音楽に集中しないとペースが間に合わないので、音楽活動に絞っていますね。

弟はジムのパーソナルトレーナーと二足のわらじをはいて活動しています。彼は、平川地の顔であり、パフォーマーとしてのプロ根性があるので、レコーディングになるとバシッとスイッチが入れ替わる。そんな彼のぶれない強さにも助けられています。

ただ、今は音楽業界も世間や経済に左右されやすく、僕らが当時活動していた頃と変わっているので、これからは僕も柔軟に考えていこうと思っています。

「夢や好きなこと」との大人の付き合い方

平川地一丁目・林龍之介にきく「好きなことを続ける大人」になる方法

–大人になると、好きなことを諦めたり、夢から遠のいたりしてしまう人も多いかと思いますが、龍之介さんは10年という時間を経て、改めて「好きなことを仕事にすること」を選んだんですね。

バンドマンも、結婚を機に全然違う仕事につく人も多いと思うんです。けど、僕の場合は逆でした。

素の自分を無理に変えて、好きなことを受け入れないで反発して、否定しようとすると、自分がどんどんつらくなっておかしくなってしまった。しかし、「音楽が好きで離れられない」ことを受け入れた瞬間、「ちょっと楽になって、自分が力を抜いて生きられる世界」があることに気づいたんです。

それは、僕は自分の「好き」を手放してはダメだったのだと気づけたということです。「音楽」と向き合い、受け入れることで、他の「人としての活動」をするためのパワーも出てきました。

–音楽を自分の人生の軸にすることで、バランスがとれるようになったんですね。

「好きだ」という気持ちは、自分ではコントロールできない部分だと思います。僕の場合は、悩んだり落ち込んだり、全てが無意味だと思った時も、音楽は光を与えてくれました。自分が目をそらしたつもりでも、輝くように感じたものが自分の大事なことだと思うんです。

それさえを見失わなければ、自分が好きなこと以外もできるようになる。あとは現実や関わる人とのバランスさえとれれば、最終的に好きなことをしつづけながら生きていける人生になるんじゃないかなと思ってます。

今は、昔から付き合いのある友人や兄弟に支えられていることを忘れないで音楽をやりたいと思っています。ライブでも、はやくファンの方に直接会いたいですね。

平川地一丁目・林龍之介さんのインタビューを終えて

平川地一丁目・林龍之介にきく「好きなことを続ける大人」になる方法

龍之介さんは、「自分は音楽と生きていくのが決まっていますが、他の人が見るような『家や車が欲しい』のような人生設計的な夢がないんです」と周りとの温度差を感じる瞬間もあることを話してくれました。

好きなことをするだけじゃなく、自分が何を選んで、何を手放していくか決断することが、「大人が好きなことをしながら生きる」コツなのかもしれません。人生がそのまま曲に出るスタイルだという龍之介さんのアルバムからはどんな景色が見えるのでしょうか。これからの活動も注目していきたいです。

平川地一丁目

平川地一丁目・林龍之介にきく「好きなことを続ける大人」になる方法林直次郎、林龍之介によるギターデュオ。
ユニット名の「平川地一丁目」は出身地・静岡県清水市の住所である。活動中は新潟県佐渡島在住だった。現在は二人とも東京都在住。
デビュー当時と比べて歌詞を書く視点は子どもから大人へと変わったが、私生活を赤裸々にさらけ出す作風や、力強くて切ないフォークロック調は今も健在。
時代の枠に囚われず、独自のテイストで “懐かしい、でも新しい音楽” を表現する。

 

林直次郎(はやしなおじろう)左
1990年12月23日生まれ
【パート】Vocal、A.Guitar
【趣味】旅行、映画鑑賞、筋トレ、TVゲーム
【好きな食べ物】肉料理全般、バスクチーズケーキ、韓国のり、干し芋
【尊敬する人物】宮崎駿、氷室京介、山本義徳

林龍之介(はやしりゅうのすけ)右
1988年4月14日生まれ
【パート】A.Guitar、E.Guitar、Chorus
【趣味】散歩、映画鑑賞、酒
【好きな食べ物】茶碗蒸し、イカスミパスタ、ケバブ
【尊敬する人物】チャップリン、アンディ・パートリッジ、チェ・ゲバラ

この記事を書いた人

さかもとみき
1986年高知生まれ。広告代理店や旅館勤務を経て、ライター・恋愛コラムニストをしています。