「医者の不養生」の意味とは?使い方と例文に類義語・英語を解説

職業にちなんだことわざは数多くありますが、その一つに「医者の不養生」があります。ではこの「医者の不養生」とはどのような意味で、どのような使い方をするのでしょうか。

今回は「医者の不養生」の意味や由来のほかに、このことわざを使った例文と使い方を解説します。また類語となることわざのほかに英語表現も紹介します。

「医者の不養生」とは?

意味は「わかっているのに自分では行動しないこと」

「医者の不養生」の意味は、“理屈の分かっているにもかかわらず、自分ではその通りに行動しないこと”です。

このことわざは、医者は患者に養生を勧めすものの、自分のことは後回しで、結局自分の養生には注意を払わないという医者のありがちな態度から生まれました。

医者に限らず専門家というものは、人に専門的なアドバイスをしながら、本人はそれを実行しないと思われているところがあるようです。

「医者の不養生」の読み方は”いしゃのふようじょう”

「医者の不養生」の読み方は、“いしゃのふようじょう”です。

「医者」の読み方は難しくありませんが、「不養生」の「ふ」を「ぶ」と読み違いしやすいようです。

「不養生」は濁らずに「ふようじょう」と読むので正しく覚えておきましょう。

「医者の不養生」の由来は小説『風流志道軒伝』

「医者の不養生」ということわざは、江戸時代中期に薬学から戯作まで手掛けた多才な自分物、平賀源内の2作目の小説『風流志道軒伝』(ふうりゅうしどうけんでん)の中に、「医者の不養生、坊主の不信心」というフレーズが出てきます。ここから「医者の不養生」ということわざが生まれたようです。

『風流志道軒伝』は、平賀源内がペンネームとして風来山人を使って執筆されました。浅草境内で滑稽な身振りで世相を風刺していた講釈師「深井志道軒」を天才に見立ててその経歴を小説にしたのですが、諸国遍歴を巡りながら世相の風刺も織り交ぜた滑稽本です。

「医者の不養生」の使い方と例文とは?

「医者の不養生」を医者だからこそ使う使い方

「医者の不養生」とは医者が患者ばかりを気遣って自分の健康には無関心という医者ならではの態度から生まれたことわざです。でもこれはことわざにとどまらず、実際に医師として働く人たちにそのような人が多いことも事実のようです。

そのため、このことわざを医者にこそ使う使い方がよく見られます。

例文:
「彼はヘビースモーカーで大食漢。その上、ろくに運動なんかしない。まるで医者の不養生を絵にかいたような人だけれど、腕のいい医師であることに変わりはない」
「あの医者が肝臓を傷めたのは、要は医者の不養生ってやつだ」

医者以外で「医者の不養生」を使った例文

「理屈をわかっていながら、その通りに行動しない人のたとえ」で使われる「医者の不養生」ですが、そうした人は医者に限らずどこにでもいるものです。

物を教える立場の人や説教をする人など、どうすべきなのかをわかっていてそれを他人に説きながら、自分では人のお手本になるようなことはしない人に対して「医者の不養生」は使われます。

例文:
「人にたばこの害について散々語っておきながら、部長は禁煙しないじゃないか。医者の不養生ってやつだね」
「ウイルス対策ソフトの開発に関わっているのに、自分のコンピューターにウイルスが感染したって?それって、まさに医者の不養生だよ」

「医者の不養生」と同じ意味のことわざ・類義語とは?

同じ意味のことわざは「坊主の不信心」など

「医者の不養生」のように他人に立派なことを言っておきながら自分自身には注意が行き届かない、または自分はろくに実行しないといった意味と同様のことわざは数多くあります。ここではその一部を紹介します。

  • 「坊主の不信心」(ぼうずのふしんじん)

「医者の不養生」と同義ですが、「坊主の不信心」は「仏教の修行をしなが、僧が仏を信じないこと」という僧の態度から生まれたことわざです。

  • 「儒者の不身持ち」(ぶしゃのふみもち)

「口では立派なことを言いながら、実行が伴わないことのたとえ」です。

ちなみに儒者とは、儒学という孔子に始まる中国古来の政治や道徳を説く学問のことで、日本では江戸時代に一般的に知られるようになりました。

  • 「紺屋の白袴」(こうやのしろばかま)

「他人のことで忙しすぎて、自分には手が回らないことのたとえ」という意味です。

紺屋とは染物屋のことで、お客のために染物はして忙しくしていても、自分のことをする暇がなく、自分の袴を染めることができない状況から生まれたことわざです。

  • 「大工の掘っ立て」(だいくのほったて)

他人のためには立派な家を建てることができるのに、自分は粗末な掘っ立て小屋に住んでいるという例えから、「他人の世話ばかりしているのに、自分のことにはあまり注意を払わず、自分のために行動もしない」という意味です。

「不養生」の類義語”不摂生”との違い

「不養生」に似た言葉で「不摂生」があります。

「不摂生」(ふせっせい)は「健康に注意を払わないこと」または「健康に悪いことをすること」という意味です。また「不養生」も健康に気をつけないことをいう意味なので、「不養生」と「不摂生」は同じ意味を持つ類義語です。

「医者の不養生」の英語表現とは?

「医者の不養生」は英語で”Doctors often neglect their own health.”

「医者の不養生」を「医者は時として自分自身の健康に無頓着だ」という意味に解釈して英訳します。

その英訳は、次のようになります。

“Doctors often neglect their own health.”

同義の英語のことわざは「仕立て屋」

また「医者の不養生」と同じ意味の英語のことわざもあります。医者の不養生のようにたとえなのですが、医者ではなく仕立て屋なのが、英語版のことわざの特徴です。

そのことわざとは”The tailor’s wife is worst clad.”で、その直訳は「仕立て屋の妻はひどい服を着ている」です。

まとめ

「医者の不養生」とは「理屈わかっていても自分では行動しない人のたとえ」です。他人には立派なことを言っていても、自らの行動は伴わない人とは医者に多くいるようで、そうした医者の態度から生まれたことわざです。

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「難解なワードでもわかりやすく」をモットーに、常識ワードからビジネス用語、時には文化・アート系など、幅広く記事を書かせていただいています。ドイツ在住で2児の母。好きな食べ物はビターチョコレートとナッツ類。