講師は全員現役アーティスト。バンドマン たなべあきらさんが音楽教室「Tees Music School」を作った理由

今回インタビューさせていただいたのは、現役アーティストが教える音楽教室「Tees Music School」の代表を務めるたなべあきらさん。自身もバンド TRY TRY NIICHEのベーシストとして活躍しながら、ベースの講師も行われています。

今回はたなべさんが、なぜ現役アーティストが教える音楽教室を立ち上げたのか、レッスンを通じて伝えていきたいことなどをお伺いしました。

バンドマンが正当に評価されて、お金をちゃんと稼げる場所を作りたい

講師は全員現役アーティスト。バンドマン たなべあきらさんが音楽教室「Tees Music School」作った理由

ーたなべさんは音楽教室「Tees Music School」を立ち上げる前に、他のところでベースの講師をされていたんですよね。

Tees Music Schoolを立ち上げる前は、コロイデア音楽塾でベースの講師をしていました。先輩バンドマンであるtacicaの小西さんと飲みに行ったとき、ベースの仕事をしたいと言ったら講師の仕事を紹介してくださったんです。

もちろん当時はベースを人に教えた経験なんてなかったのですが、せっかくいただいたチャンスだったので、始めることにしました。もう3年前くらいの話になりますね。

ー実際に講師を始めたときの心境はいかがでしたか?

決まった教え方やカリキュラムも特になかったので、生徒さんが求めていることを読み取ってレッスンをしていくことが大事だなと思いました。やっぱり最初は難しくて、いま思えば「もっとこう教えてあげられたらよかったな」と思うこともありますが……。

教えるというのは、生徒さんにきちんと伝わっていないと意味がないので、ちゃんとかみ砕いて理解できるように僕もたくさん勉強し直しましたね。

ー独立したきっかけはなんだったのでしょうか?

バンドマンって正直、稼ぎづらい職業だと思うんですよね。バンドのために一生懸命練習して、機材もいっぱいそろえて、かっこいい音楽を作っているのにちゃんと稼げていない人がほとんど。

でもバンドマンは、何もしていなかったら身につかないようなすごい技術も持っているんです。だからバンドマンがもっとちゃんと正当に評価されて、お金をちゃんと稼げる場所を作りたいと思ったんです。

ーそれで講師が全員現役アーティストのスクールを立ち上げたんですね。

バンドマンが、生活費や機材を買うためのバイトに時間を奪われて音楽をちゃんとできなかったり、バンドが続けられなくなってしまうことって、これまでたくさん見てきたんです。だからそういうことを少しでもなくして、バンドマンがちゃんと音楽で稼いで、音楽を続けられるような場所を作れたらいいなと思ったのが、独立してスクールを立ち上げたきっかけです。

ー講師を務める他のバンドマンの方たちの反応はいかがでしたか?

最初は身の回りのバンドマンに声をかけて、今後やりたいことや自分の気持ちを伝えたら、そこにみんな賛同してくれました。やっぱり、音楽の仕事をしたかったという人が多くて、すごく喜んでもらえたと思います。講師未経験の人でもレッスン内容を一緒に考えたり、レッスンの進め方を相談しながら進めるようにしています。

一人ひとりに合わせたレッスンを考案。生徒同士でバンドが組めるようになるのが理想

講師は全員現役アーティスト。バンドマン たなべあきらさんが音楽教室「Tees Music School」作った理由

ー通っている生徒さんはどのような方が多いですか?

初心者の方とバンドマンの方が多いです。楽器を始めたかったという方や、買ってみたけどなかなか上達できなくてという初心者の方が半分かそれ以上。ご時世的に家で過ごす時間が増えて、バンドが好きだったから楽器を始めたという方も最近はいらっしゃいますね。年代は20代半ば以降の社会人の方が中心です。

他には、「この人に教わりたい!」と特定のアーティストに習いたいと来てくれる若手のバンドマンも多いですね。

ー講師の方が全員現役のアーティストだからこそ、憧れのバンドマンから直接楽器を習えるチャンスでもありますね。

逆に全然知らない講師の方に教えてもらうのって不安もありますよね。自分がレッスンに通っていたときも、講師の方を選べなかったり、どんな音楽をやっているのかもわからない人が講師になったりしたこともありました。

Tees Music Schoolの講師は全員が現役アーティストでどんな音楽をやっているかがわかりやすいので、「この人に教わりたい!」と来てくれる方が増えるといいなと思っています。

ーレッスンをする際に意識していることを教えてください。

生徒さんは基本的に、レッスンのときにちょっとは緊張すると思うんです。だから言いづらいことや、ちゃんとわかってないけどそのままにしてしまうことがないように、気持ちを読み取って、なるべく緊張させないように心がけることが1番だと思っています。

あとは専門言葉をなるべく使わないこと。自分のように音楽をずっとやってると、当たり前のように専門用語を使ってしまいがちですが……。

生徒さんが「それってなんですか?」と聞いてくれたらまだいいのですが、普通は聞きにくいと思うんです。だから基本的には使わない、もしくは説明するように意識しています。

ー専門用語を使わないというのは、特に初心者の方だとありがたいですね。これまでのレッスンで大変だったことってありますか?

1番難しいなと感じるのは、自分が当たり前のようにできていたことが、生徒さんはなかなか、うまくできなかったとき。もちろんその生徒さんが悪いのではなく、生徒さんによってつまずくポイントや悩みが違うので、そこをちゃんと読み取って解決していくことが大事です。

なんとなくの感覚で教えちゃうと全然伝わらないので、何が原因で何ができていないのかをちゃんと理解して、言語化して伝えなきゃいけないのが難しいなと思うことはありますね。

ーレッスンは生徒さんのレベルや目標によって内容も変わってきますよね。そうすると準備なども結構大変なのではないでしょうか……?

レッスン準備にも時間はかかりますが、生徒さんも自分で稼いだお金を払って通ってくれているので、その分はきちんと満足してもらえるように仕込みはしています。

生徒さんの好きなアーティストの楽譜を用意したり、曲の分析をしたりしている時間も結局は自分のためになっているので、準備の時間も楽しいんですよね。とはいえ、他の講師の負担も減らせるように、考えているところではあります(笑)。

ーこれまでレッスンをしていてよかったなと思うことや、印象的だったことはありますか?

今年の3月くらいに、生徒さんの配信ライブを行ったことが印象に残っていますね。その生徒さんが「バンドを組んでライブをやりたい」と言っていたのですが、周りにバンドをやってる人もいないし、どうやったらいいのか悩んでいたんです。

バンドをやりたいと思ってくれてるのはすごい嬉しいことだから、なんとか機会を作りたいと思って。レッスンを始めて、3カ月後に1曲だけでもいいからライブで弾けるようになろうと決めて練習しました。

ベースの生徒さんだったので、他のパートはうちの講師たちに担当してもらって無事に終えることができました。その生徒さんもめちゃくちゃ楽しんでくれて、「これがやりたかったんだな」と改めて思いました。

ー今後は生徒さん同士でバンドが組めるようになったらいいですよね。

本当にそれが理想的ですね。学生だったら友達同士で始めたり部活内で組めたりするけど、大人になってから楽器を始めた人は、バンドを組んだことがない人ばかりだと思います。なのでTees Music Schoolでバンドを組めるきっかけにもつなげていけたらといいですよね。

ライブハウスの文化を守って、バンドの楽しさを次の世代に伝えていきたい

講師は全員現役アーティスト。バンドマン たなべあきらさんが音楽教室「Tees Music School」作った理由

ーTees Music Schoolとして大切にしたいことはありますか?

僕らはみんなバンドマンなので、「音楽やライヴの楽しさを伝えていきたい」というのが1番にあります。特にコロナになってからライブハウスがつぶれちゃったりバンド仲間が解散してしまったりして、すごく悲しい思いもしているので、より一層そういう想いは強くなりました。

僕の周りはライブハウスでできた友達ばっかりだし、音楽以外の礼儀やお酒の楽しさも全部ライブハウスで教わったんです。だからライブハウスの文化がなくなるのは嫌だし、守っていきたい。ひとりでも楽器を弾いたり曲作りができたりする時代だからこそ、バンドメンバーが集まって大きな音を出す楽しさを伝えていきたいですね。

まだまだ厳しいご時世ですが、その中でもバンドの文化を次の世代へつなげていくことを1番大事に思っています。ライブハウスの閉店もバンドの解散も仕方のないことで済ませてしまったらそのまま終わってしまうと思うので、何もしないよりは自分のできることをしていきたいです。

ー最後に、今後の目標を教えてください。

今後はもっとたくさんの人にTees Music Schoolを知ってもらって、音楽が好きな人にちゃんと届いたらいいなと思います。今は東京中心ですが、もっと全国的に広げていきたいので、賛同していただける講師の方もお待ちしています!これからも、もっと知ってもらえるように頑張りたいと思います。

インタビューを終えて

たなべさんは本当にバンドとライブハウス、そして音楽のことが好きなんだな、ということがひしひしと伝わってくるインタビューでした。私もひとりの音楽ファンとして、ライブハウスはなんとしてでも守っていきたい場所。ライブハウスではまだ以前のように盛り上がることはできませんが、だからこそ音楽の文化を繋いでいきたいと私も強く思いました。

楽器を初めてみたい方も、講師に興味のあるアーティストの方も、ぜひ一度Tees Music Schoolのサイトをのぞいてみてくださいね。

たなべさんプロフィール

講師は全員現役アーティスト。バンドマン たなべあきらさんが音楽教室「Tees Music School」作った理由新潟県長岡市出身。バンドTRY TRY NIICHEのベーシストとして活動中。

自身のバンドに加えサポートミュージシャンとして多くのライブやレコーディングに参加している。約3年間のベース講師としての経験を経た後、現在はTees Music Schoolの講師を務める。

Tees Music School:https://www.teesmusicschool.com/

この記事を書いた人
講師は全員現役アーティスト。バンドマン たなべあきらさんが音楽教室「Tees Music School」作った理由

伊藤 美咲

ステキな人やモノを広めるフリーライター。1996年東京生まれ、東京育ち。音楽・旅・ビジネスなど幅広いジャンルの記事を手がける。