厚生労働省が働き方改革を提唱する中、多種多様な働き方が見受けられ、耳にする機会も増えた「二足のわらじ」(二足の草鞋)という言葉。しかし「二足のわらじ」にはマイナスのニュアンスがあることをご存知でない方もいらっしゃるかもしれません。今回は「二足のわらじ」の正しい意味と語源を解説するとともに、類語や英語での表現も紹介します。
「二足のわらじ」の意味と語源とは?
「二足のわらじ」の意味は”両立が難しい仕事を掛け持ちする”
「二足のわらじ(二足の草鞋)」の意味は、“異なる種類の仕事や役職を掛け持ちすること”です。「二足のわらじを履く(二足の草鞋を履く)」を省略した言葉。「わらじ」とは履物の「わらじ」を指し、一人の人が同時に二足のわらじを履くことは難しいということを例えとしています。「二足」とは単に仕事が複数あることを指しているのではなく、本来両立するのが難しい別々の仕事ということを意味しており、「どちらともつかない」といったマイナスのニュアンスも含まれています。
「二足のわらじ」の語源は江戸時代に生まれたことわざ
「二足のわらじ」は江戸時代の「博打(ばくち)打ち」が、博打打ちを取り締まる「岡っ引き」の役割を受けもつことがあったことに由来しています。本来は取り締まりを受ける立場である博打打ちが、取り締まりの手伝いもしていたことから、「相反する両立し難い仕事を掛け持ちする」という意味の「二足のわらじ」ということわざが生まれました。
二足のわらじの使い方と例文とは?
「二足のわらじ」は本来は悪い意味として使う
両立することができない仕事を掛け持ちするということから、「二足のわらじ」は「どっちつかず」「できもしないことをする」などマイナスのニュアンスを持っています。しかし、最近は悪い意味としてではなく、「2つの仕事の両立を頑張っている」という褒め言葉として使われることも多くなりました。
「二足のわらじ」を使った例文
「二足のわらじ」を使った例文をご紹介しましょう。
- この数年間、二足のわらじで頑張ってきたけれどもう限界だ。
- 収入の目処が立つまでは、サラリーマンとの二足のわらじでやっていくしかない。
「二足のわらじを履く」を使った例文
「二足のわらじを履く」を使った例文をご紹介しましょう。
- 君には二足のわらじを履く覚悟はできているか?
- 両親に泣きつかれたので仕方なく家業を継ぎ二足のわらじを履くことにしたよ。
- 私は平日はメーカーのOL、週末は自宅ショップのオーナーとして二足のわらじを履く生活を送っています。
二足のわらじの例とは?
サラリーマンの「二足のわらじ」の例
正社員の副業・兼業の解禁と促進が進む現在、「二足のわらじ」を履いて、職業を掛け持ちするサラリーマンも増えてきました。しかし、かつてはサラリーマンの「二足のわらじ」といえば、平日は会社に出勤してサラリーマンとして働き週末や忙しい期間は農家として働く「兼業農家」や、アパート経営など大家業などの自営業との「二足のわらじ」がほとんど。代々続いてきた家業を絶やさないために、親からの仕事を受け継いで「二足のわらじ」を履いていたのです。
現在は、サラリーマンが「二足のわらじ」を選ぶ動機は、自分のキャリアの充実、やりたいことの実現、収入を充実させるためにと大きく変わりました。就業後バーテンダーとして働く、週末のみ講師として働くなど働き方も多岐に渡ります。
芸能人など有名人の「二足のわらじ」の例
過去より芸能人が「二足のわらじ」を履く事例は多くありました。知名度を生かしたカフェやグッズショップなどのオーナーにはじまり、趣味が講じての飲食店経営、作家や書道、アートを手がける芸術家などです。
「二足のわらじ」の類語とその違いとは?
「二足のわらじ」と「兼業」との違い
「二足のわらじ」と「兼業」は「仕事を掛け持ちする」という意味では、近い言葉ではありますが、若干意味が異なります。「二足のわらじ」は「両立が難しい仕事の掛け持ち」「どっちつかず」の否定的な意味を持ちますが、「兼業」は仕事の内容や両立の難易度にかかわりなく掛け持ちしている状態のみを伝える言葉として使います。
「二足のわらじ」と「二刀流」との違い
「二刀流」とは、本来は左右の手に「相手を攻める刀」「相手の攻撃から守る刀」それぞれを持って戦う戦術のことで、仕事を掛け持ちするという意味ではありませんでした。しかし「同時に2つをうまくこなすこと」という意味を持っていることから、スポーツ界においては「二足のわらじ」同様に、職業や役割の掛け持ちを指す言葉としても「二刀流」が使われています。
二足のわらじの英語表現とは?
「2足のわらじ」の英語は”wear two hats”
「2つの職業を掛け持ちしている」状態を英語で表現する場合には「wear two hats」を使うのが適しています。直訳すると「2つの帽子をかぶる」となり、「I am wearing two hats as ○○ and as △△」と使うことで、○○と△△の職業に就いていることを表します。
その他の英語での表現例
「be engaged in two trades at the same time」
「be engaged in ○○」は「〇〇に携わる」という意味を持つフレーズで、「trades」は「職業」や「商売」を意味する「trade」の複数形。「wearing two hats」同様、「2つの職業を掛け持ちしている」の意味で使います。
「many irons in the fire」
「many irons in the fire」は、直訳では「火の中に多くの鉄を入れる」となる言葉。「いろいろなこと(仕事)に手を出す」という意味となるため、「二足のわらじ」を否定的な意味で表現する場合に適しています。
まとめ
両立することが困難な2つの仕事を掛け持ちすることを指す「二足のわらじ」は、本来は両立に対してマイナスのニュアンスを持つ言葉。最近は、困難なことを両立している褒め言葉として使われることも多いですが、本来は相手を褒める場合には使わない言葉であることを認識しておくことが必要です。