「働きたいママ、人材不足の企業、誰も諦めさせたくない」under→stand Inc. 河田夏樹さんインタビュー

今回インタビューを行うのは、under→stand Inc. 取締役COOの河田夏樹さん。

河田さんは、2017年4月、経営コンサルタントと専業主婦の妻の3名でunder→stand(アンダースタンド)を創業。ブランクのあるママと人材の不足問題を抱える企業をつなぐアウトソーシングサービスAnyMaMa(エニママ)を運営し、営業なし・広告なしでクライアント数は100社以上に。海外展開も始め、急成長を続けているunder→standのこれまでの歩み、働くママの現状、そして今後の展望について語ってもらいました。

「働きたくないと言ったことはない」そんなママの本心に寄り添って

「働きたいママ、人材不足の企業、誰も諦めさせたくない」under→stand Inc. 河田夏樹さんインタビュー
under→stand(アンダースタンド)のメンバー

ー河田さんがアンダースタンドを設立し、エニママをスタートさせた経緯を教えてください。

僕の奥さんは専業主婦で、以前から彼女には「好きなことで何か始めてみたら?」とよく言っていたのですが、4年前に奥さんが好きな料理を媒介に新しいサークル「マナラボ」を始めることになりました。このマナラボというサークルが、エニママの前身です。

マナラボは単なる料理教室ではなく、料理を嫌いになったママ向けのコミュニティというコンセプトでした。

「料理が好き」というママは一定数いるかと思いますが、毎日料理をしているママのみんなが料理を好きなわけではなく、「家族や子どものためにやらなきゃ」というのが本当の所かとおもいます。

しかし、子どもは少し残酷な所があって、ママが頑張って作った料理を投げたりする。そしてスーパーで買った離乳食の方がおいしそうに食べたりする。そうなるとママはやる気をなくして、青い野菜を使わなくなったり、お店で買ってきて済ませたりするようになる。その結果、ママが料理を嫌いになってしまう。

そんな「料理を嫌いになったママ」たちのための、やわらかいコミュニティを作りたいと始めました。

ーマナラボは好評だったのですか?

1回の料理教室は定員5人だったのですが、開催スケジュールが出るとすぐに予約で埋まってしまう状況で、3年間で700人ものママが参加してくれました。リピート率は7割ほどもありました。

大きく育ったマナラボですが、子どもの小学校就学を機に奥さんが社会復帰することになり、その活動を終えることになりました。奥さんは、社員として時短勤務するかパートで働くかを悩んでいましたが、次第に彼女の中で「これまでの自分たちの資産をいかしたい」という気持ちが大きくなっていったようなんですね。

マナラボで出会ったママたちは、産休・育休などのブランクによって社会的信用を失い、スキルがありながらも社会復帰のチャンスを逃している人たちが多かった。しかし、誰もが「働きたくないと言ったことはない」と口をそろえて話していました。

そこから、世の中のためではなく、目の前にいる「何かを諦めかけたママ」たちのために何かできないかと夫婦で話すようになりました。

ー河田さん自身も奥さんの想いに共感して、前職を辞めて会社を設立することになったのですか?

実は前職(リクルート)を辞めずにアンダースタンドを立ち上げています。リクルートでは、それまで広告制作ディレクターとして現場では評価を得てきましたが、マネジメント職へと移ると自分のスキルとのギャップを感じるようになるようになっていました。頑張ってもうまくいかず、毎日、吐くほどつらかった。

その頃、僕はリクルートでのマネジメント業務と兼務で事業会社に出向していたのですが、戦略コンサルタント出身で、事業会社の事業戦略を担当していた方が、のちにアンダースタンドの共同経営者となる門田さんでした。

そんな門田さんと強い繋がりが生まれたのは、事業会社での合宿です。その合宿の仕切りを僕が任せられたのですが、上司から叱責を受けたりしてかなり疲弊していました。

落ち込んでいた僕は、打ち上げの席で門田さんに話しかけたのです。「どうすれば門田さんのようになれるのですか?」と。門田さんは30代半ばになっても自分を変えようとする人間に興味を持ってくれたのか、真剣に話をしてくれて、以降、定期的に話す場を設けるようになりました。

コンサルタントの方が当たり前に実践する課題の構造整理やプロジェクトマネジメントの手法を彼から学びました。同じ物事でも、整理されるだけで、多くの人が介在しても安定して進められるのだと感動したのを今でも覚えています。

しばらくして奥さんを紹介し、その後は河田家で毎週水曜日の夜に集まるように。3人の定例は1年も続きました。

ーその後、どのようにAnyMaMa(エニママ)のサービスアイディアが生まれたのですか?

門田さんと出会った後に、僕がリクルートでマネジメントしていたチームの編成を抜本的に変えたことがありました。今まで一人が最初から最後まで担当していた業務を分解して、対面業務と非対面業務で分け、数人のチームで行うようにしたのです。属人化を防いでうまく業務分解してチームで行う方が、品質が安定するという結果を得て、この仕組みは可能性があると感じていました。

事業の論理と、ママの論理を、ディレクターの論理で結びつけ、「ブランクのあるママたちで優秀な体制を作り、人材不足問題を抱える企業の業務を担う」というアウトソーシングサービスAnyMaMa(エニママ)のアイディアが生まれました。

大企業もベンチャー企業も、どこも人材の確保に困っていたのは明白で、特にエース人材がメンバー育成などの非コア業務によってパンクしているのが目に見えていました。

パフォーマンスを上げるにはアウトソーシングを活用するしか方法はなさそう。一方でアウトソーシングサービスは単なる作業の下請け的なものが中心。うまく業務分解して、チームで長く運営できるやわらかな事業支援サービスは世の中に求められているような気がしたのです。

ーそれぞれの想い、経験が結びついて生まれたのですね。

「働きたいママ、人材不足の企業、誰も諦めさせたくない」under→stand Inc. 河田夏樹さんインタビュー

2017年4月の会社設立後、半年間でベンチャー企業3社ほどに立ち上げメンバー3人でがっつり入り込んで、サービスの原型を作っていきました。

マナラボでつながりが強かった同じ区在住のママたち20人程に声をかけてチームを編成し、僕たちがディレクターとなり、ディレクター×ママチームで体制を構築しました。当時の立ち上げに関わってくれたママメンバーの内、5名は現社員となり、他にも今も複数の案件で活躍しているママたちがたくさんいます。

ーその半年間の結果はいかがでしたか?

それが、めちゃくちゃ喜ばれました。ママたちには「仕事と子育てをトレードオフしない生き方があるのだ」「どちらも諦めなくていいのだ」「私でも働けるのだ」などという声ももらえるほど、すごく喜んでもらえました。

企業には「安心して安定して業務を任せられる」「採用コストも人材育成コストも軽減できる」と感謝の声をいただきました。テスト期間では、ママと企業、両方に喜んでいただける結果となりました。このようにテスト期間を経て会社を設立し、エニママをスタートさせました。

自分で決められる人が増えると、社会は自然と幸せに

「働きたいママ、人材不足の企業、誰も諦めさせたくない」under→stand Inc. 河田夏樹さんインタビュー

ー現在のエニママには、どれくらいのママが登録して、どれくらいの企業に利用いただいているのですか?

毎月30〜40名のママの登録があり、その数は2020年1月時点で800名弱になっています。企業数は100以上、案件数は200以上。僕たちは、営業も広告もしていないのですが、口コミや紹介で企業の数もママの数も増え続け、220%の成長率を記録しています。

設立時は門田さん、僕、奥さんの3人でしたが、1年後に採用を始め、現在21人の社員がいます。ベンチャー企業で今まで社員が1人も辞めていない、そして設立後約3年たっても役員が1人も変わっていないというのも特徴で、皆ロイヤリティが高いのだと思います。

僕たちの働き方は自由です。オフィスに来てもいいし、出先のカフェかどこかでやってもいいし、家でやってもいい。エリアも東京じゃなくてもどこでもいい。社員全員が一箇所に集まる会議や行事もやらない。社員には、仕事以外は家族に集中してほしいのです。

ー相手の大事なことを理解する。これはアンダースタンドという社名に込められた想いなのでしょうか?

そうですね。アンダースタンドはダブルミーニングで、understand(理解する)に加え、under→standと表記するように、下から立つへ、つまりは自立を支援するという想いを込めています。

諦めかけた人を支援したい。その人たちが自立できるように支援したい。自分で決められる人が増えると、社会は自然と幸せになると思っています。

ーエニママについて具体的に伺いたいのですが、どのような事業支援をしているのでしょうか?

単発のタスク単位ではなく、部門や機能単位で課題設定をし、事業支援することが多いです。事務関連やサービスの裏側のオペレーションを一括で引き受けたり、秘書・人事・経理などの柔軟性が必要な業務を支援したり、リサーチやセールス支援からメディアコンテンツ制作・運用支援までと幅広く対応しています。

特にメディア系のご相談は多いです。ただ、メディアの運用と一口に言っても、単に記事を執筆するだけでなく、そもそもなぜメディアの運用を依頼することになったのか、企業にとって何が課題なのかを整理し、よりよき体制や進行の提案を行った上でスタートしています。ママたちへのインプットも行うなど、企業の導入までの負担を軽減しています。

「うまく業務分解して、チームで長く運営する」ことをコンセプトとしているので、企業数を増やすというよりは、一社に深く入り込んで長いお付き合いをしたいと考えています。数より深さを重視し、世の中を良くしたいという企業の業務をしっかり理解し、一歩先の提案を行い、業務を運用し続け、企業の成長を支えたいと思っています。

諦めかけた人の、いい予感を増やしたい

「働きたいママ、人材不足の企業、誰も諦めさせたくない」under→stand Inc. 河田夏樹さんインタビュー

ー河田さんは多数のママと接しているかと思いますが、働くママの現状をどのように感じていますか?

皆、想像以上に、本当に働き方で悩んでいる。エニママでは専業主婦の方の登録が多いかと思っていたのですが、正社員の方の副業やフリーランスの方、介護との両立をしたい方など様々なママたちがそれぞれ課題感を持って登録してくれています。これまでの働き方や今の働き方を続けられないかも、という将来の不安を抱えているのでしょう。

また、スキルがあるのに自信がない人が多く、エニママの登録前面談では「私なんか…」という言葉をママからよく聞きます。特にブランクがあるママは、社会的信用を喪失し、自信を持てなくなっているのだと思います。でも、彼女たちは「諦めたくない」という気持ちも持っている。

ーママが働くことで、家族や自分自身にどのような影響があるのでしょうか?

最初は、ママが働くことに対して旦那さんは興味がないという場合もあるようです。在宅ワーク自体、ママだけでなく旦那さんにとっても初めての経験になることが多く、イメージできないのでしょう。しかし、ママが仕事にチャレンジし、自分で稼ぎ、やりがいを持って生活をするようになることで、徐々に家族にいい変化を与えているようです。お子さんがママの仕事を応援してくれたり、旦那さんが家事を手伝ってくれるようになったり、家族の会話が増えたりという変化はとても多く耳にします。

自分で稼ぐという話では、ママたちにとっては、たとえ少額であっても「私が稼いだお金」ということは重要なのだと思います。

あるママの話ですが、彼女は出産前まで大企業で正社員としてバリバリ働いていて、多分年収750万円ぐらいはあったと思います。出産を機に専業主婦となり、育児が落ち着いた頃にエニママに登録してくれたのですが、エニママの初めての報酬が5,000円くらいでした。

それでも彼女は、「このお金が、今までの人生の中で一番嬉しい」と言っていました。このお金で飲むコーヒーがどんなにおいしくて、そのお金で買う子どもの服がどんなに嬉しかったことかと。金額は関係なく、働いてその結果に得たお金だという喜びが、日々の暮らしの活力になっているのだと思います。

ーアンダースタンドの今後の展望を教えてください。

ママの支援を加速させると同時に、何かしらのきっかけで自信をなくしたり、レッテルを貼られたことで力を発揮できなくなってしまったりした人たちを支援する事業として拡大していきたいと考えています。設立時から「諦めかけた人たちを支援したい」という想いを大切に、社会で苦しんでいる人たちをサポートし続けたいと思っています。

そのためにも、まずはクライアントの一社員、ママ一個人、エニママに関わってくださる全ての人の才能が開花し、人生が豊かになるための、いい予感が増えるような施策に取り組みたいと考えています。

メンタル面の支援、ライフスタイル全体のサポート、地方行政との連携、オフライン業務のサポートなどをやっていきたいです。

ー最後に、河田さんは、アンダースタンドを通して、社会をどう変えていきたいと思っていますか?

アンダースタンドは、「いい予感、に満ちた人生を」というビジョンを掲げています。「無理かも…」と思っている人が、「いけるかも!」と思えるように支援していきたい。

いい予感が積み重なるとチャレンジできる心が生まれ、仲間が増え、たくさんの行動を生んでいくと思うのです。そうやって自立した人が増えていく。自分で決められる自立した人が増えていけば、社会のハッピーにつながると信じています。

取材を終えて ~「エニママ」は働くママと企業に好循環を生み出す存在~

かつては第一線にいたママたちが、ブランクから自信を失い、埋没してしまっている…。本当は子育ても家事も、働くことも諦めたくない。そんなママたちの想いに対して「エニママ」は、確かなソリューションを提供し、一方で企業の採用コスト・育成コストを極小化し、企業の成長を支えています。

多様な働き方と企業の成長の両立を追求するアンダースタンドは、確実に社会の負を解消し、正のスパイラルを生み出しているのだと感じました。こういった企業が、社会を少しずつ前向きな方向へと導いてくれると信じています。

河田夏樹さん

under→stand Inc. 河田夏樹さんインタビュー

1982年生まれ神戸育ちの杉並在住。under→stand Inc. の取締役COO。ゼクシィの広告制作などを経て、2017年に創業。経営コンサルと専業主婦の妻との3名という異様な陣容で創業。ブランクのあるママと企業をつなぐアウトソーシングサービスAnyMaMa(エニママ)が主幹事業。広告などを使わないスタイルで、登録ママ650名・企業数120社まで成長。新しい取り組みやコミュニケーションに関わる設計、おしゃべり領域を担当。

<under→stand Inc. サイト> http://understd.co.jp/

<AnyMaMa(エニママ)サービスサイト> http://anymama.jp/

 

この記事を書いた人

岡山祥子

under→stand Inc. 河田夏樹さんインタビュー新卒で入社したリクルートSUUMOの広告制作を経て、ロンドン遊学を挟み、2014年にフリーのディレクター・ライターとして独立。広告・PRの企画立案やデザインディレクション、各種記事執筆を、住宅・インテリア業界中心にアパレルなど色々。たまにクラフトビールのバーでビールを運んだり、ヨガを教えたりしています。スーパーフリーランスです。