今回インタビューするのは、300人以上を集客したタキビ×サウナを楽しめるイベント「8BAN EVINING MARKET」を仕掛けた、地方公務員の稲葉一樹さんと新潟家守舎代表の小林紘大さんのお二人。
新潟市の中心街、ガレージ屋上で仕掛けたイベントでは、焚き火やサウナで心身ををリラックスしながら、まちの思い出や未来を語り合う参加者の姿がみられたそうです。
今回はイベントのコロナ対策や、2人が取り組む「エリアリノベーション」の意義についても語っていただきました。
まちの中に居心地のいい場所を作る方法
ー今回行って大好評だった第1回8BAN EVINING MARKET「タキビサウナ」はどういったイベントですか?また、どのようにはじまって、何を目的としていたんですか?
稲葉:プロジェクトのきっかけは、新潟の中心街近くにある空き家状態になっていたビルのオーナーの娘さんに「せっかくなら、ビルをまちのためになるように活用したい」という想いを相談されたことでした。
僕は公務員をしながらまちづくりを勉強しています。その中で「自分の生活をプライベートや仕事で関わった人たちとおもしろく、自分好みに形成していくこと」や、デザイン、マネジメント、コミュニケーション、プロモーションなどがバランスよく存在する、新しいエリア形成の手法「エリアリノベーション」にも興味が湧いてきました。
そんなタイミングで、空きビルを利用した「場づくり」をしてみないかという話に、大きなモチベーションがうまれたんですね。
ー一緒にこのイベントを企画した小林さんにも、そういうモチベーションがあったんですか?
小林:僕は「自分の暮しは自分でつくる」という考え方を大事にしています。未来のまちを思い描き、地域と関わりあい、共創する「場づくり」をしていきたいなと。
その一環として、今回のように空きビルを利用して、まちの課題を「楽しい」に変えるアイディアを生み出し、実現していきたいという思いがありました。
ーなぜこのエリアでイベントを仕掛けたんですか?
小林:今回イベントを行ったエリアは、もともと多くの人が往来した2つの商店街の通り道でした。しかし、今は空き店舗が増え、人通りや新規出店も少なくなっています。
一方で、食材にこだわった飲食店など、根強いファンがいる店があったり、周辺にオフィスも多いことからアクセスもよく、エリアのポテンシャルも大きいと感じていました。
ー可能性のあるエリアだったんですね。街中で行うイベントは、商店街すべてのお店に説明を行なったり、場所を確保したりなどとても大変なイメージです。2人だけですすめられたときいて驚きました。
稲葉:実はちょっとした裏があります。商店街でのイベントならば通常、商店街に所属する全部のお店に話を通さなければなりません。しかし、ここは商店街の組織がないところで、自治会長さんたちには事前に話しましたが、自由にイベントをしやすいエリアなんです。
これ、「エリアリノベーション」ではセオリーなのですが、中心からちょっと外れたところだと、家賃断層と呼ばれる境界線があって、家賃が安く、新しい商売もしやすい。同時に、実は歴史的にも立地的にもポテンシャルがあるエリアだったりもするんですね。
僕は「心地よい暮らし」を実現するためには、住宅の快適さに加え、日常を送る場=まちの在り方が重要だと考えています。だからこそ、このポテンシャルのあるエリアで、「心地よさ・チャレンジ」の2つをテーマとしたイベントを行いたいなと思ったんです。
テーマは「心地よさ×チャレンジ」8BAN EVINING MARKETタキビサウナとは
ーガレージ屋上で焚火やサウナを楽しむというちょっと変わったイベントは、どんな発想から生まれたんですか?
稲葉:もともとガレージの屋上は想定外でした。リノベーションでビルだけ新しくしてもダメだから、道路でまちを歩く人に「何かこのエリアではあたらしいことが起こっている」っていうのを見せたかったんです。ですからはじめは道路でイベントを行おうと考えていました。
しかし、道路は公共の場でもあり、各種許可や、近隣住人に配慮も必要。実際に進めていく中で、道路沿線の住民の方から不安の声も聞いたことから、断念しました。そんな時に、もともとイベントをやろうとしていた場所の斜め前にあったガレージの屋上が「あいてるんじゃないの?」という話が出て、ガレージ側にお願いしてみました。すると、管理会社の方から想いに共感していただき、「ぜひ」と後押ししていただけたんですね。
実際にやってみると、道路に比べメリットもありました。ガレージでは搬入も撤収も、時間制限が道路より融通がきき、車で近くまで来れることもよかったですね。
小林:主催者に市役所職員が入ることで、協賛企業のワンパワー感がでないフラットでチャレンジしやすいイベントになったのもよかったです。このマーケットを通じて出会った仲間となら、ここ以外でもイベントを仕掛けられるなという自信にもなりました。
ーサウナや焚火という発想はどこからきたんですか?
稲葉:プレイベントを行なっていた時の来場者から「屋上でサウナをしたい」と希望があったんです。街中で女性をターゲットにした、ちょっと落ち着いたテントサウナをやろうという提案がでました。
「大人同士でゆっくり街を見ながら語る」ための明確なペルソナを想定し、テーマを「心地よい・チャレンジ」にして、新潟市内の真ん中でマーケットを実行しよう、と。
屋上のテントサウナでは、温められたサウナストーンに水をかけて香りを楽しむ「ロウリュ」も体験できます。大きい水風呂と小さいぬるめの水風呂を用意し、焚き火や夜空を見ながら休憩してリラックスしてもらう空間もつくりました。ちなみに、ビルの屋上でサウナイベントは新潟初の「チャレンジ」です。
もう一つのテーマである「心地よい」を軸に、マーケットは、気持ち良く食べるものを選べるビーガン対応の食事やスイーツ、ギルトフリーや野菜スイーツ、酵素ドリンク、カレー屋さん、ジェラートなどの飲食店を。また、体もリラックスできるリラクゼーション、キャンドル、インテリアグリーンなどの出店先を集めました。
ーテーマに沿ってイベント内容や出店先を厳選したんですね。
稲葉:テーマの軸は、このエリアをどうしたいか、です。このイベントは「エリアリノベーション」のための一つの手段で、今回出てくれたお店たちが「ここのエリアに需要があれば、出店を考えたい」と考えてくれるのが理想です。
そんな風にして、このエリアにしっかりとしたコンセプトをもった人たちが集まってきてくれると、個性ある素敵なお店が揃う風景が日常になる。そうなると、このエリアの光景は変わりますよね。そこを目指しているんです。
だから一過性の集客のために人気店や話題店ばかり呼ぶのではなく、エリアに合う、僕らしか知らないような新しい「チャレンジ」をしている人を呼んで、それをマーケットの個性にする。そうしてこのイベントを通して、まちをたのしむ大人が増えたり、具体的な人の動きが見えるとやりがいも感じられます。
小林:実際にイベント後に名残惜しそうに帰る人や、銭湯に繰り出す人もいました。実はこの開始終了時間を16時から20時にしたのも、イベントを0次会にして、まちに流れてほしいという思いがあったんです。
現状はコロナでなかなかそちらに流れ辛いですが、イベントを通して、近くのエリアへもどんなアプローチができるのか考えています。
コロナ禍でのイベントの意義や対策
ーエリアにスポットをあてつつ、中心街という立地を生かした近隣地域への動線も考えているんですね。今後も需要がありそうです。
小林:今回のイベントでは、前の週に比べてガレージもほぼ倍の稼働率になったそうです。でも、今後コロナが落ち着いてくると状況も変わってくると思います。このエリアはもともと飲食店が多いので、駐車場は利用されていました。それが、今はコロナがあるからたまたまガレージの屋上が活用できたんです。
稲葉:本当はコロナに関係なく、今後も公共交通機関を使ったり、近所の人が自転車や歩きでも来る場所になって欲しい。新潟の中心街の古町あたりは、ちょっと歩けば信濃川や海にも出られる立地です。街中なのにすごく自然が近い、いい場所。このイベントをきっかけに「まちなかが心地いい」ことに気づいて欲しいです。
ーコロナ禍でイベントが減っている中、決行することにも悩みましたか?
稲葉:悩みました。ちょうど、新潟の特別警戒がでて、飲食店が20時までになり、公共空間でのマーケットが中止になったりしたところだったんです。
でも、どうやったらできるかを考えたいなと思いました。検温や消毒、マスクなど感染症対策を徹底し、チェック後はリストバンドをつけてまわるようにしてやってみようと。
メディアに取り上げられた際、テレビ局からも「自粛に敏感な方から苦情が来るかもしれない」という打診もありました。そこで、貸してくれるガレージ側にも「風評被害があるかもしれない」というのをお話しして、その上で「感染症対策をする」という所をお互い確認してやることに決めました。
エリアリノベーションでまちのポテンシャルを活かしていく
ー手探りでチャレンジする中で、出店者やガレージ側、参加者も楽しめる新しいイベントになったんですね。
稲葉:事前に周辺のお店をまわって説明をする中で、怒られることもありました。でも、こちらの「新しい場の価値を生み出すために試験的にやっている」というコンセプトをきちんと説明すると分かってくれる。その時に、チラシだけでは伝わらない部分も多いなと感じました。
小林:いくつかメディアの取材を受ける中で、強烈に違和感を持ったのが「地域活性化のために立ち上がっている若者」という扱いでした。短く伝えるためのわかりやすさではいいのですが、僕たちは、地域の活性化のためにイベントをやっているわけじゃないんです。
まちの持つポテンシャルをどう活かすかのチャレンジで、どう人を動かし、まちを変えるのかを見据えて企画を開催しています。このイベントの「まちの中に居心地のいい場所をつくる」という真の目的や狙いが伝わらず、「地域活性化」でひとくくりにされるのはもったいないなと。もちろん、その結果が地域活性化に繋がればうれしいとは思います。
稲葉:僕たちは「やりたい人が、やればいい」というスタンスです。きっかけをつくって、やりたいことを一緒にできる人が出てきても嬉しいし、方向性が違っても、やりたいことが出てくる人がいっぱい出てくると嬉しい。本音は、そのための仕掛けをつくって、絞って狙ったイベントを打ち出し、実現していきたいというもの。
この周辺で暮らす人、働く人、そしてこのエリアに来る人が、「ここなら自分らしく、心地よい選択ができる」そんな場になればいいなと。そこを目指して、この地区に価値をつくっていけたらいいなと思っています。
インタビューを終えて
街の中でも、打ち出し方や企画で「新しいチャレンジ」ができるんですね。新しい価値をつくっていくことで、面白いお店が増え、話題のエリアになり、人の流れが変わると、まちの景色も価値も変わっていく。
次回の企画へと動き出している稲葉さんと小林さんには、今後のエリアの展開が見えているように感じました。2人の取り組むエリアリノベーションで、この8BANエリアがどう変わっていくのか楽しみです。
新潟県新潟市生まれ、新潟大学工学部建設学科卒。
新潟市内の工務店にて住宅設計の仕事をしながら、2016年よりグリーンホームズ入居を機に、コミュニティマネージャー活動を開始。「楽しい暮らしは自分でつくる。」を実践中。月刊「ソトコト」2017年9月「新しい住宅のカタチ」に特集。新潟市内でのエリアリノベーション活動にも積極的に取り組んでいる。2019年2月より「コウダイ企画室。」として独立。
HP:コウダイ企画室。
新潟県村上市(旧山北町)出身。地方公務員。複業的にまちづくり活動をしており、2019年には都市経営について学ぶ。エリアリノベーション団体「本町8BANリノベーション」代表、オンライン読書会「公民連携ゼミ」主宰
HP:本町8BANリノベーション