「李下に冠を正さず」の意味と由来の故事とは?類語や英語表現も

「李下に冠を正さず」は、ビジネスでも使われることが多い教訓的なことわざです。その由来もおさえておくことで、適切に使いこなすことができます。

そこでこの記事では、「李下に冠を正さず」の意味とともに由来となった漢文と訳文を紹介します。あわせてビジネスでの使い方と例文、類似のことわざと英語表現も紹介しています。



「李下に冠を正さず」の意味と由来の故事とは?

「李下に冠を正さず」の意味と、由来となった故事を解説します。

「李下に冠を正さず」の意味は「誤解を招く行動は慎むべき」という戒め

「李下に冠を正さず(りかにかんむりをたださず)」とは、誤解を招くような行動は慎むべきだという戒めのことわざです。

「李下」とは李(すもも)の木の下という意味です。李の木の下で冠をかぶり直そうと手を上げると、果実を盗んでいるように見えて誤解を招くのでやめるべきだ、冠がずれても我慢しなさい、という教訓の言葉が「李下に冠を正さず」です。

「李下に冠を正さず」の由来は漢文詩の『君子行』

「李下に冠を正さず」の由来・出典は、「古楽府」という中国古典詩にある『君子行』の一節です。

原文:君子防未然 不處嫌疑間 瓜田不納履 李下不正冠

書き下し文:君子は未然に防ぎ 嫌疑の間におらず 瓜田に履を納れず 李下に冠を正さず

現代語訳:君子たるもの、疑われるような行動は未然に防ぎ、嫌疑を受けるようなところには居ないことだ。瓜の畑では、かがんで靴を履くようなことはせず、李の木の下では、冠を直したりしないことだ。

中国の儒教における理想的人格である「君子」の言葉から始まるこの詩は、公職に就く人や身分の高い人に対する処世訓として書かれたものです。

儒教では特に「礼節」が重んじられており、冠が曲がっているのは礼節を欠くことであるため、すぐに直すべきことでした。しかし、誤解を招く恐れがあるときには、あえてそれを直さずにいるべきだとするこの教訓は、君子には潔癖さと信用が第一だと教えているのです。

『列女伝』に書かれた故事が由来との説もある

中国漢代に編さんされた女性の史伝集『列女伝‐斉威虞姫』に、悪者に陥れられた王の後宮の逸話があり、「李下に冠を正さず」が登場します。

斉の威王の後宮に虞姫(ぐき)という女性がおり、虞姫は腹黒い臣下の悪事を王に告げます。すると逆恨みした臣下より策略にかけられ、虞姫は王に疑われてしまいます。王に弁明する場面で虞姫が、「瓜田に履を納れず、李園過ぐる時は冠を整さずといわれるように、人から疑われることを避けなかったのが私の落ち度です」と話します。

ここでは「経瓜田不納履 過李園不整冠」という漢文になっているため、「李下に冠を整さず」という書き方をする場合もあります。

いずれにせよ、「君子行」「列女伝」ともに同じ意味で用いられており、古代中国の時代からよく使われた教訓であったことがわかります。

「瓜田に履を納れず 李下に冠を正さず」と対句で使うこともある

「瓜田に履を納れず 李下に冠を正さず(かでんにくつをいれず りかにかんむりをたださず)」と対句で使われることもあります。どちらの句も誤解されるようなことは慎むべきだという意味のたとえの表現であり、対句で使われるときも、それぞれの句ごとに使われるときも、同じ意味を表します。

「李下に冠を正さず」の使い方と例文

次に「李下に冠を正さず」のビジネスにおける使い方と例文を紹介します。

「李下に冠を正さず」のビジネスでの使い方と例文

ビジネスは信用が第一です。特に、不正を働いたのではないかという誤解が生じると、実際には潔白であっても信用を失うことがあります。「李下に冠を正さず」は、ビジネスでも心得ておきたい教訓であるといえます。

例文:

  • 李下に冠を正さずと言うように、誤解を招く言動は慎まなければならない
  • 李下に冠を正さず、つまらないことで揚げ足を取られることがないように注意すべきだ

「李下に冠を正す」とあえて使うことがあるので注意

疑惑を持たれるようなことを行った人に対して、あえて「李下に冠を正した」と皮肉の意味を込めて指摘する使い方をすることがあります。ただし、「李下に冠を正さず」の意味をよく知らなければ、その皮肉の意図も理解できないため、誤った意味を類推してしまうわかりにくさがある使い方だといえます。

例えば、疑惑が追及されている国会議員に対して、疑惑を持たれても仕方がないことをしたではないか、という文脈で「李下に冠を正すようなことをすべきではない」という表現が使われます。

「李下に冠を正さず」の類語は?

「李下に冠を正さず」と類似の意味をもつことわざを紹介します。

「瓜田に履を納れず」も同じ意味のことわざ

先に対句として紹介した「瓜田に履を納れず(かでんにくつをいれず)」も「李下に冠を正さず」と同じ意味のことわざです。

瓜(うり)の畑で靴が脱げても、瓜を盗むように誤解される恐れがあるので、かがんで靴を履きなおすようなことはすべきではないということからきています。「履を納れず」とは、靴に足を入れるという意味です。

「君子危うきに近寄らず」の意味は「危険なところにな近づかない」

「君子危うきに近寄らず」とは、立派な人は自分の行動を慎み、危険なところには近寄らない、あるいは危険を冒すようなことはしないことだ、という教訓です。

人に怪しまれるようなことはしないという教訓が「李下に冠を正さず」ですが、危険なことはあえて行わないという教訓が「君子危うきに近寄らず」です。

「火の無い所に煙は立たぬ」の意味は「うわさが立つからには根拠があるはずだ」

「火の無い所に煙は立たぬ」とは、うわさが立つからには、何らかの根拠があるはずであり、根拠がまったくないところには、うわさは立たないという意味のことわざです。

戒めとして使われることもありますが、うわさが立ったときに、「火の無い所に煙は立たぬと言ように、根拠があるはずだ」などと、うわさの根拠を正す意味で使われることが多いといえます。

「李下に冠を正さず」の英語表現を紹介

「李下に冠を正さず」をそのまま英語にすると「Don’t straighten your crown under a plum tree」となりますが、その意味を伝えるためには説明を加える必要があるでしょう。

「李下に冠を正さず」と同じような意味を表す英語表現は、「誤解・疑いを招くような」という意味の「misinterpreted」「suspected」を使って次のように表現できます。

  • Don’t do anything that can be misinterpreted.
    (誤解を招くようなことをしていはいけない)
  • We do not conduct any acts that may be suspected.
    (私達は疑いを招くような行為は行わない)

まとめ

「李下に冠を正さず」とは、すももの木の下で冠を直そうと手を上げると、果実を盗んでいるように誤解を与えてしまうので、たとえ冠が曲がっていたとしてもあえて直さないのがよい、誤解を誘発するような行動は慎むべきだ、とする教訓です。

たとえ礼節を欠くとしても、誤解を招く行動をしないことを優先すべきとする「李下に冠を正さず」は、ビジネスにおける信用第一の行動の指針となる含蓄のあることわざだといえます。

「李下に冠を正すようなことは慎むべきだ」という言い回しで使われることもあるため、意味をすぐに理解できるよう、「李下に冠を正さず」の意味をしっかりと押さえておきましょう。

ABOUTこの記事をかいた人

アバター

趣味は読書とヨーロッパ旅行で、大学では人間科学とデザイン学を学びました。好きな場所は大きな図書館と美術館のカフェ。人生が豊かになる知識を探索するのがテーマです。