「ひととおりではない」という表現は、日常会話のなかでよく使われる表現ではありませんが、芥川龍之介の著作『羅生門』で使用されているように、文語では度々目にする表現です。「ひととおりではない」の意味をはじめ、『羅生門』での一節や使い方の例文などをご紹介します。
「ひととおりではない」の意味とは
「ひととおりではない」の意味は「並大抵ではない」
「ひととおりではない」は、「並大抵ではない」「ひどい」「すさまじい」などを意味する言い回しで、物事の程度が普通ではない様子を指して使います。
同じように普通の程度ではないことを表す言葉として「ひとかたならない」という表現がありますが、こちらは「ひとかたならぬ世話になった」のように良いことにも使うのに対し、「ひととおりではない」は、良くないことをいう場合に使われることが多い表現です。
漢字表記は「一通りではない」
「ひととおりではない」は漢字では「一通りではない」と表記します。「一通り」には「ひとつの種類」「ひとつの組み合わせ」「 物事の程度が普通であること」「尋常」 「一応、全体にわたっていること」「 一度に通りすぎること」などの意味があります。
上記の意味のなかで、「物事の程度が普通であること」「尋常」の意味で使われる「一通り」を、「ではない」で否定し、「物事の程度が普通ではないこと」「異常」という意味にした表現が「ひととおりではない」です。
「ひととおりではない」の使い方とは
「ひととおりではない」の使い方
「ひととおりではない」は上述のように、ほとんどの場合で良くないことを指して使います。「ひととおりでない」という言い回しも、「ひととおりではない」と同じ意味で使います。
文脈によって、「ひととおり」以下の「ではない」の部分を「ではなく」や、「ではなかった」などのように変化させて使用します。
「ひととおりではない」を使った例文
- 彼女の落胆した様子はひととおりではなかった。
- 台風が通り過ぎた後の街は、ひととおりではない被害状況だった。
- 彼の取り乱しようはひととおりではなかった。
『羅生門』の「ひととおりではない」を使った一節
芥川龍之介の著作『羅生門』のなかでは、「ひととおりではない」は以下のように使われています。
災いが続き、寂れた京都の洛中の様子が「ひどい」「並大抵ではない」ことを表す一節で「ひととおりではない」が使われています。
「ひととおりではない」の意味を持つ古語とは
「なべてならず」
古文のなかで使われる古語にも、「ひととおりではない」という意味を持つ言葉がいくつかあります。
そのうちのひとつ「なべてならず」は、漢字では「並べてならず」と表記し、副詞の「なべて」に断定の助動詞「なり」の未然形と、打消の助動詞「ず」から成る言葉です。「ありふれていない」「並ひととおりではない」「格別だ」という意味があります。
紫式部の著作『源氏物語』の「桐壺」に、「やむごとなき御思ひなべてならず(帝のありがたいご寵愛が並ひととおりではない)」という一節があります。
「かぎりなし」
「かぎりなし」は「限り無し」と漢字表記し、
- 「限りがない」「際限がない」「果てしない」
- 「ひととおりではない」「甚だしい」
- 「この上ない」「最高だ」
の3つの意味があります。このうち❷の「ひととおりではない」の使い方として、『堤中納言物語(つつみちゅうなごんものがたり)』の「虫めづる姫君」に「心にくくなべてならぬさまに、親たちかしづきたまふことかぎりなし(奥ゆかしく並ひととおりでない様子に、親たちが大事に育てなさることはひととおりではない)」という一節があります。
「おぼろけなり」
「おぼろけなり」には、
- 「普通だ」「並ひととおりだ」「ありきたりだ」
- 「並ひととおりではない」「格別だ」
という、正反対の2つの意味があります。正反対の意味を持つ理由は、❶の意味で使われる場合、ほとんどが否定の表現を伴って意味を打ち消す使い方がされていたため、そのうちに否定の表現がなくても❷の意味で使われるようになったからだと考えられます。
「ひととおりではない」の英語表現とは
「ひととおりではない」は英語で「unusual」
「ひととおりではない」を英語で表現する場合、「unusual」が使えます。「unusual」の意味は、「普通ではない」「異常な」「ありふれていない」「目立った」「飛び抜けた」「独自の」「独特な」などです。
他にも、非常に悪い状況を表す「ひどい」という意味で「ひととおりではない」と言いたい場合には、「terrible」を使うこともできます。
「ひととおりではない」の英語表現を使った例文
- This cold weather is rather unusual.(この寒さはひととおりではない)
- He made a terrible mistake.(彼はひととおりではない間違いをした)
まとめ
「ひととおりではない」は、漢字では「一通りではない」と表記し、物事の程度が普通ではない様子を指す言葉です。「並大抵ではない」「ひどい」「すさまじい」などの意味があります。一般的には良くないことをいう場合に使われることが多い表現ですので、覚えておきましょう。