建設業に携わっている人なら、一度は耳にしたことがあるかもしれない「JV(ジョイントベンチャー)」という言葉。建設業だけではなく、土地や不動産に関わる仕事をしている人は、知っておくと役立つこともあるでしょう。今回は「JV」とは何なのかを、その概要や方式をはじめとし、メリットやデメリットなども解説します。
JVの意味とは
JVとは建設業の共同企業体のこと
「JV」は、joint venture(ジョイントベンチャー)と読み、複数の建設企業による共同企業体のことを指します。
通常は建設企業が単独で受注や施工を行いますが、1つの企業では請け負えない大きな規模の工事や事業を、複数の建設企業が協力して請け負うために形成する事業組織体を「JV」といいます。
ジョイントベンチャーは建設業以外でも
JVと表記する際は、一般的には建設業での企業共同体を指しますが、「ジョイントベンチャー」は他の業界でもあることです。
複数の企業が共同出資して立ち上げた会社をジョイントベンチャー、または合弁会社といいます。ジョイントベンチャーはシナジー効果が期待でき、低コスト、低リスクで新会社を設立できるというメリットがありますが、機密情報やノウハウの流出などには注意が必要です。
JVの3つの方式とは
①特定JV(特定建設工事共同企業体)
建設業のJVは、結成目的によって3つの方式に分かれます。
特定JV(特定建設工事共同企業体)は、各分野に秀でた企業が集まって結成するJV。橋やダム、トンネルなど、大規模で技術難度の高い工事を施工する際に、各企業の技術力を結集して安定的な施工を確保する目的で結成されます。工事の規模や性格などを考慮し、JVによる施工が必要と認められた場合に、工事ごとに結成されます。
通常、土木工事では2~3社が集まり、高層ビルなどの工事では多数な企業が集まることになり、出資比率が最も高い企業が受注、施工を主導します。工事が完了した際、または工事を受注できなかった際には、特定JVは解散されます。
②経常JV(経常建設共同企業体)
経常JV(経常建設共同企業体)は「通年型」とも呼ばれ、中小・中堅建設企業が継続的な業務協力関係を確保することで、経営力や施工力を強化するために結成するJVです。
企業単体の場合と同様、発注機関の入札参加資格審査の申請時(原則は年度当初)に結成し、一定の期間、有資格業者として登録されます。受注機会の拡大につながるため、利益の向上に結びつきます。
③地域維持型JV(地域維持型建設共同企業体)
地域維持型JV(地域維持型建設共同企業体)は、地域を維持、管理するために不可欠な事業において、該当地域の建設企業が継続的な業務協力関係を確保することで、安定的に事業の実施体制を確保する目的で結成されるJVです。
修繕やパトロール、災害時の応急対応に除雪など、地域の社会資本を維持、管理するために必要な工事を行えて、地域の地形や形質などに精通しており、迅速かつ確実に現場に到達できるという企業が参加の条件。主な業務には、道路の除草や除雪、道路の巡回や河川の巡視などがあり、持続的に実施する必要がある工事で結成されるJVです。
経常JVと同様の発注機関の入札参加資格の申請時、または適宜必要な際に地域維持型JVとして結成し、一定の期間、有資格業者として登録されます。
「甲型JV」と「乙型JV」の違い
上記の結成目的による分類とは別に、JVは施工方式によっても「甲型JV」と「乙型JV」の2つに分類されます。
「甲型JV」は、JVを構成する全ての構成員が、出資の割合に応じて資金や人材、機会などを拠出する「共同施工方式」を指します。
「乙型JV」は、事前に工区を分担して、それぞれの企業が自身が担当する工区の施工責任を持つ「分担施工方式」を指します。ただしこの場合においても、最終的には他企業が担当した工事についても、発注者への責任は連帯で負うことになります。
JVのメリットとは
資金力が増すことで、ビジネスチャンスが生まれる
JVでは複数の企業が共同出資をするため、単独企業よりも資金力が増します。
資金力が拡大すれば信用も上がるため、金融機関からの借入もスムーズに。単独では参加できなかった工事に入札するチャンスを得ることもできます。大型の工事を受注できれば実績を残すこともでき、企業の将来の見通しも明るくなります。JVは企業合併とは違い、必要に応じて結成されるため、従業員も先行きに不安を感じることが少なくなります。
災害や経営不振などのリスクを軽減できる
企業が単独で工事を受注した場合には、施工に関するすべての責任を負うことになります。台風や地震など、災害に対する対策も施工内容や現場ごとに必要になります。中小企業にとってはJVに参加することでこうした災害対策の負担が軽減されるため、経済的な負担も少なくなることに。天災や経営不振などのリスクが軽減できます。
大型工事や共同施行による技術力向上も
JVで行う大型工事では、高い技術が求められます。求められているレベルに技術を高めることはもちろん、より高度な技法を開発することを求められる場合もあります。
また、他社と共同で施工を行う中で、作業を効率よく進めるために互いに工夫を重ねることで得られるものも。大型工事を経験することは、単独で受注した工事だけでは得られない企業と個人のスキルアップにつながります。
JVならではの専門集団で受注可能性UP
専門性を高めることで技術力は高まりますが、工事の受注は安定しない場合も。公共工事が減り規模を縮小した企業は、入札に参加することも難しくなってしまいます。しかし、JVに参加して専門集団を結成すれば、受注できる工事も幅広くなります。特化した技術を持っている場合には、遠方の入札にも参加して工事を受注することができます。
自社の作業に専念できる体制で、円滑な施工へ
JVでは、責任企業が中心となり、工事を統括します。JVに参加する企業は進捗状況を統括部門に報告するなどの単独での工事にはない業務も増えますが、プロジェクトは統括部門が推進してくれるため、自社に割り当てられた工区の作業に専念できるというメリットが。事前に共同体制を構築し、各社が働きやすい環境を整えてから工事に着手できるという点も、円滑な施工の後押しになります。
JVのデメリットとは
スポンサー会社が主体で、サブ会社は不利になる面も
特定JVでは、結成企業数社のうちで出資比率が最も高い企業を「スポンサー会社」、それ以外の企業を「サブ会社」と呼び、法的には対等の立場です。
スポンサー会社とサブ会社は法的には対等の立場ですが、JVの代表者として対外折衝や業務の執行を中心になって行える権限を付与される代表者は、スポンサー会社から選任されます。見積業務をはじめとし、入札金額の決定、受注契約、協力会社の発注など、工事の事前業務から現場乗り入れまでをスポンサー会社が主体となって行います。
つまり、協定原価の決定権や下請け企業の選定、自社機材などの優先使用など、様々な面でスポンサー会社は有利な選択が可能に。こうしたスポンサーメリットは、サブ会社にとってはデメリットになってしまうこともあるので、注意が必要です。
連帯責任が発生する可能性もある
甲型JVでは、出資比率に比例して利益も損益も配分されます。そのため、自社が担当した工事で利益を上げていても、他者が担当した工事に損益があれば、自社利益に影響を及ばします。
甲型JVでは、自社が分担した工事の利益はそのまま自社の利益となりますが、他者が分担する工事の品質や工程、安全に関しても連帯責任が発生します。もしも他社が倒産などにより途中で施工を履行できなくなった場合には、工事の履行に対し連帯責任を負うことになります。
事前に他社の経営状況や施工の品質などの詳細を調査、確認することはもちろん、保険に加入するなどのリスクヘッジを十分にしてからJVに参加することが大切です。
JVの2つの会計処理方式とは
JVの会計処理方法①JV独立会計方式
先に述べた通り、JVにはスポンサー会社とサブ会社があります。スポンサー会社の役割は工事の統括をはじめとして多岐にわたりますが、中でも重要な役割に会計処理の担当があり、毎月末にサブ会社に財務諸表を提出する必要があります。
JVの会計処理には2つの方法があり、その1つが「独立会計方式」です。独立会計方式では、JVを企業から切り離して独立して会計処理を行います。JVに参加するいずれの構成員の会計システムも使用せず、会計を行うことになります。
JVの会計処理方法②取り込み会計方式
スポンサー会社の会計にJVの会計処理を取り込んで処理する方式が「取り込み会計方式」です。取り込み会計方式では、スポンサー会社の財務諸表にJVの会計が入り込んでしまうことになるため、出資比率に応じた修正を行う必要があります。
修正の方法は「逐次持分把握法」と「決算時持分把握法」の2種類があり、逐次持分把握法はスポンサー会社が取引の都度、JVの持ち分のみを処理します。決算時持分把握法では、期末または決算時に持ち分のみを計上します。
独立会計方式と取り込み会計方式、どちらの方式を用いた場合でも、決算の結果は同じになります。
まとめ
JVは、複数の建設企業による共同企業体のことです。JVは結成目的によって特定JV、経常JV、地域維持型JVの3つの方式に分かれ、さらに施工方式によっても甲型JVと乙型JVの2つに分類されます。メリットやデメリット、会計処理方法が2つあることも一緒に理解しておくと役立ちます。