「いい記事」は広い視点から生まれる。取材ライター長谷川円香さんが学びを続ける理由

「いい記事」は広い視点から生まれる。取材ライター長谷川円香さんが学びを続ける理由

働き方改革が推進され、サラリーマンも副業をすることが一般化してきた昨今、フレキシブルに働ける「ライター」という仕事に興味を持つようになった方は多いのではないでしょうか。

今回インタビューしたのは、取材ライターの長谷川円香(まどか)さん。広告会社の営業マンからフリーライターへと転身し、現在、地元新潟の中小企業や個人を紹介する記事を多数手がけています。

未経験から取材ライターとして力を付けるまでには、どのようにスキルを磨いたのでしょうか。長谷川さんの考えるライターの役割、今後挑戦してみたいことなどについてもお話を聞きました。

営業マンからフリーライターへ、駆け出し時代の奮闘

「いい記事」は広い視点から生まれる。取材ライター長谷川円香さんが学びを続ける理由

――長谷川さんはどのような経緯で取材ライターになったのですか?

私は大学時代、出版や報道業界に絞って就職活動をしていました。でも、全ての採用試験に落ちてしまって、結局、地元新潟の広告会社の営業マンとして働くことにしたんです。

そこではフリーペーパーの編集などに携わる機会も少しだけあったのですが、もう少し踏み込んだ仕事をしてみたくて……。そこで、ネットで見つけた単発のライター仕事に応募して、記事を書いてみることにしました。初めて手がけたのは、新潟のゲストハウスを紹介する記事だったと思います。

そして、営業として3年ほど働き、転職を考えていた頃、県内で活動するフリーランスのライター兼編集者さんと出会ったことで、運命が変わりました。その先輩ライターが主催するライター合宿に参加したり、取材に同行したりするうちに、インタビュー記事の作成を少しずつ手伝わせてもらえるようになったんです。

転職の内定先が決まっていた矢先でしたが、「新潟でのライター仕事は今しかできない!」と思い、フリーライターになることを決めました。

――駆け出しの時代、どのような仕事をしていましたか?

新潟県に移住してきた人たちへのインタビュー記事、印刷会社のパンフレット作成のお手伝いなどの仕事がメインでした。でも、はじめの方は、先輩ライターの取材に同行してインタビューの文字起こしをしながら、見よう見まねで書くといったかたちで。右も左もわからないまま、書き始めた感じでしたね。

――ライティングスキルはどのように磨いたのですか?

通常、記事を執筆した後、編集者から赤字で修正が入ります。そこで、なぜ修正するべきか理由を考えることで、少しずつライティング技術を鍛えていきました。初期の頃なんて、書いた記事の8割以上が修正されていましたね。

赤字修正は自分が成長する良い機会なので、今でも感謝の気持ちをもって受け取っています。でも正直なところ、他の仕事が手につかないくらい凹むこともあります……(笑)

「いい記事」は広い視点から生まれる。取材ライター長谷川円香さんが学びを続ける理由
▲取材時に長谷川さんが撮影した一枚。
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▲空気感をまとった写真は思わず惹きつけられる魅力があります。

――写真の撮り方もセンスがあって素敵です。どのように学んだのですか?

褒めていただき、ありがとうございます。実は初期の頃は安いカメラを使っていたのですが、とある先輩フォトグラファーさんの助言もあって、「依頼者に喜ばれる、質の高い写真を撮りたい」と思うようになったんです。高品質のカメラがあれば、スキルの未熟さはある程度カバーできると聞き、FUJIFILM XT-2のミラーレスを購入し、今も愛用しています。

あとは、カメラ好きの友人にアドバイスをもらったり、Instagramの写真を研究したり。プライベートのおでかけでも雰囲気のある写真を撮れるように練習をして、とにかく経験値を増やすようにしています。

「いい記事」を書くためには、視点を広げる努力が不可欠

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――ものづくり企業に関する取材記事の執筆経験が多いそうですね。

私が住んでいるまちのお隣、燕市や三条市は全国に誇るものづくり企業が集まっています。工場へ訪問し、職人さんたちの話を伺うことは、私にとって好きな仕事のひとつですね。何年、何十年とかけて技術を磨き、精度高くものをつくりあげることを追求する姿勢に感銘を受けます。

その他にも、数えきれないくらいのインタビューを通して、多くの方々と関わってきました。企業広報、人材の求人、まちづくり活動など、執筆ジャンルは幅広いです。

――記事を書くことの難しさはどこにあると考えていますか?

同じ人物に取材をしたとしても、ライターによって全然捉え方が違うし、話の切り取り方によってまったく異なる記事になりますよね。そこが面白さであり、難しさでもあると考えています。

「ライターは情報に対して、どう意義を付与していくかが腕の見せどころ」。この言葉はライターの先輩から何度も教わってきたので、私も常に意識するようにしています。

つまり、ライターは思考を止めちゃいけない。記事を掲載するメディアが何を伝えたいのか把握し、それにプラスして自分のフィルターを通して見つけた語り手の魅力をのせる作業が必要。そこには単にレポートを書くのではない、ライターの個性が出てきます。

私が参加している、「書く」を学び合うコミュニティ「sentence」では、「取材の暴力性」について度々話題にあがります。この事実についても、頭に入れておく必要があると思っています。

――「取材の暴力性」とはなんでしょうか?

私たちライターは、インタビュイーが何年もかけて構築した人生や価値観について、わずか1時間ほどで取材をして記事にまとめます。もちろん文字数制限もありますし、メディアの方向性によって伝えたいことのピックアップ作業もあります。

つまり、そこには「ストーリーを切り取る作業」が出てきます。これは、「取材の暴力性ともいえる」という事実に深く共感するんです。

ライターはインタビュイーが協力してくれた時間に対して、アウトプットという形で報いなければならないんですよね。私はまだまだ未熟なところもありますが、せめて自覚することはしていきたいなと思っています。

――新潟で取材をするほか、県外のクライアントからの仕事もしているそうですね。

現在は、新潟と東京のクライアント、双方から仕事を受けています。基本は地域のために記事を書いていきたいのですが、東京の方と仕事をすることで「表現の幅」が広がるように感じているので、意識的に関わりをもつようにしています。

例えば、文章のテイストひとつとっても、各メディアによって個性が出るんです。とある東京のクライアントのお仕事では、湿度のある文章を書く機会に恵まれ、新たな視点や表現方法を得られました。

このように様々なメディアや編集者さんと関わることで、自分の表現の幅を広げていきたいです。そしてそのスキルを地元である新潟に還元していきたいですね。そのために、常に多角的な視点で学び続けることを意識しています。

ライターの仕事は世界を好転させる一助となる

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――長谷川さんは常に学びを続けている印象があります。

そう…ですかね…? ありがとうございます。確かに他のライターさんの取材に同行させてもらうこともあるので、質問内容や心地良く話せる雰囲気づくりの工夫などを参考にしていますね。

その他、ライターが集まるオンラインコミュニティで交流したり、写真撮影について学べるイベントに参加したり。少しでもスキルを伸ばせればと、地道に学びを続けています。

それはなぜかと自問したとき、私は「広い視点を持って発信したい」と考えていることに気づきました。物事を多角的な視点から見て情報発信するためには、書き手である私がフレキシブルに捉えることが必要となります。

クリエイティブな記事に正解はないし、ライターの解釈次第でその方向性はガラリと変わってしまう――この事実を踏まえているからこそ、広い視点を持つための行動を続けているんです。

――ライターの仕事にはどのような意義があると考えていますか?

取材を受けてくださった方が、インタビューを通してほんの少しでも気付きを得ること。そこにライターとしての仕事の意義があると考えています。

もちろん、記事は読者のものであり、クライアントが喜ぶものでなくてはなりません。でも、それだけではなく、わざわざ取材のために時間を割いてくれたインタビュイーのためにも役立ちたいのです。

また、インタビュイー本人だけでなく、その周囲にいる人たちに記事を読んでもらうことで、良い影響が生まれることにも気づきました。例えば、企業の社長をインタビューした際、会社の従業員たちがその記事を読むことで、普段は知り得なかった社長の一面に気付くことができます。

「社長ってこんなに素敵な考えを持っていたんだな」と発見する機会となり、信頼感が生まれます。関わる人の人生をほんの少し変える一助となれる――そんなライターの仕事は改めて良いなと思いますね。

――今後、挑戦したいことについて教えてください。

新潟の中小企業の記事をもっと書いていきたいです。経営者と社員のコミュニケーション不足で生まれる違和感が、インタビュー記事のチカラで少しでも良い方向に進めば嬉しいですね。あとは、もっといい記事が書けるように精進していきたいです!これからもずっと、学びを続けていきます。

インタビューを終えて

「『地域のために記事を書いている人』という括りで語られると何だかもやもやしてしまう。どちらかというと、自分が心地よい暮らしをつくるため、推しをいろんな人におすすめしたい意識のほうが強いけど、それもまた正確ではない気がする」。取材を終えた後、長谷川さんはTwitterでこんな風につぶやいていました。

新潟に腰を据えて、その地に住む人たちの魅力を記事に落とし込む活動をしている長谷川さんですが、それは「地域のため」という大きな括りだと雑すぎるのかもしれません。この地に住む人たちや中小企業など、取材対象に愛をもって、それを「推し」という言葉で表現するのは、彼女らしくてなんだか素敵だなと思いました。

長谷川円香さんプロフィール

「いい記事」は広い視点から生まれる。取材ライター長谷川円香さんが学びを続ける理由新潟で活動する取材ライター。企業広報のお手伝いやものづくり企業の紹介記事、インタビュー記事など、幅広いジャンルの記事を執筆。手を加えすぎていない古民家が好きで、夢は小さな庭と畑と茶室のある、古い一軒家で暮らすこと。仕事中は日本茶が手放せない。

HP:https://mhasegawa.amebaownd.com/

この記事を書いた人

渡辺まりこ

新潟県在住の取材ライター兼ブロガー。通算取材は500件以上。ヒト、暮らし、まち、趣味など多岐に渡るジャンルの記事を執筆中。取材時の感動を読者に届けられるような記事づくりを心がけている。

HP:https://www.watanabemariko.com/