「国葬」の意味とは?歴代国葬された人や費用、反対の理由も解説

「国葬」という言葉は、2022年に行われた安倍晋三元首相の国葬の際に大きな注目を浴びることになりました。実施には様々な意見がありましたが、実はよくわかっていなかった、という方もいるかもしれません。今回は「国葬」の意味をはじめ、これまで国葬された人物や国葬にかかる費用、反対の意見がある理由に関しても解説します。

「国葬」の意味とは?

「国葬」とは国家が喪主となる葬儀

「国葬」とは、国家が喪主となり行われる葬儀です。国が行う儀式として、費用はすべて国費から賄われます。「国葬」の対象となる人は国家に貢献した人で、判断基準は国によって異なります。

日本での「国葬」は、1926年の「国葬令」により初めて規定されましたが、1947年に日本国憲法の施行に伴って失効して以降は、明確な判断の根拠となる法令はありません。天皇が崩じた際には、「皇室典範25条」により「大喪の礼」が執り行われます。

「国葬」には2種類あった

上記でも述べた「国葬令」では、「国葬」には2種類ありました。1つは、天皇およびその一家の葬儀です。天皇・皇后・太皇太后・皇太后・皇太子・同妃・皇太孫・同妃・摂政の地位にある皇男女子が対象となっており、国制上当然行うものとして定められていました。

もう1つは、特旨による葬儀です。これは国家に大きな功労のあった人や、勅旨が死亡原因に関わっていた人の葬儀で、皇族も含まれていました。

「国葬」と「国民葬」の違い

「国民葬」とは、国家に対し多大に貢献した人を称えて、その死を悼む葬儀です。「国葬」と異なる点は、葬儀費用の大部分は国費から賄われますが、遺族も一部を負担することです。

「国民葬」が行われた例としては、1922年の大隈重信(おおくましげのぶ)、1975年の佐藤栄作(さとうえいさく)の葬儀があります。

日本で歴代、国葬された人物とは

「吉田茂」

第二次世界大戦後の「国葬令」失効以後、初めて行われたのが吉田茂元首相の国葬です。吉田茂元首相は1967年10月20日に89歳で亡くなり、国葬は臨時閣議の決定によりその11日後に日本武道館にて執り行われました。

吉田茂元首相の葬儀が国葬となった理由は、「戦後の復興に尽くした故人の功績を称えるため」とされています。外国使節をはじめ、約5700人が参列しました。

「安倍晋三」

戦後もう1人国葬が行われたのが、安倍晋三元内首相です。安倍晋三元首相は2022年7月8日、奈良県奈良市で第26回参議院議員通常選挙のため街頭演説を行っていた際、凶弾に倒れました。

岸田首相がその6日後の記者会見で国葬を行うことを表明し、同年9月27日に日本武道館にて国葬が執り行われました。アメリカのハリス副大統領やインドのナレンドラ・モディ首相、オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相など、約4200人が参列しました。

「国葬」の参列者とは

「国葬」の案内状が届いた人

国葬に参列する人は、政府から公式な案内状が届いた人になります。2022年の安倍晋三元首相の国葬の際には、国内には元職を含む三権の長と国会議員、立法・行政・司法関係者、地方公共団体代表、各界代表、遺族や遺族関係者、報道関係者などを対象に案内状が送付されました。

案内状送付先の基準としては、内閣府の担当者が「元首相の過去の葬儀を踏まえた」と説明しましたが、明確な判断基準は示されませんでした。

「海外の要人」も

国葬には、海外の要人も参列します。過去の国葬では、海外からは首脳級の人物や国際機関の代表者などが参列しました。

国葬では、参列する各国の政府首脳や要人などがその場を利用して意見交換や会談を行う「弔問外交」が行われることがあります。「弔問外交」は、通常の外交ルートでは会談が困難な首脳同士に機会を提供する、重要な外交の場となる場合もあります。

「国葬」に反対する人がいる理由とは

費用が膨大

安倍晋三元首相の国葬の際には、世論調査で国葬に反対する人が賛成する人を大きく上回り、国会前では大規模な反対デモも行われました。

国葬に反対する理由の1つが、巨額の税金が使われることです。安倍晋三元首相の国葬では、費用総額は速報値で12億4000万円だったと公表されました。費用の内訳は、警備費4億8000万円、接遇費5億1000万円などです。これほど膨大な費用が国費から支出されることに納得できないという人が多く、反対する人が多い一因となっています。

根拠になる法令がない

根拠となる法令がないことも、国葬に反対の意見が出る理由の1つです。先に述べたように、戦前には国葬令がありましたが、戦後は皇室典範25条「天皇が崩じたときは、大喪の礼を行う」という法律以外に、国葬について定められた法律はありません。

安倍元首相の国葬の際には、内閣府設置法にある「国の儀式」が法的根拠として挙げられ、そのうえで国葬を閣議決定したため法的に問題ない、とされました。しかしこの場合、行政権のある政府が閣議決定さえすれば、どんな儀式でもできることになってしまうため、根拠としては苦しいものでした。

故人の評価が定まっていない

安倍晋三元首相の国葬の場合、憲政史上最長の在任期間だったこと、また、海外の首脳と広く親交があったことなどは間違いありませんが、政治的な評価はまだ定まっていません。経済政策アベノミクスや安全保障法制など、成功していたかの答えが出るのはこの先です。

こうした意見が割れる要因があることで、国葬に反対する人が多くなると考えられます。

まとめ

「国葬」は、国家が喪主となり行われる葬儀で、費用はすべて国費から賄われます。戦後の日本で国葬が行われた人は、吉田茂元首相と安倍晋三元首相の2人です。国葬には膨大な国費が使われることや、根拠となる法令がないことなどが理由となり、国葬に反対する人もいます。