今回インタビューさせていただいたのは、株式会社A(エイス)が展開するオンライン共創プラットフォームサービス「Wemake」の事業開発マネージャーを務める榎本淳子さん。
Wemakeとは、企画を求める企業と多様な発想やスキルを持つ個人が共創して新商品・新規事業を生み出すプラットフォーム。大手企業が多数利用している、今注目のサービスです。
今回はWemakeのサービス概要や活用方法、実際の事例などを伺いました。
ユーザーのアイデアが商品化・事業化につながるサービス、Wemake
ーまずはWemakeのサービス概要を教えてください。
Wemake(ウィーメイク)とは、企画を求める企業と、われわれのコミュニティに所属するユーザーがチームになって新規事業や新商品を生み出していく、オープンイノベーションのプラットフォームサービスです。
企業が新商品や新規事業のテーマを掲げ、約2万人いるコミュニティユーザーがアイデアを提案していく仕組みになっています。これまでにBtoB、BtoCまで、多種多様な70社ほどの企業にご利用いただいています。
ーどんなときに活用していただいているのでしょうか?
既存商品の改善改良やリブランディング、既存の商品や技術の新市場開拓、新商品の開発といったシーンで、社内で出るアイデアに既視感やマンネリを感じていたり、ユーザーのニーズがリアリティ持って探索できていない際など、何かしら新商品や新規事業の企画にブレイクスルーさせたいときにご活用いただいています。
クライアントの多くはメーカー企業ですが、たとえば鉄道事業や電力事業などのインフラ系企業など、業界問わずどの企業も新規事業開発・新商品開発に行き詰まりを感じています。
なぜなら、社員さんは当該事業領域のプロフェッショナルであるために、どうしても今まで培ってきた経験がバイアスとなってしまい、顧客のニーズをフラットに評価しにくい側面があるためです。
また、社内からは死角となるような領域のニーズは当然知り得ることが難しい。そういったお客様にご利用いただいています。その他にも、クライアントの社内で検討中の事業テーマを死角なく多角的に検討するためにWemakeをご利用いただく場合もございます。
Wemakeは1ヶ月に数百件のアイデアを広く集めることができるため、視野を広くもって検討が可能です。主にお取引があるのは、新規事業部門の方々、メーカーの商品企画部門・R&D部門の方々ですね。
ーアイデアが事業化につながっていく仕組みを教えてください。
Wemakeのプロジェクトは5つのステップに沿って進めていきます。
ー実際にどんなものが商品化されましたか?
大手メーカー、コクヨ株式会社の「チョイタス」というCampusブランドの文具は、Wemakeユーザーである家具メーカーのプロダクトデザイナーさんが学生時代に感じていた問題意識から発想された商品で、年間45万個売れるヒット商品になりました。
BtoBの企業だと、技術開発や量産化の検証をするので、商品化までに数年かかってしまいます。まだ社内検討中のところも多いようですが、Wemakeがスタートしてちょうど5年になるので、そろそろ公表できるものも増えそうです。
多種多様なプロフェッショナルが集まる2万人のコミュニティユーザー
ーコミュニティユーザーはどのような人が集まっているのですか?
多様な業界・業種のユーザーが2万人集まっています。大企業で働いている方が多数いらっしゃいますね。業務委託ではないので、副業禁止の企業に勤めている方や実績を積みたい方が個人活動としてご参加しやすいという声もあります。
業種は商品企画に関わっている方が1番多いですね。続いて広告代理店のプランナー、コンサルティングファームの方、スタートアップの経営戦略に携わる方が多いです。
しかし中には医師、理学療法士、数学者、画家、高校生などもいるので、本当に幅広い知見が集まります。暮らしの中でのニーズ起点、業界職場での課題起点、あるいはプロフェッショナルなスキルを活用したアイデアなど、あらゆる角度のアイデアが寄せられてきますね。
ユーザーインタビューをすると、賞金よりも、「自分の手掛けたサービスを世の中に出したい」という声が1番多いです。アイデアソンやデザインコンペ等が開催されていますが、実際に商品化や事業化に繋がることは少ないと聞きますので、それがモチベーションになっていらっしゃるようです。「自分の保有する力をさらに広く社会のために使いたい」と思っている人もいらっしゃいますね。
ーコミュニティユーザーが2万人もいるなんてすごいですね。
1人が提案すると、周りの人も一緒にやろうとなってユーザーが増えていきますね。あとは有名企業が募集していると、そこに参加したいユーザーさんが興味を持って登録してくれることが多いです。みなさんの熱量もアイデアの質も高いので心から尊敬しています。面白いテーマが多いので、私もコミュニティ側で企業に提案したいと思うことが多いです(笑)。
もともと「Wemake」は町工場を救うサービスだった
ーWemakeはどのようにして始まったサービスなのでしょうか?
弊社代表は2人おり、もともと中学高校の同級生だったそうなんです。その同級生同士のふたりが共同で創業した会社です。そのうちの1人が大学生時代に鳥人間コンテストに情熱を注いでいたことで、町工場の人と関わりがあったそうなんですが、技術力が高くても、下請けの下請けで発注は一社への依存度が強いことに課題を感じたそうです。よって、町工場が脱下請けするために、その企業が持つノウハウや技術を活かした独自商品の開発を支援するサービスとしてリリースしました。
町工場とデザイナーをマッチングさせることによって、クラウドファンディングのような形式でニッチだけれども確かなニーズのある商品を生み出していくのが始まりだったんです。そこに大手企業からも「商品のアイデアを募集したい」という依頼が来て、ピポットしていくうちに今の形態になりました。
ー会社として大事にしているのはどんなことですか?
目指す世界は、ありたい未来をともに紡ぐために世界中の人々が集い、力を発揮できる場を作ることです。最終的には企業もユーザーもフラットに共創できる場の提供を目指しています。
個人的には、Wemakeの体験を通してユーザーが個別の魅力を発揮できたり、企業の強みを発掘できたり、その総和を生めるようにできる場をつくることが大事だと思っています。
あとは会社としては経済合理性を求めてお金をいただくことも大切ですが、近未来も含めて商品化・事業化検討に繋げるご意志がある場合のみ、Wemakeをご利用いただいています。ユーザーさんも時間を使ってアイデアを出していますし、本気で商品化や事業化まで進めていただけそうかを大事にしたいです。
ニッチ産業や地方の企業のお手伝いができたら
ー榎本さんがWemakeで働くようになったきっかけを教えてください。
前職やライフワークで、地域住人や地方自治体の方を集めた地域活性のプロジェクトをしていて。まちづくりや住まいの商品開発、街のPRアイデアを一緒に考えることをしていたんです。そのときに、パパママ、農家、役場の方等、それぞれのプロフェッショナルの人たちの知見を集めることで、成果が大きくなることを実感していました。また管理職としてのメンバーマネジメントにおいても、個人が好きなこと・得意なことを担当する方がパワーを発揮できるし、結果的に組織の生産性も上がると感じていました。
「さまざまな人の知見を集めて大きな課題を解決すること」「プロフェッショナルな人たちが得意な領域を生かすこと」の両方ができるところが魅力的だと思ったのがWemakeでした。
ー今後、どんな企業のサポートをしたいですか?
素晴らしい技術など魅力を持っているのに知られていなかったり、ニッチ産業と呼ばれるようなところで活躍している企業さんのお手伝いができたらと個人的には思っています。あとは、個人的には地方経済を支えている地場の有力企業さんを応援するようなプロジェクトもやりたいですね。
インタビューを終えて
榎本さんのお話を聞いて、アイデア採択案が100%だということにとても驚きました。それほどにアイデアの質が本当に高いということですよね。ユーザー目線で企画ができるからこそ、本当に求められる商品ができていくのだと感じます。今後、どんな商品が生まれるのか、とても楽しみです。
株式会社A 事業開発マネージャー
事業開発・セールスなどを担当。前職のリクルートコミュニケーションズでは販促プロモー ションのプランナーを経て、新規事業を担当。その経験をいかし(株)Aへ
伊藤 美咲
ステキな人やモノを広めるフリーライター。1996年東京生まれ、東京育ち。関心のあるジャンルは働き方・ライフスタイル・美容・邦ロックなど。
1.募集
まずはWemakeのウェブページ上で、企業様と協議して決定した「新商品・新規事業の募集テーマとその詳細」を掲出します。弊社では、期待する提案の要件定義を重視しており、ここを丁寧に作り込みます。
2.提案
企業様は、ユーザーの提案を待ちますが、気になる提案があれば、フィードバックし改善を促すことも可能です。提案は、企画イメージ、ターゲットユーザー、提供価値などの主催企業様側で決める必須項目に沿って提案されます。提案数は平均240案、最多で700以上の案が1ヶ月半の公募期間で集まりました。
3.厳選
提案されたアイデアは審査により5~10案程度に絞り込みます。審査専用の独自のオンラインツールを用意しているため、アイデアを短期間で網羅的、多角的に検討できます。
4.共創
選ばれた10案を2ヶ月ほどかけて磨き込みます。投稿者と企業様のメンターがチームとなります。それに加え、コミュニティから知見やスキルを補完するチームメンバーを募ることもできます。仮説検証によりアイデアを磨き上げることで、質の高い案となるのも大きなポイントです。
5.採択
プレゼンテーションにより商品化・事業化を進めるものを選びます。選ばれたユーザーには、知的財産権と引き換えに賞金が付与されます。
現在、アイデア採択率は100%となっており、プロジェクトを開催したすべての企業様で商品化・事業化に成功しているか、事業化に向けた予算獲得に成功しています。