「してください」という言葉は、敬語のように見えるかもしれませんが、実は敬語ではありません。そのため、相手によっては失礼だと取られる場合もあります。
今回は「してください」の意味や使い方について、正しい敬語表現も含めて解説します。「ください(下さい)」との違いや、ビジネスメールに使える言い換えもまとめましたので、ぜひ参考にしてみてください。
「してください」とは?
「してください」は行動を促す丁寧語
「してください」の意味は、「行動を促す丁寧語」です。人に何か行動を依頼するときに、良く使われるのが「○○してください」という表現です。「電話してください」「サインしてください」など、相手に対して何らかの行動を促す言葉です。「ください」という言葉が使われてるので、敬語と認識している方も多いのではないでしょうか。
しかし「○○してください」という言葉は、厳密に言えば丁寧語です。丁寧語とは言葉に「お」「ご」「ください」などを付けて、言葉をきれいに見せるための表現方法です。「花」を「お花」「連絡」を「ご連絡」とするのと同じで、丁寧語には相手への敬意を表す言葉は含まれません。
「してください」は失礼になることも
「してください」という言葉は丁寧語ではありますが、同時に言い切りの命令形と受け取ることもできます。人に対しての敬意は、敬語だけではなく言い切りの形を選択しないということでも表されます。
「してください」と言うところを「していただけますでしょうか」など、敢えて依頼形として相手の心情を気遣うという話法はビジネスマナーとしても広く知られています。
そのため「してください」という言い切りの形自体を失礼な言い方として受け取る人は一定数いると考えられるでしょう。「失礼にならない言い方」は言葉自体の正誤だけでなく、相手がどのように受け取るのかを先回りして考えることも含まれます。
「してください」と「して下さい」の違い
「ください」を「下さい」と漢字で書くのは、相手から何か物質をもらいたい場合です。「ジュースを下さい」「手紙を下さい」「整理券を下さい」など、実際に受け取るものがあるときに「下さい」を使います。
一方で「座ってお待ちください」「ご検討ください」など、物質的なものを受け取るのではなく、相手に何かして欲しいことがある場合は「ください」を使います。以上のことから、「してください」という言葉は全て平仮名で書く、ということがわかります。
「してください」の正しい敬語とは?
「してください」の敬語は「なさってください」
「してください」ということを目上の方などに敬語で伝えたいときに、気になるのは「して」です。「して」は「する」という意味で丁寧な言い方とは言いにくいでしょう。まずはこの「して」を「なさって」に変えてみましょう。
「なさって」とは「する」の尊敬語である「なさる」の変形です。「なさる」という動作を相手に促したり、相手が何かをしている状態を「なさって」という言葉で表すことができます。
「電話なさってください」「質問なさってください」などとすれば「してください」を敬語にすることができます。
「して」を含まない「○○ください」は敬語として使える
敬語として使われている言葉の中には「して」という言葉を含まずに「名詞または動詞+ください」のみのものもあります。「お電話ください」「ご検討ください」「お待ちください」などです。「なさる」「される」など「して」に該当する敬語は含まれていませんが、これらの言葉は一般的に敬語として使われています。
「ご検討なさってください」「ご検討されてください」「ご検討ください」は「ご検討」と「ください」の間に入っている言葉が違ったり、入っていなかったりしますが、どれも敬語として正しく使われています。
つまり「して」という敬語ではない言葉が「ご検討」と「ください」の間に入ることで、その表現は敬語ではなくなるということです。
「してください」を使い方とは?
使い方①「ご記入してください」は「願います」という意味
相手に何かを書いて欲しいときに使うのが「ご記入」という表現です。「ご記入ください」「ご記入願います」などとすれば正しい敬語として成立します。しかしこの場合も「して」を使って「ご記入してください」としてしまうと丁寧語にしかならず、敬語として使うことができません。
使い方②「してくださいませ」でやわらかい印象に
「してください」という表現は、命令形としてのニュアンスも含んでいるため、目上の方などに敬語として使うには不十分であるとお伝えしてきました。しかし「してください」の後に「ませ」が付くと、言葉の印象が多少変わります。
「してくださいませ」の「ませ」は「いらっしゃいませ」の「ませ」、「○○してくださいませんか?」の「ませ」と同じです。「してください」に「ませ」を付けると敬語となるだけでなく、言葉自体の印象もやわらかくなります。
また「してくださいませ」などの「ませ」を使った表現は、やや女性的という見方もありますが、男性が使っても問題はなく、正しい敬語として使えます。
使い方③「ご確認してください」は誤り
「して」という言葉を含むと、その後に「ください」を付けても敬語表現にはなりません。「ご確認ください」「ご確認願います」「ご確認のほどお願いいたします」「ご確認いただけますでしょうか」など「してください」を使わずに、他の敬語を使って表しましょう。
使い方④「使用してください」は不自然
その場にあるものを自由に使って欲しい場合や、手続きなどに特定のものを使ってもらいたい場合に「使用して下さい」という言い方をすることがあります。しかし「使用」という言葉は「使用可能」「使用不可」などに使われるように、人に対しての話し言葉として使うにはやや不自然な表現です。
「お使いになってください」「お使いください」など「使用」を「使う」という言葉に変えた方が敬語として成り立ちやすくなります。「使用」を使うのであれば「ご使用ください」などが良いでしょう。
「してください」のビジネスメールで使える類語
「~をお願いいたします」で願い出る
「してください」という言葉を使わずに、同じ意味を持つ他の敬語を使って、相手に何かを願い出たい場合は「~をお願いいたします」が便利です。
- 「ご捺印をお願いいたします」
- 「ご連絡をお願いいたします」
- 「ご確認をお願いいたします」
「~いただけますでしょうか」で依頼する
相手に対して、何かしらの行動を依頼したい場合は「してください」よりも依頼系の言葉を使うと良いでしょう。依頼系の言葉で良く使われるのが「~していただけますでしょうか」です。
- 「少々お待ちいただけますでしょうか」
- 「ご検討をいただけますでしょうか」
- 「ご意見をいただけますでしょうか」
まとめ
「してください」という言葉は確かに敬語ではありませんが、コミュニケーションでは正しい敬語以外に、言い方や伝え方も重要です。「してください」という言葉を使ったとしても、優しい口調で、相手の気持ちに寄り添うように言われれば嫌な気になる人は少ないかもしれません。もちろん正しい敬語を使うときも、言葉だけではなく相手の気持ちを考えて口調や表情に工夫ができるとさらに良いですね。