佐渡の新しい観光土産「シーグラスキャンディ」は娘の一言から生まれた

今回インタビューするのは、北啓さん。新潟県佐渡市の新しいお土産「シーグラスキャンディ」を企画、販売している起業家です。

ひらめいてから企画立案&リリースまでにかかった期間は約1ヶ月半。販売直後に店舗、インターネット販売でまたたく間に売り切れに。販売から1ヶ月後には新聞にも取り上げられ、販路も広がり始めています。

海で拾えるシーグラスをコンセプトにしたキャンディはどうやって生まれ、人気商品になったのかを聞きました。

初めは海で遊んでいた娘の一言からはじまった

—佐渡の新しいお土産「シーグラスキャンディ」はどうやって生まれたんですか?

思いついたのは、2021年の9月の終わり頃。佐渡市の佐和田にある海に突き出た桟橋の目の前を子どもと一緒に散歩して、シーグラスを拾って帰ってきた時です。

その日、シーグラスを拾いながら子どもが「これ食べれたらいいのにね」って言ったんです。その一言で「シーグラスが飴になったら食べられる!」と思い「これは面白いかもしれない」というワクワクと、シーグラスがキャンディだったら売れるぞ、という思いがわきあがりました。

「シーグラスキャンディ」で調べると商品は出てこなかったので、次の日に商標登録を出して、すぐに飴のレシピを作り始めたんです。

—かなりスピーディーに動き出したんですね。現在は、障害者就労支援施設と連携して製造していると聞きました。障害者就労支援施設に製造先を委託したのはなぜですか?

自分で飴のレシピを作ったのですが、とてもシンプルなんです。材料は砂糖と水、シロップのみ。温度調整はちょっと難しいんですが、あとは板状の飴を固めて割るだけでできます。

もし、飴を大量生産して売ることを目的にすると、県外の製造工場に委託するのがコスト的にも安いんです。しかし「利益重視よりも意義のあることをやりたい」「佐渡で作られるお土産を作りたい」という思いがあったので佐渡の障害者就労者施設「チャレンジド立野」にお願いしました。

またお願いしたもう一つの理由が、彼らの手が空く時期が出てくるのを知っていたからです。

そこで、シーグラスキャンディの仕事があれば、仕事の少ない時にこの飴を多く作ってもらうことができるなと思ったんです。飴だと賞味期限も長いし、他の仕事が忙しい時期はそちらを優先できます。

—シーグラスキャンディを取り入れることで、地元に雇用の機会を増やせたんですね。

はい。こんな風に佐渡でモデルを確立できれば、仕事が足りない他の離島にも応用できます。必要な分だけ作って販売していける商品として、「シーグラスキャンディ」をフランチャイズ展開できるんじゃないかなと思っています。

パッケージが同じシーグラスキャンディが色んな場所で作られ販売されることで、この商品自体のブランド力も高まれば理想です。

—フランチャイズ化することで、他の離島でも雇用機会と地元産のお土産がうまれるかもしれませんね。フランチャイズ展開する場合、商品は他の離島と同じものですか?

佐渡では佐渡の塩を使っていますが、他の離島で独自の塩を作っていればそこの塩を使うこともできます。名産品のエッセンスをいれるなど、その島のオリジナル商品を作ることもできると思います。

SNSで相談しながら商品化

—見た目だけでなく、地元に貢献するお土産というストーリーも魅力的ですね。シーグラスキャンディはどう売っていったんですか?

商品は、2021年11月16日にリリースしました。2022年1月現在は佐渡汽船をはじめ、島内10箇所、島外1箇所の店頭販売とネット販売をしています。

観光客の出入りする佐渡汽船などでは、商標登録申請した日に「こういうことをやろうと思っているんですけど、どれくらい売れそうですかね」と話をしてマーケティングを始めました。

同時に、デザインやHPを自分で作成しました。Instagramでもパッケージデザインを6案出して「どれがいいと思いますか?」と尋ねてみたら、とても反応がよかったんです。

そんな風に思いついたことをすぐ相談したり、マーケティングの様子をSNSで載せたところで、SNS経由で「置かせてほしい」と連絡を多く受けました。島外の方からも「置きたい」という相談もいただいています。

—SNSでLIVE的にすすめられ、それを見る島の人やお土産物店の反応もよかったんですね。

そうなんです。佐渡汽船は、年間約146万人以上(令和1年)、月あたり約10万人以上の出入がある港です。しかも、大きな駅のように有名菓子店さんが入っているのではなく、お土産屋さんが好きな商品を思い思いにディスプレイしています。

ですから、そこにディスプレイを考えて目を引く商品を置いたら売れると思っていました。結果、オフシーズンの平日3日で完売と想像より売れています。

実は、お土産屋さんに並んでいる昔ながらの佐渡のお土産商品のおよそ8割は、県外で製造されていると言われています。でも今、シーグラスキャンディだけでなく、お茶やチョコ、お菓子など佐渡に作り手がいて、思いを持って作っている商品の人気が高まっているんです。お土産物もストーリーや背景をどう伝えるかが肝になっていると思います。

シーグラスキャンディも、これができた理由や背景がみえることで、「また欲しい」という人が増えてくれると思います。

「飴の可能性」がある2つの理由

—シーグラスキャンディで苦戦したことはありますか?

飴のレシピを考える際に、一番苦戦しました。調べても、飴の老舗や飴を売っている人が減っていて、アドバイスを受けられそうな人がいなかったんです。だからこそ飴の商品の可能性はすごくあるなとも思えました。

お菓子を作る設備や資格面は大変だったので、製造だけは外注でお願いしています。一方で、企画して商標登録を出して、単価の計算や商品製造のマニュアル化、材料の仕入れ、販路の営業までは全て1人でできたんです。スタートしやすい事業でした。

—それでも、パッケージやネット販売の場合、離島ならではの商品に輸送費がかかる点など利益化するのは難しくなかったんですか?

飴には2つのメリットがあります。賞味期限が長いこと、そして原価が安いことです。

原価が安いので、初期投資を抑えられましたし、初動でオフシーズンにこれだけ多く売れたことから、さらに売れるポテンシャルが見込め、パッケージ代もまた少し抑えられます。SNSの問い合わせから東京で卸をする話も出ているので、今後販売する場所が広がれば可能性はさらにふくらみますね。

シーグラス水族館で観光客を呼び込む

—今後の新しい展開は考えているんですか?

佐渡には美味しい果物が多いので、中国のりんご飴のような糖葫芦(タンフール)など新しい商品も考えています。佐渡のシーグラスを使ったアクセサリーなどの物販も予約販売で行っていますし、今は町の商店街の空き店舗にシーグラス水族館を作る展開も考えています。

佐渡市の河原田地区では毎年万燈祭(まんとうまつり)が開催されていて、夜に地域のみんなが集まり、各地区で万燈(骨組みをつくり紙を貼って中から燈をともす)を製作するんです。でも人口減少の問題から立体で作れなくなった地区もすでにあります。

今回作るシーグラスで作る「海の生き物」の作品の骨組も、この万燈と同じ技術を活用しています。若い人や子どもたちを巻き込み、製作に慣れていくことで伝統継承もしていきたいと考えています。

地域の人たちが自分たちの作品で人を呼び込めたら素敵ですよね。入館料は募金制で、得た収入で海岸清掃費や海洋ゴミの処分費などを捻出して、綺麗な佐渡の海を守って行きたいです。

インタビューを終えて

娘の夢を叶えたいという発想から生まれたシーグラスキャンディ。佐渡の海からできた商品が多くの人に愛され、広がっていくことで佐渡の海が綺麗になり、雇用や町の文化を守る活動につながっているとは驚きでした。

「シーグラスキャンディがどこかの離島にも広がり、その島でも仕事やお土産が増えるのが理想ですね。シーグラス水族館も、地域の社会を変えるきっかけのひとつになればいいなと思っています」と北啓さんは話します。

かわいいキャンディを買いに、また観光シーズンを目指して作られているシーグラス水族館の生き物たちに会いに、佐渡に足を運んでみたくなります。

北 啓さんプロフィール

SEA GLASS CANDY 代表 

新潟県糸魚川市生まれ、5歳の時に佐渡ヶ島に移住。

HP:SEA GLASS CANDY

 

この記事を書いた人

日本が誇る太鼓打ちになるには?鼓童池永レオ遼太郎さんインタビューさかもとみき

1986年高知生まれ。広告代理店や旅館勤務を経て、観光・ジビエライター・恋愛コラムニストをしています。

HP:坂本、脱藩中。