謙譲語「存じ上げる」の意味と使い方は?尊敬語との違いや類語も

「存じ上げる」という謙譲語を使いこなせていますか?「存じ上げる」を正しく使うためには、敬語の「謙譲語」「尊敬語」の意味とそれぞれの使い方の違いを理解する必要があります。

この記事では「存じ上げる」の意味と使い方に加えて、謙譲語と尊敬語の違いについても解説します。あわせて「存じ上げない」という否定の使い方や、類語・英語表現なども紹介します。

「存じ上げる」とは?

「存じ上げる」の意味は”知る・思う”謙譲語

「存じ上げる」の意味は、“知る・思う”です。動詞「存ずる」に「上げる」を付け加えた造語です。自分の行為をへりくだって表現する「存じ上げる」は謙譲語です。

謙譲語である「存じ上げる」は、「人に対する敬意」を示すときに使う表現であることがポイントです。「〇〇様のことは存じ上げております」と言いますが、「御社のヒット商品は以前から存じ上げております」とは基本的には使いません。

ただし、話の流れや相手との関係性によっては、人以外の対象に「存じ上げる」を使うこともあります。特に会話の相手やその事象に対して、敬意を表したいときなどです。

また、謙譲語は自分の動作に対して使う表現であるため、「〇〇を存じ上げていますか?」などと相手に質問するときには使えません。「〇〇をご存じですか?」と聞きます。

質問するときの「ご存じですか?」の「ご存じ」は、「知っていらっしゃる」という意味の「尊敬語」です。

「謙譲語」は自分を低めて相手を高める敬語、「尊敬語」は相手の行為を高める敬語

人への敬意を示す敬語には「謙譲語」と「尊敬語」があります。両者の区別の仕方について確認しておきましょう。

謙譲語とは、相手に対して自分を低めることで、相手を高める気持ちを表す言葉のことです。「申し上げる」「うかがう」などが謙譲語です。

尊敬語は、「相手の行為を高める」表現をするものです。「おっしゃる」「お聞きになる」などが尊敬語です。

このことから、「存じ上げる」は謙譲語で、「ご存じですか?」は尊敬語となります。

「知る・思う」それぞれの意味別に”存じ上げる”の例文を紹介

「知る・思う」それぞれの意味の使い方と例文を紹介します。

■「知る」の意味で使う場合

「そのことを知っている」という意味で「存じ上げる」を使うときの対象は「人」であることが基本です。

  • 〇〇様のことは以前より存じ上げております
  • 奥様は英語が得意でいらっしゃると存じ上げております

 

■「思う」の意味で使う場合

相手の状況などについて「こう思う」という意味で「存じ上げる」を使う場合は、少々堅苦しい印象を持つため、ビジネスの場おいてはメールや手紙などの挨拶の言葉で使われることが多いといえます。しかし特に上位の人に対しては会話でも使うことがあります。

  • 〇〇様におかれましては、お健やかにお過ごしのことと存じ上げます(手紙の挨拶文)
  • 今日はお休みかと存じ上げておりました(社長などに対して)

「ありがたく存じ上げる・嬉しく存じ上げる」は間違い

目上の人に「ありがたく思っています」「嬉しく思います」という感謝や喜びの気持ちを伝えたいときに、例えば「称賛のお言葉をいただき、ありがたく(嬉しく)存じ上げます」と言うのは間違いです。この例でいうと、「称賛の言葉をいただいた自分の思い」に対してへりくだってしまっているためです。先に説明したように、「存じ上げる」の対象は人であるのが基本です。

「称賛のお言葉をいただき、ありがたく存じます」が正しい言い方です。より丁寧に言いたいときは「まことにありがたく存じます」「大変ありがたく存じております」などと言うことができます。

否定「存じ上げない」の使い方と例文とは?

「知らない」ことを丁寧に表現する言い方を紹介します。

「存じ上げない」+「クッション言葉」の使い方と例文

「存じ上げる」の否定は「存じ上げない」です。「存じ上げません」「存じ上げておりません」などと使います。取引先や目上の人に「知らない」という否定的なことを伝えるときは、謙譲表現にプラスしてクッション言葉を補うことにより、柔らかい印象を与えられるよう配慮するとよいでしょう。

  • 大変申し訳ないのですが、存じ上げておりません
  • まことに恐縮なのですが、存じ上げておりません
  • 存じ上げておらず、申し訳ございません
  • 存じ上げず、恐縮でございます

「わかりかねます」に言い換えることもできる

「存じ上げません」は、状況によっては「わかりかねます」という肯定の言葉に言い換えることにより、印象を和らげることができます。

  • 取引先の人からの質問:「弊社の社長をご存知ですか?」
    ⇒「申し訳ございません、わかりかねます」

「存じ上げる」と類語”存ずる・承知する”との違いとは?

「存ずる」「承知する」の使い方と、「存じ上げる」との違いについて紹介します。

「存ずる」よりも”存じ上げる”の方が、よりへりくだる表現

「上げる」という相手を上位に持ち上げる表現を付け加えることにより、「存ずる」よりも、よりへりくだった表現になるのが「存じ上げる」です。高い尊敬の気持ちを表す「存じ上げる」は基本的に人に対して使いますが、「存ずる」は敬意の対象として人以外にも物や場所などにも使います。

「御社のヒット商品は存じております」「その件については存じております」などと使います。

「承知する」は”存じ上げる”と同格ではない

「承知する」とは、知っている、引き受けるという意味です。「〇〇について承知しております/承知いたしました」と理解を表すときに使います。「承知いたしました」「承知いたしております」と「致す」を使うことで謙譲表現ができます。

「承知する」は、そのように理解している、ということを伝える意味合いが強いため、相手に高い敬意を表す「存じ上げる」よりも、「存ずる」に近い類語だといえます。

「存じ上げる」の英語表現とは?

英語に敬語はないため、状況から丁寧の度合いを判断する

英語表現に敬語はないため、相手との関係性や状況から、丁寧の度合いを判断します。「知る・思う」を表現する英語の言い方を例文で紹介します。

  • 御社の社長のことは以前から存じ上げております
    I have known about the president of the company before.
  • お健やかにお過ごしのことと存じ上げます(手紙の挨拶文)
    I hope you have been well.

まとめ

「存じ上げる」は、人に対する高い敬意を示すときに使う謙譲語です。〇〇様のことはよく存じ上げております、などと使います。

人に対して使う表現であるため、自分が「こう思う」ということを「嬉しく存じ上げます」と使うのは誤りです。このときは「嬉しく存じます」を使います。

自分をへりくだる表現であるため、相手に対して「存じ上げていますか?」と質問するときにも「存じ上げる」は使うことはできません。質問するときは「ご存じですか?」と言い、この場合は「尊敬語」となります。

敬語は使い方が難しいものですが、慣れてくると自然に口に出るようになります。まずは使ってみることが大切です。この記事が参考になれば幸いです。