「不条理」は一般的にも使われる言葉ですが、不条理小説で表現される不条理とは意味が違うのでしょうか?この記事では「不条理」の一般的な意味と、文学などにおける意味についてそれぞれ解説します。あわせて類語・英語表現や、代表的な不条理小説なども紹介します。
「不条理」とは?
「不条理」の意味は”筋道の通らないこと”
「不条理」の意味は、“筋道の通らないこと”です。矛盾したりする論理や、そのような様子や状況を表します。
「不条理」は、目の前の状況や考えの筋道が通らないことを表すとともに、抽象的な概念としての不条理も表します。
抽象度が高い場合は、「不条理な世界」や「不条理な世の中」などと表現され、筋道が通らないままに論理的に矛盾を解決できないまま存在する世界観を表します。
哲学や文学の「不条理」の概念はカミュが理論化した
哲学や文学のテーマとして扱われる「不条理」は、フランスの作家カミュが著書『シーシュポスの神話』(1942年)において論理展開し、一般的に知られる概念となりました。
『シーシュポスの神話』は、ギリシャ神話を引いて「不条理の哲学」を論じたもので、カミュの作品や不条理文学の解説書ともいえるものです。
カミュは、理性で割り切れない世界と、明晰を求める人間の精神とが、対峙したままである対立状態を「不条理」だと説明しました。日常的な状況において使われる「不条理」に比べて、哲学や文学で使われる「不条理」には、重たい対立の概念が含まれています。
「不条理」の使い方と例文とは?
一般的な「不条理」の使い方と例文を紹介します。
「不条理な世界」「不条理な世の中」の使い方
人間が社会の中で生きて行く上で、理屈に合わない論理を飲まなければならなかったり、論理の通らない考えに従わざるをえなかったりすることは避けることができません。そのような現実社会を「不条理な世界」や「不条理な世の中」という言い方で表します。
- 不条理な世の中だが、割り切って生きてゆくしかない
- 不条理な世界を受け入れなければ、社会の一員になることはできない
筋道の通らない考えや状況について指摘するときに使う
目の前に筋道が通らない状況が展開されているときなどに、「不条理」を用いてそれを指摘することができます。
- この契約は双方が対等な立場に立っていない不条理な契約内容になっている
- 近年、店員に対して不条理な要求を行う客が増えている
- 理由のない不条理な犯罪が多発している
「不条理」の類語や英語表現とは?
「不条理」の類語と英語表現を紹介します。
「理不尽」は”道理に合わないこと”という意味
「理不尽」とは、”道理に合わないこと”という意味です。「理不尽な要求」「理不尽な仕打ち」などと、筋道が通らないことを無理に押し通そうとする態度などを表します。
「不条理」には解決できない絶望の気分を含む抽象的な意味合いがありますが、「理不尽」は具体性が高い事柄に対して用いられるといえます。例えば「理不尽な上司」よりも「不条理な上司」の方が、抽象的かつ混迷の度合いが深いといえます。
「不合理・非合理」は”首尾一貫していないこと”という意味
「不合理」「非合理」は首尾一貫していないさまという意味です。
「不条理」にはこれらの意味に加えて「荒唐無稽」「まったく意味をなさない」というような独特な重みが加わっています。「不合理哲学」ではなく「不条理哲学」と称されるゆえんだといえます。
「不条理」の英語表現は”absurd”
「不条理」の英語表現に“absurd”があります。明確な使い分けは難しいですが、「理不尽」の表現として「irrational、unreasonable」があります。
- 「不条理な世の中」absurd world
- 「理不尽な要求」unreasonable demand
「不条理小説」を紹介
答えの出ない「不条理」は、文学や芸術の永遠のテーマだといえます。「不条理小説」として代表的なものを紹介します。
カミュ『異邦人』『ペスト』
アルベール・カミュ(1913年~1960年)は第二次世界大戦から戦後において、不条理の文学を打ち立てました。
中でも『異邦人』(1942年)は、人間とは何かという根源的な問いかけに発して書かれた不条理の文学を代表する傑作だと評価されています。
『異邦人』は、母親の葬儀で涙を流さず、「太陽が眩しかったから」という理由で殺人を犯すムルソーの回想の形をとって書かれています。ムルソーは死刑判決を受けると自分が幸福であることを悟り、自分がより幸福であることを感じるために人々から憎悪されることを願います。
『ペスト』(1947年)は、ペストに襲われた市を舞台に繰り広げられる人々の反応を描いています。ペストという悪の不条理に対面したときに浮かび上がる人間の不条理が語られています。
カフカ『審判』『変身』
フランツ・カフカ(1883年~1924年)の小説も不条理小説として知られています。カミュは「カフカは、悲劇は日常的なものによって、不条理は論理的なものによって表現した」と評しています。
『審判』では、理由の分からないまま告訴され、有罪の判決を受けたたヨーゼフ・Kについて描かれています。最後は残酷に処刑されますが、主人公は素直にそれを受け入れます。物語の異常性によって人間の不条理が浮かび上がっています。
『変身』では、ある朝めざめると巨大な虫に変身していた青年ザムザの物語です。虫に変身しながらも仕事のことを心配する主人公や、家族の日常が変わりなく進んでゆく矛盾に読者は不安を覚えます。
ドストエフスキー『悪霊』『地下室の手記』
ドストエフスキー(1821年~1881年)の小説は不条理の問題を提起する哲学でもあります。
『悪霊』では、自殺や無関心という不条理が扱われます。異常な登場人物の不条理な行動から、読者は不思議に身近な苦悩を感じます。
『地下室の手記』は、一般社会と関係を断って地下室にこもる小官吏の独白です。理性では理解しがたい人間心理と無為の不条理が描かれています。
「不条理演劇」(不条理劇)とは?
前衛劇のジャンル
演劇のジャンルに「不条理演劇」(不条理劇ともいう)があります。1950年代にフランスを中心におこった前衛劇で、マーティン・エスリンの著者『不条理の演劇』(1961)によって名称が一般化されました。
不条理演劇の特徴は、論理的思考に基づく従来の劇を否定し、非論理的な展開で人間の不条理性を提示する手法にあります。不条理演劇作家の第一人者としてイヨネスコ(1912年~1994年)がいます。
まとめ
人間の生きる意味や、人間とは何かという根源的なテーマを論ずる哲学や文学において避けて通れない概念が「不条理」です。一般的な場面では、「筋道の通らないこと」という意味で使われます。会社の一方的な命令に対して「それは不条理だ」と反発することもあるでしょう。
また、「理不尽」も筋道が通らないことという意味ですが、より混迷が深い状況のときに「不条理」が使われるといえます。