今回インタビューしたのは、都市計画コンサルタントで、民間まちづくり会社㈱御祓川(みそぎがわ)の代表取締役 森山 奈美さん。
川を中心としたまちづくりへの取り組みで日本水大賞国土交通大臣賞など、かずかずの賞を受賞し、平成30年には「ふるさとづくり対象個人表彰(総務大臣)」を受賞しました。
そんな森山さんのヴィジョンは「小さな世界都市の実現」で、「チャレンジが生まれ続けるまち」を目指しています。
その一環としてはじめた長期実践型インターンシップ「能登留学」について。そして2015年に石川県七尾市につくられた市民大学「御祓川大学(banco)」の使われ方や、コロナ禍で変わったことをお聞きしました。
コロナ禍で変わるまちの市民大学の役割
ーまちに市民大学ができて6年目になります。現在コロナ禍となり、どんな利用方がされていますか?
今までは、市民が参加できる講座がありましたが、コロナ禍でリアルな講座がいったんすべてなくなってしまいましたね。2020年4月頃からは市民大学の当番をする「banco番」が一人いて、それ以外のスタッフは在宅勤務にし、営業時間も短縮しました。ここで行っていた忘年会や宴会も全部なくなりました。
最近は久しぶりに、テラスの外で能登かき「ガンガン焼き」祭りオンラインツアーをやりました。「ガンガン焼き」とは、ブリキ缶に海鮮食材を入れて火にかけ蒸す調理法です。開催が見送られた「能登・中島の牡蠣まつり」の代わりに、生産者の声をききながら、ガンガン焼き専用缶にたっぷり殻付き牡蠣を入れて自宅にお届けし、オンライン上で集まって一緒に食べるイベントを行いました。
ー既存のイベントをオンライン化して開催してたんですね。
ほかには……最近は、bancoを定期的にコワーキングスペースとして使う人も出てきました。前はイベントをしなければ人が集まらなかったんです。
また、オープン当初にはなかった図書館がbanco内にできました。「かえるライブラリー」という「買う」こともできる私設図書館です。古物商許可も持っているので、まちづくり関連の本を多く揃えています。また、会員登録すると全国の登録コワーキングスペースが使える「いいオフィス」にも登録しました。
そんな使い方ができるので、今は日常使いでbancoへ来て資料を作ったり作業をしたりするフリーランスの方や、起業の準備する人なども出てきています。
このほかに、一階の長机は以前まで対面式で座るレイアウトでしたが、新型コロナウイルスの感染症対策をかねて、長机のあいだに本棚を置きました。それにより集中できるような空間になり、作業しやすいようになっています。本棚は可動式なので、会議をするときには動かして、机のレイアウトを変えることもできます。
ーコロナ禍でのリモート化で、コワーキングスペースとしても機能する流れが出てきたんですね。
能登留学生が市民大学で仕掛ける企画
そして、うれしいニュースとしては、4年ぶりくらいに高校生の常連さんができたということです。もともと私が今の仕事を選んだ理由の一つが、自分の家の茶の間で大人たちが、行政と民間で取り組みながらまちづくりをワイワイやってる姿を見て「まちづくりって楽しそうだな」と思うようになったことでもあったんです。
ですから、大人たちが集まっているところに気軽に高校生がきて、大人たちが楽しくやってる様子を間近で見れる空間・環境を、まちのなかでも作りたいと思っていました。
今期のインターン生が立てた企画によって、地元の高校生が来てくれるようになったんです。私の願いをインターン生にかなえてもらえた形となりました。
ー能登留学にきたインターン生(能登留学生)は、どんな企画をしたんですか?
「パスカレッジ」というオンラインイベントを企画開催してくれました。インターン生が、大学受験を目指してる地元高校生向けに、高校生が希望する学部ごとに大学の友達を集めて「今日はこの学部に行っている子に話を聞けるよ」というオンライン企画を立てたんです。
そして、その参加者に向けてbancoで「ポモドーロ勉強会」を開催しました。全員で今日の学習目標を決めて、集中して勉強、振り返るということを5~6人でやるイベントでした。
それをきっかけに、高校生が勉強や宿題をしに「パスカレッジ」後も来てくれるようになったんです。先日は天気がよかったので、一緒に桜を見に行ったりもしました。
ーインターン生の企画力と実行力、すごいですね。やってくるインターン生に変化はありましたか?
大きな変化がありました。今までは「休学してインターン(能登留学)に参加する」形だったのが、この1年は大学側がオンライン授業になったので、休学しなくても来れるようになったんです。
「大学のオンライン化」であがる地方市民大学の価値
ー「能登留学」とは、大学生を中心とする若者が、最低3ヶ月~1年間留学先となる森山さんの(株)御祓川にやってきて、企業や地域課題に共に取り組む長期実践型のインターンシップですよね。
そうです。今来ている子達の中には「海外留学に行けなくなったので能登留学に来ました」っていう子もいます。コロナ禍になり、大学がオンライン授業してくれたことで、そんなことがかなうようになってきました。
オンライン授業はこの一年の暫定(ざんてい)措置で、大学によってはリアルにだんだん戻っていく学校がある一方で、もう今後はオンラインでいいという大学もあります。
例えば、新潟にあるネットの大学「managara大学」では、オンラインで大学資格を取得できます。オンライン授業ですので、今後も休学せずにインターンにも来れるという形となりました。
ーオンライン(大学)と体験(インターン)を効率よく学べる環境になっていたんですね。
そうですね。このコロナで、これまでやろうとしても実現しなかった世界が一気に進んだ部分もあるんです。オンライン化が進み、リアルの体験が難しくなっているので、より現地で学ぶことの価値も大きくなっています。
今はインターン生から「御祓川大学のオンラインキャンパスを作りましょう」という声があり、動画も作ってもらっています。
今までは誰かが企画して定期的な講座をやっていましたが、現在残ってるのが「プログラミング教室」や、週に一回の「能登七尾義塾」という本を読みあう朝活、あとは部活だけになりました。
例えば、朝活はオンラインにしたことで、七尾にいなくても参加できるようになり、私達もオンラインの方が楽だったりします。bancoで行っていた企画がオンライン化したことで、地域の外ともつながりながら走り出したのは大きな変化です。
正解をアップデートしていく時代へ
ーインターン生が市民大学の授業や中身、関わる人をどんどん変えていっているんですね。
先日、オンラインキャンパスを作るにあたってインターン生からインタビューされました。完成したものを見て感じたのは「経験がジャマでしかない」ってことでした。今は、年齢は関係なく新しい感性でやっていくことの方が、おそらく正解だなと思うようになってきたんです。
ー確かに、今まであった大人たちの当たり前や正解が変わっていく一年でしたね。
その子が編集した動画もアップしたら自動的に字幕がついたりするんです。「今はここまで進んでいるんだ」ってびっくりしてしまいました。きっと彼らは「そういうのがあるはずだ」って感覚的にわかっていて、探して実際に使えるんですね。
こういった時代になると「何をどう学ぶべきか」が、ますますわからなくなりますよね。オンラインで試験をするとなると「カンニングし放題じゃん!!」と思うけれど、「検索してでもその答えに辿り着いたら〇」だと考えるようになりました。「覚えている」ってことに今はなんの価値もなく、覚える力より、考える力の方がより重要なのだと実感しています。
ー正解は常に変化していく。大人こそ、そういった流れに意識して乗っていかないといけないのかもしれません。
まちづくりをしていく中でも、コロナ禍前だったら「この町の未来はこうなります」って話ができたのですが、今は未来が見える状況じゃなくなってしまった。「こうだろう」と思っても、アップデートし続けなければすぐに、状況が変わってしまうかもしれません。
ですから、未来はどうすべきか掲げるだけじゃなく、未来について話され続けていかなければなりません。プロジェクトがひとつ立ち上がったとしても、それがプラン通りに進まないことの方が多のです。状況を把握して、常にモニタリングをしたり、メンタリングできる人が伴走(ばんそう)しているような状況を作らなければいけないなと考えています。
これからの市民大学の役割
ー以前の様に大学で学べない今、インターン生はbancoで色々な挑戦をし、実現させていくことで、たくさん体験できているんですね。
市民大学はなんでもできる受け皿になれます。大学側も、地域での学びも必要としていて、オンライン対応が進んだことで、通信制で大学を行っていく動きも出てくるのではないかなと。
例えば、「さとのば大学」という「キャンパスが存在しない」大学もあります。全国にいくつかある学習するコミュニティを渡り歩いて卒業していくような大学です。そこでは大学卒業資格は得られませんでしたが、さきほど説明した「managara大学」と提携することで、オンラインと現地で学ぶことができ、大学資格も得られるようになっています。
今後そういうものが増えていけば、今の「能登には大学がありません」から、「大学があります」って言えるようになるかもしれません。bancoが、いくつかの大学のサテライトキャンパスとして機能する可能性も出てきたなと思っています。
森山奈美さんのインタビューを終えて
市民大学である御祓川大学(banco)は大学生にとってのサテライトキャンパスの役割をし、市民にとっても新しいつながりや企画をうむ場になっています。
「地域に入ってくる若人たちや新しい動きに対して、『この人たちは今までまちを作ってきた人たちがやってきた事と同じ方向を向いてますよ』と地元の人に伝える。そして『まちのいろんな人が応援してますよ』と若い人に伝えたり、つなぎ合わせる地域コーディネーターが大切だなと思います。
そうじゃないと、地域で浮いてしまうだけになってしまう。お互いの分かり合えなさをわかるから、全部一緒にしなくていいけれど、認め合える、認知し合える事を大事にしていきたい。
新しい動きとして作った市民大学bancoの中では、商工会議所つながりのコミュニティやJC(青年会議所)の活動があるので、お歴々の方々にも『こんな若者がいるんだ』と認識してもらえています。新旧の動きをお互いが認識できる場所が機能することが、まさに私の思う活性化です。」
そんな森山さんと、新しい動きをし続けながらまちの人との接点が持てる御祓川大学のメインキャンパスbancoが、まちの未来や夢を語る場としてさらなる進化をして欲しいなと思いました。
株式会社御祓川(みそぎがわ) 代表取締役
まちづくり計画を実現するため、社長も務める。石川県七尾生まれの七尾育ち。父親がまちづくり活動に取り組むのを中学生の頃から見続け、大学では父の影響で「都市計画」を学ぶ。卒業後はまちづくりのシンクタンクに就職。仕事で「株式会社御祓川」の計画書を書き、会社設立と同時に入社。平成19年から、社長を務める。
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(株)御祓川