「諸行無常」という言葉は、『平家物語』の冒頭にある「諸行無常の響きあり」という句で知られています。その「諸行無常」とは、どのような意味なのでしょうか?
この記事では「諸行無常」について、言葉の意味や仏教用語をわかりやすく紹介します。また『平家物語』の解説とともに、使い方や例文、類語、英語表現も解説しましょう。
「諸行無常」とは?
「諸行無常」の意味は「すべては移り変わる」
四字熟語「諸行無常」の意味は、”すべては移り変わること”です。仏教用語で「この現実の世界のあらゆる事象(万物)は、絶えず変化し続けていて、永遠不変なものはない」ということです。
「諸行無常」は仏教用語
「諸行無常」は仏教用語のため、意味を理解するために仏教用語の理解が必要です。わかりやすく説明してみましょう。
「諸行無常」の「諸行」とは「因縁」によってこの世につくられるあらゆる事物(万物)」を意味します。「因縁」とは、物事の原因である「因」と、それを結ぶ「縁」の意味です。「前世からの因縁」などと使われる言葉です。仏教の教えの根幹には「すべての結果には、必ず原因がある」という考えがあります。
「諸行無常」の「無常」とは、「物事は絶えずうつりかわり、同じ状態に留まらない」という意味です。「物事は常に変化し続ける」ということです。
念のためですが、思いやりがないという意味の「無情」とは違います。仏教に「諸行無常」の考えをもたらしたのは釈迦の言葉とされていますが、釈迦以前の古代インド哲学にすでにその概念は存在しました。
「諸行無常」は『平家物語』でどう使われている?
「諸行無常の響きあり」として引用される
「諸行無常」は『平家物語』にも引用されています。『平家物語』は、平家の栄華と没落を描いた鎌倉時代に成立したとされる物語で、「諸行無常」を用いた句は栄華を誇った平家が没落してゆく姿を語る、美しい日本語の表現として特に有名です。
『平家物語』の「祇園精舎」原文と現代語訳
『平家物語』の「祇園精舎」を紹介します。
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵におなじ。
<現代語訳>
祇園精舎の鐘の音は、この世の中に不変のものはないと響いている。沙羅双樹の花の色は、どんなに栄えた者でも必ずや滅びゆくこの世の理をあらわしている。栄えて得意になっている者も、春の夢のごときである。勇ましき者も結局は滅び、風に吹かれる塵のようなものである。
「諸行無常」の使い方・例文とは?
「すべては移り変わるものだ」と表現するときに使う
世の中の物事が「諸行無常」=「すべては移り変わるもの」だと言いたいときに、この言葉が使えます。『平家物語』では平家の盛衰に用いられた表現ですが、現代では人間関係や会社組織、恋愛にも「いつか形あるものは壊れるもの」「不変なものなどない」として、「諸行無常」と表現できるでしょう。
なお、「平家物語」では「諸行無常」が栄えた者が滅びることを表すマイナスの意味で使われていますが、本来のインド哲学では、ただ「善いことも悪いことも全ては変化している」というシンプルな考えでした。
「諸行無常」を使った例文
「諸行無常」を使った例文をいくつかご紹介しましょう。
- 「諸行無常」というように、苦しいことがあっても永遠には続かないのがこの世の理です。
- 人生も「諸行無常」なのだから、今のこの瞬間を精一杯生きたいものです。
- 「諸行無常」というように、人の心も常に変化します。相手が思い通りにならないからといってイライラせず、おおらかにやりすごしましょう。
- 不平不満の気持ちが起こったら「諸行無常」の意味を考えれば心が落ち着きます。
「諸行無常」の類語とは?
類語①「諸法無我」は諸行無常を別の側面から言い表したもの
「諸法無我(しょほうむが)」も仏教用語で、「諸行無常」を別の側面から言い表した言葉です。「諸法」とは、仏陀の悟りの境地からみた万物の真の姿という意味で形のないものも含まれます。そして「無我」とは、万物に実体はないという意味です。
つまり「諸法無我」とは、「森羅万象の真実の姿に実体はない」という意味です。
類語②「盛者必衰」はこの世では栄えている者も必ず衰える
「盛者必衰(じょうしゃひっすい)」も仏教用語で、無常(物事が絶えずうつりかわる)なこの世では、栄えている者も必ず衰えるという意味です。
類語③「万物流転」はヘラクレイトスの思想
「万物流転(ばんぶつるてん)」とは、「万物は流転する」という古代ギリシャの哲学者である「ヘラクレイトス」の思想を表現した言葉です。ヘラクレイトスは、この世界に存在するすべての事物は、一瞬たりとも静止せず、絶え間なく生成と消滅を繰り返していると説きました。仏教の「諸行無常」とほぼ同じ思想だといえます。
「諸行無常」の英語表現とは?
「永久ではない」を意味する「impermanence」
「諸行無常」を英語で表現するとどのような言い方があるでしょうか。仏教の教えの意味は失われてしまいますが、「永久ではない」という「impermanence」「nothing is permanent」を用いた、シンプルな表現を紹介します。
- The impermanence of worldly things.
- All things are in flux and nothing is permanent.
まとめ
「諸行無常」とは「すべては移り変わる」という仏教用語でした。何かにとらわれている時の私たちの心は、時間が停止しているといえます。同じところをぐるぐると回って抜け出すことができないので苦しいのです。しかし、「すべては移り変わる」というシンプルな理(ことわり)に従えば、心が少し軽くなりそうですね。