ビジネス市場はどの時代も波瀾万丈。時には勝ち目のないライバルに牙を向けて立ち向かわなければならないこともあるでしょう。たとえ、それが「蟷螂の斧(とうろうのおの)」となろうとも…。
ここでは「蟷螂の斧」という表現について由来と意味、使い方と例文、類語と英語表現についてまとめています。さて、あなたは無謀な戦いにあえて臨みますか?
「蟷螂の斧」とは?
「蟷螂の斧」の意味は”無駄ではかない抵抗”
「蟷螂の斧」の意味は、“無駄ではかない抵抗”です。「蟷螂の斧」とは”カマキリの前脚”のことで、カマキリが自分よりはるかに大きな相手に対し、向こう見ずに攻撃するさまを表しています。
つまり、「蟷螂の斧」は”明らかに弱い者が強い者に、自分の力量をふりかえらず挑むこと”を指し、勝ち目のない挑戦でも決して下がることなく向かっていくことを意味する言葉となります。
「蟷螂の斧」の読み方は”とうろうのおの”
「蟷螂の斧」の読み方は、“とうろうのおの”です。
日本語では「蟷螂の鎌」とも表記する
「蟷螂の斧」とは”カマキリの前脚”のことで、カマキリが自己防衛したり、獲物を捕まえる時に振りかざす「カマ」を指しています。中国ではカマキリのカマを「斧」と表記しますが、日本語では「鎌」と書きます。
本来であれば「蟷螂の斧」ではなく、「蟷螂の鎌」とするのが日本ではわかりやすい表記方法となりますが、由来である中国の漢文に従って「蟷螂の斧」をそのまま使っているのが現在のあり方です。
「蟷螂の斧」の由来は”韓詩外伝(かんしがいでん)”
「蟷螂の斧」は由来は、故事や逸話を「詩経」に関連づけてまとめた「韓詩外伝(かんしがいでん)」の中にありました。
この書物の中に、斉の荘公(そうこう)が狩りに出かけた時の話が載っています。一匹のカマキリがが大きく頑丈な馬車の車輪を一生懸命つついているではありませんか。その無謀とも言えるカマキリの行動に、従者は「カマキリは下がることを知らず、前に進むことしか知りません」と荘公に説明し「カマキリは自分の力を顧みず、敵に襲い掛かるのです」と続けたと書かれてあります。
荘公は「カマキリが人間であれば、天下を取るのであろう」と答え、小さなカマキリをふみつけることなく通り過ぎたそうですが、この部分が「蟷螂の斧」の由来となります。
「蟷螂の斧」は英語で”reckless”
「蟷螂の斧」を英語で表現するときは、シンプルに「無謀」を意味する“reckless”を使うのが良いでしょう。しかし「弱者でありながら強者に無謀な挑戦をする」という意味を忠実に訳したいなら”courageous but doomed resistance(勇敢だが、はじき返される運命)”としても構いません。
「蟷螂の鎌」の使い方と例文とは?
「蟷螂の斧」の使い方と例文についてみてみましょう。
「蟷螂の斧」は無謀な戦いを戒めるために使われる
「蟷螂の斧」には”無駄な抵抗”や”はかない抵抗”という意味がありますが、明らかに力の及ばない「無謀な戦い」に対し、それをストップさせる時にも使われます。自分が小さくて弱く、相手が大きく強い場合は、どう考えても勝つ可能性は低くなるからです。
「蟷螂斧」は弱い者が強い者に自分の力量や裁量をかえりみず、むやみに立ち向かおうとする時、その無謀な行動を戒める意図で使われることがあります。
もちろん、闘争心が極めて高く「たとえ勝つ見込みがなくとも、やってみなければわからない」という考えもあるかもしれません。しかし「蟷螂の斧」という表現を使えば、相手に「自分がどれだけ無謀であるか」を意識させることもできるでしょう。
「蟷螂の斧となろうとも」はよく使われる熟語表現
ビジネスシーンをはじめ、挑戦を挑む場面でよく使われる熟語表現が「蟷螂の斧となろうとも~する」です。
弱い者が強い者にあえて挑む姿は、誰もが応援したくなる場面でしょう。内心では「意味の無い挑戦かもしれない」と思っても、心のどこかで「頑張れ!」と応援したくなる気持ちは抑えられません。
「蟷螂の斧」は「無意味な抵抗」や「無謀な挑戦」を意味する言葉です。しかし、弱い者が強いもに果敢に挑む姿に対して「蟷螂の斧になろうとも」という表現を用いて、過酷な戦いでありながらも「敬意を表す」意図で使われることもあります。
「蟷螂の斧」を使った例文
「蟷螂の斧」を使った例文をビジネスシーンを中心にいくつか挙げてみましょう。
- 業界大手に戦いを挑むのは蟷螂の斧かもしれないが、やってみなければわからない。
- 蟷螂の斧となろうとも、キャリア数十年の先輩と売り上げを競うつもりだ。
- 人気ブランドとデザインで張り合うなんて、まさに蟷螂の斧ではあるまいか?
- 蟷螂の斧だと指をさされようと、土木作業場で初の女性監督として働くつもりだ。
「蟷螂の斧」の類語とは?
「蟷螂の斧」の類語について解説します。状況に合わせて、適切な類語と言い換えをしてみて下さい。
「蟷螂の斧」の類語は”小男の腕立て”や”ごまめの歯軋り”など
「蟷螂の斧」の類語には“小男の腕立て”や“ごまめの歯軋り(はぎしり)”があります。
「小男の腕立て」は”力のない男が戦おうとしても、力不足で問題にもならず足元にも及ばないこと”、また「ごまめの歯軋り」は”実力がないものが、むやみに苛立つこと”を意味しています。ちなみに「ごまめ」はカタクチイワシを煮干しにした食べ物で、このことわざの中では「実力のないもの」として比喩的に使われているのが特徴的でしょう。
どちらのことわざも「無駄であること」「意味の無いこと」を表現する言い回しとして共通しています。
「竜のひげを蟻が狙う」は身の程を知らないチャレンジ
もう一つの類語は「竜のひげを蟻が狙う」です。強者である竜を、弱者である蟻が狙うことをたとえたことわざで「弱者が身の程を考えもせず、強者に果敢に立ち向かうこと」を意味しています。言ってみれば、負け勝負となるとんでもないチャレンジだとも言えるでしょう。
ほぼ「蟷螂の斧」と同じような意味となりますが、「無謀で向こう見ず」であることを表現する時に好んで使われる言葉となります。
まとめ
「蟷螂の斧」は「とうろうのおの」と読み、意味は「弱者が力量を顧みず挑戦すること」また「無謀ではかない抵抗」となります。「蟷螂」とはカマキリのことで、「斧」は前脚、つまり「カマ」を意味し、カマキリが自分の力をわきまえず、無謀にも自分より大きな相手に襲い掛かろうとする特徴にちなんでいます。
戦うビジネスパーソンなら、たとえ相手が自分より数倍大きくても、一度上がった土俵からは決して下がろうとはしないと思います。もしかしたら、天下を取ろうとするものは「蟷螂の斧」となろうとも「強者に刃向かうこと」をあきらめないのかもしれません。