今回インタビューしたのは、「株式会社農プロデュースリッツ」代表の新谷梨恵子さん。自身を「さつまいも子」と名乗るほどさつまいも愛が深く、人気テレビ番組『マツコの知らない世界』ではさつまいもマニアとして登場し、抜群の存在感を世に知らしめました。
新谷さんの活動は多岐に渡り、6次産業化プランナー、農カフェオーナー、農家の代理営業マン、講演・セミナー講師などをこなしながら、忙しい日々を送っています。
いつでもスマイル全開で底抜けに明るい新谷さん。一見すると順風満帆のようですが、その裏には数えきれないほどの努力と失敗があったそうです。経験を通して得たという「女性経営者が幸せに働くための秘訣」について伺いました。
夢だった農家になるも突然無職に!辛かった挫折の日々
――15歳からさつまいも愛にめざめたそうですね。きっかけは何だったのでしょうか?
あれは忘れもしない15歳の冬の日、焼き芋屋さんが「さつまいもには心がある。人間のために甘くなろうとしているんだよ」と教えてくれたことが、すべての始まりでした。「さつまいもってなんてかわいいんだろう!」と思うようになって、今も変わらずに愛しい存在です。
――学生時代の印象深いエピソードはありますか?
都内の進学校入学当初、私は文系でしたが、農学部に行きたくなり理系に転向したくなったんです。でも、前例がなかったんですよ……。それでも勇気を出して先生に意志を伝えたら、なんと職員会議を通して希望が認められたんです。
嬉しくなってやる気も出たことから猛勉強をして、男子ばかりのクラスでトップ成績をとったこともあります。「努力は報われるんだ!」と自信がついたできごとでした。
――その後、東京農業大学で勉強して、新潟県小千谷市に移住したそうですね。
大学時代の先輩と結婚が決まり、彼の実家である新潟県小千谷市で一緒に暮らすことになった後、地元の農業法人会社に入社しました。小さくてアットホームな会社だったので、さつまいも栽培だけでなく、オリジナル商品の企画・営業・販売といった幅広い業務に関わらせてもらえました。まさに、さつまいもと共に生きる夢が叶ったといえます。
――好きな仕事ができて幸せだったのですね。
はい、社長には「いずれ経営に携わってほしい」と言われていたので、腕まくりしてはりきりました。オリジナルのさつまいもプリンを作ったり、スタッフの労働環境を整備したり、当時はあらゆることを試行錯誤していましたね。
30代で仕事に慣れてきた私は、自信に満ちあふれていました。一人で何でもできると思っていました。ですが、会社側のとある事情で、私はこの場を去ることになったんです。突然の無職でした。
ショック以外の何物でもありませんでしたよ。私には田んぼも畑もない。この先どうしようかお先真っ暗で、当時は地獄の底にいるような感覚だったことを覚えています。それと同時に、「過去の栄光は未来の約束じゃない、私は調子にのっていたのかもしれない」と思い知らされました。
経営者に転身、6次産業化プロデューサーとして農家を支える
――農業法人退職後、現在の会社「農プロデュースリッツ」を立ち上げたそうですね。きっかけは何だったのでしょうか?
独立する手段を探していたとき、「食の6次産業化プロデューサー」という資格があることを知りました。農家さんの生産・加工・販売の悩みをサポートするお仕事で、新潟県内にはまだ誰も資格取得者がいない状況に「これは私のやるべきことだ!」と燃えましたね。
これまで農業法人で培ってきた経験をまとめ、知識を得るために育成プログラムを受講しました。そして、晴れて6次産業プランナーとして認められることに!無事に事業の柱となりました。
――6次産業プロデュースとは、具体的にどんなことをするのですか?
農家さんが規格外品で加工品をつくろうとするとき、工房も販路もなければ何から手をつけるべきか迷いますね。そんな時、農家さんの状況をヒアリングし、加工や販売をするためのサポートをするのがお仕事です。
例えば、B級品の枝豆を持て余している農家さんには、枝豆をむき身にすることをオススメしたことで、市内の学校やジェラートショップへ販売することができました。私は農家さんや飲食店さんのつながりが多いので、誰と誰をつなげば良いのかピンとくるんです。
私の自慢である「つながり力」は、自分が足を運んで築いてきたものです。会いたい人には積極的に会いに行きますし、SNSでは「〇〇さんとコラボしてみたい!」と遠慮なく発信します。奇跡は天から降ってくるものではなく、自分で引き寄せるもの。そのためには人の100倍くらい動きまくることが大切なんです。
――起業と同時に農カフェもオープンしたそうですね。
本当はカフェを開業するつもりはなかったんですけど、さつまいもスイーツを製造するために借りた店舗が想像以上に大きくて……。それならばと、さつまいも料理を食べられるお店にしちゃったんです。
そのおかげで、調理や接客をしてくれる頼もしいスタッフさんたちと出会えました。過去の私は何でも一人でできると思っていたんですけど、「人に任せること」を学びましたね。経営者である私の役割は「考えること」。ほとんどの時間はカフェにいて、頭の中で構想をグルグルさせながら、忙しなく動いているんですよ。
数えきれない失敗経験がいまにつながっている
――起業してからの6年間を振り返ってみてどうですか?
これまで種をまき続けて、6年目にしてようやく芽が出てきたなと感じています。今年に入ってから急に、6次産業化プランナーの仕事が立て込みまして、山形県や福島県などの農家さんをサポートする機会に恵まれました。
あと、私は12年間gooブログを書き続けているのですが、この度gooが運営する農産物やクラフト品の販売サイト「Marchel」のアドバイザーに就任しちゃいました!農家さんにネット販売の始め方を教える任務はやりがいがあります。
――努力が実ったのですね。その理由をどう考えていますか?
これまでに失敗した経験がたくさんあったからこそですね。ちなみに今まで一番悔しかったのは10年前、6次産業プランナーの先生に初めて開発した「さつまいもプリン」を完全否定されたことです。先生は食べもせずに「今時さつまいもプリン?は?バカだね。こんなの売れるわけないよ」とおっしゃいました。悔しくて涙が止まりませんでした。
でも、絶対に負けたくなかったんです。この気持ちをバネにして、「さつまいもプリンの認知度を上げてみせる!」と心に決めました。そして同時に、自分が6次産業プランナーになったら「農家に寄り添ったアドバイスをしよう」と誓いました。
あの時、プランナーの先生の厳しい発言があったからこそ、今の私があります。
――新谷さんはいつでも前向きですね。経営者として大切にしていることはなんでしょうか?
私が起業して感じたのは、女性経営者には「力」が必要ということです。力とは、人脈、お金、スキルのすべてで、生半可な気持ちでは通じません。実際、男性経営者の方がまだまだ多い現状において、女性が立ち回っていくのは大変です。
そして「オンナは“覚悟”を決めると強くなる」とも思っています。私が初めて開発したさつまいもプリンはバカにされましたが、趣味のお菓子作りではなく、商売として真剣に売っていきたい。そしてさつまいもの魅力を伝えることで、私が住む新潟県小千谷市のまちおこしにもつなげたい。こんな風に本気で思いました。
男の子2人の子育てと仕事を並行しながら、ガムシャラに駆け抜けてきた結果、今があります。「いつか」や「チャンス」は向こうから歩いてくるものじゃない、つかみにいくものです。私はそれを常に意識して、実践してきました。覚悟があったからこそ、結果がついてきたのだと思います。
目指すはさつまいもの魅力を発信して、小千谷市に人を集めること!全世界へイモ愛を届けるために、これからも種をまいていきたいです。
新谷梨恵子さんのインタビューを終えて
情熱的で常にワクワクする気持ちをもつ新谷さん。さつまいもを「かわいい!」と愛でる様子は一風変わっていますが、そこまでさつまいもに惚れ込んでいるからこそ、自信をもって商品を世に広めていけるのだなと納得しました。
新谷さんのインタビューで印象的だったのが「前例がなくても絶対にあきらめない」という言葉。東京から新潟へ移住し、田も畑もないまま農家になり、現在は全国を股にかけた農家のアドバイザーとして活躍中――まさに道なき道を切り拓いてきた人といえます。
これからの時代を見据え、農家が活路を見出すために、新谷さんは大きな力になってくれるはず。そして、起業を目指す女性たちにとっての光となってくれるはずです。
新谷さんが経営する農カフェで焼きいもソフトクリーム「いもポン」を食べながら、取材の余韻を噛みしめました……冷たいソフトクリームと熱々の焼きいも、この組み合わせは最高です!
ちなみに、こちらの焼きいもソフトクリームは冷凍便で全国発送もしています。気になる方は、「Marchel」の販売ページをチェックしてみてくださいね。
渡辺まりこ
新潟県在住の取材ライター兼ブロガー。通算取材は500件以上。ヒト、暮らし、まち、趣味など多岐に渡るジャンルの記事を執筆中。取材時の感動を読者に届けられるような記事づくりを心がけている。
ポートフォリオ:https://www.watanabemariko.com/
「(株)農プロデュースリッツ」代表。
6次産業化プロデューサー、「さつまいも農カフェきらら」オーナー。
農業法人での就農経験と東京出身の消費者目線をあわせ持ち、消費者・農家・地域をつなぐ活動を行っている。
2017年「女性起業家大賞」最優秀賞受賞、2018年TBSテレビ「マツコの知らない世界」出演。
HP:https://ritzkirara.com/
商品販売サイト:https://marchel.goo.ne.jp/ritz5323