「甲乙丙」の意味とは?読み方・順番や契約書での使い方も解説

契約書で目にすることが多い「甲乙丙」という表記。どんな意味があり、どんな由来があるのかご存じでしょうか?「甲乙丙」の後に続く文字はもちろん、契約書での使い方や、契約書で「甲乙丙」を使う理由、メリット・デメリットなども一緒に解説します。

「甲乙丙」の意味と読み方とは

「甲乙丙」の読み方は「こうおつへい」、それぞれの文字が意味を持つ

「甲乙丙」はそれぞれ「甲(こう)」「乙(おつ)」「丙(へい)」と読みます。「甲乙丙」で意味を持つのではなく、それぞれの文字に意味があります。

「甲」は「亀の甲羅」を表しており、「殻」を意味する漢字です。「こう」以外に「きのえ」とも読みます。

「乙」には「まがる」「かがまる」という意味があります。「甲に次ぐ2番目の存在」という意味で使われることも多く、「きのと」とも読みます。

「丙」は「芽が出て葉が広がった状態」を表す漢字です。「ひのえ」という読みもあります。

「甲乙丙」の由来は「十干(じっかん)」

「甲乙丙」の由来となっているのは、古代中国の暦「十干(じっかん)」です。「十干」とは、10日間を一区切りとして1日ずつ名前をつけた、暦や方位、時間を表すためのもの。「甲(こう)・乙(おつ)・丙(へい)・丁(てい)・戊(ぼ)・己(き)・庚(こう)・辛(しん)・壬(じん)・癸(き)」の10の要素で成立しています。

日本ではこの10の要素を「きのえ・きのと・ひのえ・ひのと・つちのえ・つちのと・かのえ・かのと・みずのえ・みずのと」と読みます。この読み方には、「十干」の根底に、陰陽説と五行思想が合わさった「陰陽五行思想(いんようごぎょうしそう)」があることが関係しています。

五行には「木」「火」「土」「金」「水」の5つの要素があり、「十干」の陰陽には陽の「兄(え)」と陰の「弟(と)」が当てはまります。これらをそれぞれ「甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸」に当てはめ、日本での読み方となりました。

「甲乙丙」の順番、続きは「丁(てい)」

上記で紹介した「十干」を由来とする「甲乙丙」。それに続くのは、「丁(てい)」となります。「十干」の「甲乙丙丁…」の順番に沿って、「甲」が一番立場が上のものとされることがありますが、本来は位を表す意味は含んでいません。

「甲乙つけがたい」という言葉がありますが、これは「2つのものにほとんど差がなく、どちらが優れているとも言いにくい」という意味です。

契約書での「甲乙丙」の使い方とは

契約書での「甲乙丙」の使い方

契約書で「甲乙丙」が使われる場合、それは記号や代名詞として使用されます。

契約書で「甲乙丙」を使う場合には、一般的に「甲」から順番に使います。契約書の冒頭で「株式会社〇〇○(以下「甲」とする)および株式会社□□□(以下「乙」とする)は、××の取り扱いに関し~」のように記載し、その後は「甲」「乙」を使って記載していきます。契約書に3つめの固有名詞が登場する場合は「丙」、4つなら「丁」、5つなら「戊」を使います。

先に記載した通り、「甲乙丙」には優劣は関係していませんが、「甲」が上位で、次いで「乙」、その次が「丙」のイメージがあり、なかには優劣を気にする人もいるため、一般的にはお客様を「甲」、自社を「乙」とします。

企業間での契約の場合には、規模が大きい企業を「甲」とし、もう一方を「乙」とする場合も。不動産賃貸借契約書においては、貸主を「甲」とし、借主を「乙」とする場合が多い傾向にあります。

英文の契約書では記号への置き換えはしない

契約書で「甲乙丙」を使って固有名詞を置き換えるのは、日本独特のスタイルです。中国や台湾で使われる例もありますが、英文の契約書ではこうした記号への置き換えはされません。

英文の契約書では、売主は「Seller」、買い主は「Buyer」と代名詞表記したり、「Microsoft Corporation」なら「Microsoft」のように略称を使用したりします。

近年では日本の契約書でも、英文の契約書にならって「甲乙丙」は使わず、代名詞や略称を用いるケースが増えています。

契約書に「甲乙丙」を使う理由とは

契約書で「甲乙丙」を使う理由は「読みやすくするため」

契約書は文字が多くなりがちで、固有名詞をそのまま記載していると文章が長くなってしまい、読みにくくなります。「甲乙丙」を契約書で使う理由は、文字数を減らしてこの読みにくさを解消し、読みやすくするためです。

また、「甲乙丙」を使えば、他の相手と同じ内容の契約を結ぶ際に、テンプレートの使いまわしが可能になります。契約を締結する機会が多い企業では、手間を省き業務効率を上げるために「甲乙丙」を使用している場合があります。

「甲乙丙」を契約書で使うメリット

上述した通り、契約書で「甲乙丙」を使うメリットは、契約書が読みやすくなることと、一度テンプレート化してしまえば、何度も使い回しができることです。

また、契約書を読み慣れている人からすれば、「甲乙丙」を使って記号化することで、構造がシンプルになり素早く契約内容を読み解くことができます。

「甲乙丙」を契約書で使うデメリット

契約書に「甲乙丙」を使うデメリットは、「甲乙丙」を取り違えて記載してしまう可能性があることです。この間違いにより、場合によっては大きな損害を出してしまうケースもあるため、注意が必要です。

また、契約書を読み慣れていない人にとっては、「甲乙丙」と記載されることで、「甲」がどちらで「乙」がどちらなのかわからなくなってしまい、逆に読みづらくなる場合もあります。

専門外の人にとっては読みづらくなる場合の方が多いため、契約や法律の専門家の間では「甲乙丙」を契約書で使わない方がいい、という見解が多くなってきています。

成績を「甲乙丙」で評価する?

明治・大正時代の成績は「甲乙丙」で評価されていた

明治時代や大正時代の成績表は、「甲乙丙」の3段階で評価されていました。明治24年の「小学校教則大綱」を転機として、それまで点数で表記されていた成績表が「甲乙丙」での評価へと変化。「甲乙丙」の下に、落第を意味する「丁」もあったようですが、これはほとんど使われなかったようです。「甲乙丙」の3段階評価は、昭和13年の学籍簿改訂により姿を消しました。

「甲乙丙」が成績を表す際に使われていたために、現在でも「甲」の方が上位というイメージを持つ人が多いと考えられます。

「甲乙丙」でランクを表すことも

「甲乙丙」はランクを示す際に使われる場合もあります。例えば、「危険物取扱者」の資格には、甲種、乙種、丙種の3種類のランクがあり、取り扱える危険物の範囲がそれぞれ異なります。

ランクや成績を表す際に上位になるのはいつも「甲」なので、本来優劣は関係ないはずの契約書でもどちらが「甲」でどちらが「乙」なのかで揉める場合があるのは、そのためです。

まとめ

「甲乙丙」には、それぞれの文字に意味があります。古代中国の暦「十干」が由来で、契約書で使う場合には「甲」から順番に使うのが一般的です。契約書で使う場合、文章を短くできるというメリットがありますが、取り違えて記載してしまうと大きなトラブルを引き起こす場合もあるので、注意しましょう。