「申し訳ない」は自分の非を認めたり、相手に謝るときの表現としておなじみですが、言われて違和感を覚えたり、使い方に不安を感じたという経験はないでしょうか。ここでは、意外と使い方が難しい「申し訳ない」の使い方についてまとめます。
「申し訳ない」とは?
意味は「自分の過失を認めて謝意を表す」
「申し訳ない」とは、「自分の過失を認めて謝意を表す」という意味です。謝罪の言葉には「すみません」「ごめんなさい」などいくつかありますが、そのうちもっとも丁寧なお詫びの言葉が「申し訳ない」です。
「申す」は「言う」の謙譲語なので、「申し訳(もうしわけ)」は罰を逃れようとしてクドクド説明を重ねる「言い訳(いいわけ)」のことです。「申し訳・ない」で、自分の過失が言い訳する余地もないほど明白であると認める態度を表します。
恐縮で申し開きできない
自分の失敗や敗北に関して一切の申し訳(もうしわけ)をしない姿勢は、古くから日本人の美徳であり、「潔し(いさぎよし)」として評価されてきました。しかし当然のこととして、過失があれば原因分析や経緯についての説明責任こそが大切であり、世間を騒がせれば一定の申し開きも必要です。
それでも「申し訳ない」がもっともフォーマルな謝辞として定番化しているのは、自分の失敗が原因で相手が被った損失を思うと恐縮のあまり言葉も出ない、それだけ事を重く受け止めているという気持ちを表現できる言葉だからでしょう。「すみません」や「失礼しました」より深い自省の念を含むのが「申し訳ない」という言葉です。
「申し訳ない」の送り仮名ついて
メールや手紙で「申し訳ない」と書きたいときに、送り仮名で迷ったことはないでしょうか。現在は「申し訳ない」が一般的ですが、「申し訳けない・申し分けない」などの表記を目にすることがあります。これらは誤りとされることもありますが、「申し訳ない」が「申し訣けない」から変化した言葉である以上、必ずしも間違いとは言えません。
「訣(ケツ・わかれる)」には「分ける」という意味があり、「言い分け・言い訣け」は「詳らか(つまび・らか)に言う」です。つまびらかの「びらか」は「開く」の古語なので、類語の「申し開き」とも無理なく通じます。「情(なさけ)」を「情け」と書くように、「言い訳け」も使われるうちに読みやすく仮名を振られたとものと考えられます。
「申し訳ない」の熟語と類義語
「申し訳ない」と同じような意味で使える類義語や、「申し訳ない」のニュアンスに似た熟語には次のようなものがあります。
- お詫びします。
- お詫びのしようがない。
- お詫びの言葉も見つからない。
- 心苦しく思います。
- 恐縮至極(きょうしゅくしごく)
- 低頭平身(ていとうへいしん)
「申し訳ない」の敬語表現
標準的な「申し訳ありません」
「申し訳ありません」は、「申し訳ない」の「ない」を丁寧語に言い換えた表現です。もっと簡単に、同じ丁寧語である「です」を付けて「申し訳ないです」と言っても文法的には間違いではありませんが、「ありません」が「ある(動詞)」を否定する形容詞本来の変化であるのに対し、「ない(形容詞)」と「です」の組み合わせが認められるようになったのは戦後のことです。
「ないです」は、日本語としては新しい言い方であるため丁寧さに欠ける印象があり、「ありません」よりも軽く感じられるため、謝罪の言葉には不向きとえいるでしょう。人によっては間違った日本語と認識されることもあるので、日ごろから「形容詞+です」を使い慣れている人は注意しましょう。
目上の方には「申し訳ございません」
「申し訳ありません」の「ありません」をさらに丁寧にしたのが「申し訳ございません」で、ビジネスマナーとしては「ありません」よりも一般的です。目上の方や顧客に対しては「申し訳ございません」が基本ですが、丁寧に越したことはないとばかりに多用してしまうと、堅苦しくて大げさな印象になります。
たとえば、「お急ぎのところ申し訳ございません」「お忙しいところ誠に申し訳ございません」は、使い方としては間違っていませんが、敢えて「申し訳ありません」とボリュームを落としてみます。言い方を簡潔にすることで「相手は忙しい・急いでいる」という前提に調和するため、型に囚われないスマートな印象になりますし、メリハリも付きます。
「申し訳ない」のメール例文
「申し訳ない」を使ったフレーズ
手紙での詫び状や、顔文字を使ってこちらの心境を捕捉できないビジネスメールで「申し訳ない」の気持ちを伝える例文をいくつか紹介します。
- 大変申し訳なく、お詫びの言葉もございません。
- お返事が遅くなりまして、誠に申し訳ございません。
- 誠に申し訳なく、心よりお詫びいたします。
- とても心苦しく、申し訳なく存じます。
- この度は多大なご迷惑をおかけし、心から申し訳なく深くお詫び申し上げます。
- この度は私共のご案内に不手際があり、誠に申し訳ございませんでした。
「申し訳ない」の外国語表現
「申し訳ない」の英語表現は「I’m afraid that~」
英語で「申し訳ない」気持ちを表すには「I’m afraid that~(恐れ入りますが)」を用いるのが一般的です。
- I’m afraid that we’re all booked on that night.(申し訳ないのですが、その日の夜は満席です)
- A thousand apologies.(たいへん申し訳ございません)
「申し訳ない」の韓国語表現は「(죄송합니다)」
韓国語で「申し訳ない」を表す表現は、「ごめんなさい(죄송해요)」よりも丁寧な「チェソンハムニダ(죄송합니다)」です。
- 죄송합니다(申し訳ありません)
- 죄송한 마음으로 가득합니다. (申し訳ない気持ちでいっぱいです)
まとめ
言葉は生き物といわれるように、「申し訳ない」も時代によって意味や使い方が大きく変化している表現のひとつです。対面であれば用法の正誤よりも誠意ある謝罪を心がけたいところですが、メールの場合はビジネス用語として一般化している「申し訳ございません」を選ぶのもひとつの方法でしょう。紋切型の定型文より、率直な言葉のほうが響くこともあります。伝えたい相手によって使い分けてみてください。