「心労(しんろう)がかさむ」「ご心労をおかけして申し訳ありません」などの言い回しで「心労」という表現を用いることがあります。「心」と「労」という漢字からおおよその意味はわかりますが、どのような時に用いるのが適切なのでしょうか。ビジネスシーンでも使いこなすことができるよう、例文をまじえて解説します。
「心労」の意味とは?
意味は「あれこれ心配して悩むこと、精神的な疲労や気疲れ」
「心労」とは、「あれこれ心配して悩むこと。精神的な疲労や気疲れ」という意味です。「気を病んでいる状態」という表現が近い意味となります。つまり、単に心配して悩んでいる状態というよりも、もう少し重い悩みがある状態を示しています。さらに、精神的な疲労に加えてその影響がからだにもおよび、心身ともに疲労している状態を表現するときにも用いられるため、「心労がたたる」「心労が重なる」など影響が他に及んでいるような言い回しが複数あります。
「心労」の使い方とは?
目上の人に対して使う場合
取引先や目上の人に対して用いる場合は、「ご」をつけて敬語表現にします。「御心労」「ご心労」どちらでも問題ありませんが、特に気を遣いたい相手や状況の場合は、「御心労」とした方が無難です。
また自分の行いなどが原因で相手に心労をかけている場合も「ご心労をおかけして…」と「ご」をつけます。次のような例文になります。
- この度は関係の皆様にはご迷惑とご心労をおかけし、大変申し訳ございません。
- 御心労はいかばかりかとお察し申し上げます。状況が少しでも良くなりますよう、お祈りいたします。
「心労」の言い回し方
「心労」に続く言い回しとしては「心労をかける」「心労が絶えない」「心労が重なる」「心労が募る」「心労を察する」「心労がたたる」などがあり、状況に応じて用います。「心労」を使いたい時は疲労や気疲れが長く続いた場合など、重い状態を表すことが多いため、「長年の心労が重なり」など、より「心労」を強調する表現となることが多くなります。
ビジネスシーンでの「心労」の使い方と例文
また、実際に相手が病気などによる何らかの悩みや苦労を抱えている場合に、お見舞いの表現として用いる以外にも、ビジネスの場面では取引先との交渉が難航しているような時や、なんらかの状況で相手に迷惑をかけてしまった場合などにも、相手への気遣いの言葉や謝罪の言葉とともに用いることがあります。「心労をかける」の言い回しで例文を挙げると次のようになります。
- この度は弊社社員の軽率な行動により、関係者の皆様には大変なご心労をおかけしましたこと、心よりお詫び申し上げます。
- 弊社の価格改定に伴い、御社にはご心労をおかけしておりますが、何卒ご理解いただきますようお願い申し上げます。
- ご回答が遅くなっている件につきまして、ご心労をお掛けしておりますことをお詫びいたします。
「心労がたたる」の使い方
「心労をかける」や「心労が重なる」は意味としてすぐに理解できる言い回しですが、「心労がたたる」の「たたる」は普段の会話であまり用いられない表現です。「たたる」とは「祟る」と同じであり「不自然・無理などが原因となって悪い結果が起こる」という意味です。「徹夜がたたる」「不況にたたられる」などという場合にも使われます。「心労がたたる」は次の例文のように、何らかの悪い結果とともに用いられます。
- 心労がたたり、入院を余儀なくされた。
- 長年の心労がたたったのか、若くして亡くなられた。
補足ですが、「祟る」にはもうひとつの意味があり「死者の霊などが人間に災いを与える」というものですが、「心労がたたる」の場合はこの意味ではありません。
「心労がかさむ」ではなく「心労が重なる」と使う
「心労がかさむ」という言い回しをする場合があるようです。しかし「かさむ」の意味は「出費が予定よりも多くなる」「かさばる」という意味であるため、「コストがかさむ」「金利がかさむ」といった使い方が本来の使い方になります。「心労がかさむ」よりも「心労が重なる」とした方がよいでしょう。
「心労」の類語とは?
類語は「心配」「気疲れ」など
「心労」の類語は「心配」「気苦労」「気疲れ」「気に病む」「思い煩う」「心痛」などがあります。
前述のビジネスシーンで何らかの迷惑や損失を相手に与えてしまった際に用いる「心労」は「心配」に近い意味で用いられます。シチュエーションに応じて使用しますが、状況が厳しい場合は「心配」よりも「心労」の方を用いるのが適切です。例えば「この度は弊社の不祥事につきまして、大変ご心配をおかけしております」と「この度は弊社の不祥事につきまして、大変ご心労をおかけしております」とでは、与えた不利益の違いがあることがくみ取れるかと思います。
まとめ
「心労」は「気を病んでいる状態」や「精神的な疲労や気疲れ」の意味で、相手を気遣う際に用いることが多い言葉です。心のこもった気遣いをしたくても、適切な表現ができなければ思いを伝えることはできません。
また、ビジネスシーンでは相手に何らかのご迷惑をお掛けしてしまった場合などに、謝罪する言葉とともに用いられることも多いため、間違いのないようにしましょう。あらかじめ「心労」の正しい使い方を理解し、適切に使用できるようにしておくことが大切です。