「そこはかとなく」の意味とは?古語の例文や類語・英語も紹介

「そこはかとなく」は現代でも使われる古語ですが、その意味や使い方は昔と変わらないのでしょうか?この記事では「そこはかとなく」の意味と、古語の例文と現代での使い方と例文などを紹介します。あわせて、類語や英語も紹介しています。

「そこはかとなく」の意味や語源とは?

「そこはかとなく」の意味①”理由は特定できないがそう感じること”

「そこはかとなく」の意味は、“理由は特定できないが、そのような雰囲気を感じること”です。「そこはかとなく漂う〇〇」「そこはかとなく〇〇を感じる」のように現代では一般的に使われます。

「そこはかとなく」の意味②”とりとめがない・無限である”

「そこはかとなく」の意味は、“とりとめがない・無限に”です。平安時代や鎌倉時代に書かれた物語や随筆などでは、そのように使われているものがあります。

「そこはかとなく」の語源や漢字の出典は不明

「そこはかとなく」は、「其処は彼と(それは何であると明示する)」を「ない」と否定した言葉が語源であると辞書に記載されていることがありますが、その出典などは不明です。

「そこはかとなく」の古語の例文とは?

古典文学などに使われている古語の例文とその現代語訳を紹介します。

『徒然草』「そこはかとなく書きつくる」

鎌倉時代に書かれたとされる、吉田兼好の『徒然草』序段には次の一節が書かれています。

つれづれなるままに、日ぐらし硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書き付くれば、あやしうこそもの狂ほしけれ。

■現代語訳の例
心をよぎる気まぐれなことを「とりとめもなく」書きつけていると、不思議な世界に異常なほど引き込まれてしまう。

「そこはかとなく」の意味は、一般的には「とりとめもなく」「あてもなく」と訳されますが、「無限に」という意味だとする説もあります。

『源氏物語』「そこはかとなき虫の声々聞こえ」

平安時代中期に紫式部によって書かれた小説『源氏物語』の一節です。

風涼しくて、そこはかとなき虫の声々聞こえ、蛍しげく飛びまがひて、をかしきほどなり。

■現代語訳の例
涼しい風が吹き、「どこからともなく」あちこちから虫の声が聞こえ、蛍もたくさん飛びかい、趣きがある。

ここでの「そこはかとなく」は虫が鳴いているところがどこかはっきりしない、どこからともなくという意味で使われています。趣きのある屋敷の様子を表したくだりです。

『新古今和歌集』「そこはかとなくものぞかなしき」

鎌倉時代の勅撰和歌集『新古今和歌集』に収められた藤原高光の歌です。

神無月 、風に紅葉の散るときは、そこはかとなく物ぞかなしき

■現代語訳例
11月の風に吹かれて紅葉が散るようすは、「なんとなく」物悲しい思いがする。

現代において一般的に使われる「なんとなく」という意味で使われています。

「そこはかとなく」の一般的な使い方と例文とは?

「そこはかとなく」の現代における一般的な使い方と例文を紹介します。

「そこはかとなく」は上品な雰囲気を表現したい時に使われる

現代の社会で「そこはかとなく」が使われる場面は、あいまいな雰囲気を上品に表したいときなどに趣きのある言葉として用いられることが多いかもしれません。「雅語」としての大和言葉のイメージがあることが理由と考えられます。

「そこはかとなく漂う」を使った例文

「そこはかとなく漂う」を使った例文をご紹介しましょう。

  • 彼女にはそこはかとなく家柄の良さが漂う
  • そこはかとなく漂うアロマの香りが心地よい
  • そこはかとなく漂う知性が人気の俳優

「そこはかとなく感じる」を使った例文

「そこはかとなく感じる」を使った例文をご紹介しましょう。

  • このワインには、そこはかとなくバラの香りが感じられる
  • そこはかとなく感じるもの哀しさは、うまく表現することができない
  • 古い街並みには、そこはかとなく懐かしさを感じる

「そこはかとなき」「そこはかとない」という使い方もある

「そこはかとなく」以外にも「そこはかとなき/ない」という使い方もあります。「そこはかとなき優雅さを備えた人」などです。

「そこはかとなく」の類語と英語表現とは?

「理由は特定できないがそのように感じる」という意味の「そこはかとなく」の類語と英語表現にはどのような表現があるのでしょうか?

類語「心なしか」の意味は”気のせいかもしれないが”

「心なしか」は「気のせいか」と同じ意味で使われ、「原因はわからないがなんとなく」という意味の表現です。「心なしか彼女に嫌われているような気がする」などと、「気のせいかもしれないが、そのように感じる」という不安な気持ちを表すときによく用いられます。

「そこはかとなく」はどこからともなく漂う香りや雰囲気に使いますが、「心なしか」は原因が特定できない心の動きを表します。

類語「おぼろげに」の意味は”はっきりしないこと”

「おぼろげに」とは「はっきりしないこと」「わずかに感じている様子」を表します。「おぼろげな記憶」「おぼろげに確認できた」など認識の程度のあいまいさを表現します。

「そこはかとなく」の英語は「somehow」「for some reason」「vague」など

「そこはかとなく」の英語表現には「somehow」「for some reason」「vague」などがあります。

■例文

  • 「そこはかとなく懐かしい気分になった」I felt somehow nostalgic.
  • 「そこはかとなくさみしさを感じた」I had a vague feeling of loneliness.

まとめ

「そこはかとなく」は「理由は特定できないがそう感じること」という意味を上品に表現したいときに、「そこはかとなく感じる懐かしさ」などと使われます。

室町時代や鎌倉時代に使われた古語としては、「無限に」「とりとめなく」などの意味もあります。有名な『徒然草』の「そこはかとなく書きつくる」の現代語訳は「とりとめもなく書きつくる」あるいは「無限に書きつくる」とされますが、この意味での使われ方は現代ではあまり一般的でないかもしれません。