「悪貨は良貨を駆逐する」の意味やメカニズムとは?類語も紹介

「悪貨は良貨を駆逐する」ということわざを知っていますか?悪いものがはびこり、良いものが消えてしまうという意味で使われますが、どのようなメカニズムによるのでしょうか?この記事では「悪貨は良貨を駆逐する」の本来の意味と、転じた意味で使われている一般的な意味や使い方を解説します。あわせて類語も紹介します。

「悪貨は良貨を駆逐する」の意味とは?

まずはじめに、「悪貨は良貨を駆逐する」の本来の意味とその事例を説明します。次にそれが転じて一般的に使われるときの意味と英語表現を紹介します。

「悪貨は良貨を駆逐する」とは「グレシャムの法則」が表す経済のメカニズム

「悪貨は良貨を駆逐する(あっかはりょうかをくちくする)」とは、「グレシャムの法則」を言い表す慣用句です。

「グレシャムの法則」とは、英王室の財務官だったトマス・グレシャム(1519~1579)がエリザベス女王に進言したとされる経済に関する法則です。

中世から十八世紀ころまでのヨーロッパでは、貨幣は紙幣ではなく銀貨か銅貨でした。王は、しばしば財政の窮乏を救うために銀の含有量を落としました。すると、人は自然と質の高い良貨を手元に蓄え、質の低い悪貨で支払いをすることになります。しだいに良貨は市場から姿を消し、悪貨だけが流通するようになり、貨幣が不足するなど経済的に悪影響をもたらします。

このような理由から、名目上は同価値であっても、実質的な価値が異なる貨幣が市場に流通すると、価値の低い貨幣のみが流通し、質の高い貨幣が姿を消すことを「悪貨は良貨を駆逐する」と言います。

「グレシャムの法則」は、金貨や銀貨など、それ自体に貴金属の価値を持つ貨幣の実質価値と、額面価値が乖離したときに発生する金本位体制時代の経済にあてはまるメカニズムです。

現代の通貨制度における貨幣の流通においては、インフレーションによる額面価値の減価などについて比喩的に用いられ、本来の意味では使われません。また、通貨は流通しなければ通貨としての意味がないという意味で使われることもあります。

仮想通貨やビットコインは「グレシャムの法則」に矛盾しているとの説もある

通貨は流通しなければ通貨としての意味がないとするなら、価値の高まりを待つために保持している人が多い仮想通貨や、仮想通貨の一つであるビットコインは、結果として主流の通貨とはならないという意味で、グレシャムの法則に矛盾しているという論があります。

江戸時代の悪貨「鐚銭」が良貨の「渡来銭」を駆逐した事例

日本では、江戸時代に悪貨である「鐚銭(びたせん、びたぜに)」が良貨を駆逐した事例があります。鐚銭とは、室町時代中期から江戸時代初期にかけて私鋳され、文字がつぶれて読めないなど品質が粗悪で、価値も低いとされた貨幣のことです。

当時は貿易によってもたされた中国銭が主に流通していましたが、渡来銭の供給が難しくなると通貨不足が生じて鐚銭の流通が増大し、良質な貨幣は入手困難になりました。江戸幕府は安定した品質の通貨である寛永通宝を発行し、渡来銭や私鋳銭を禁じ、相場を定め、解決をはかりました。

「悪貨は良貨を駆逐する」の一般的な意味は、「悪いものが良いものを圧倒すること」

現在では、「悪貨は良貨を駆逐する」の一般的な意味は、経済の法則の意味から転じて、品質の悪いものが、品質の良いものを圧倒して市場を占めるという意味や、悪人が善人を追い払う、あるいは悪人がのさばり、善い人がそれに影響されて堕落する、という意味で比喩的に使われています。

「駆逐する」とは、追い払うという意味ですが、駆除するという意味にも似ているため、「悪貨は良貨を駆逐する」を良い意味として捉えてしまうことがあるようですが、それは誤用です。

「悪貨は良貨を駆逐する」は英語で「Bad money drives out good money」

「悪貨は良貨を駆逐する(グレシャムの法則)」は英語で「When there is a legal tender currency, bad money drives out good money (Gresham’s Law)」と書きます。端的には「Bad money drives out good money」と書かれます。

なお、日本のように、グレシャムの法則から離れて比喩的な意味で使われることは、英語圏ではほとんどありません。

「悪貨は良貨を駆逐する」の使い方と例文

次に一般的な意味での「悪貨は良貨を駆逐する」の使い方と例文を紹介します。

「悪貨は良貨を駆逐する」のたとえは職場や人に対しても使える

「悪貨は良貨を駆逐する」は、一般的には、そのときに必要とされることで、不健全な事柄が健全な事柄を圧倒してしまうという意味や、悪い人間が良い人間を堕落させるという意味など、批判的な意味で比喩として使われます。

身近な職場や、人に対しての「悪貨は良貨を駆逐する」を使った例文

  • 目先の利益に集中するあまり、創造的な仕事ができなくなってしまい、結果として売り上げを失った。悪貨が良貨を駆逐してしまったのだ。
  • 中身がなくても声の大きい人の意見ばかりが通り、正論であっても控え目な人の意見が消えてしまう事態は、まさに悪貨が良貨を駆逐しているといえる。
  • 精神的に閉じられた職場では、悪貨が良貨を駆逐するかのように、悪しき慣習に染まってしまう傾向が見られる。
  • 悪貨は良貨を駆逐するというように、悪事が正当化される社会になっていかないことを願いたい。

「悪貨は良貨を駆逐する」の類語とは?

最後に、「悪貨は良貨を駆逐する」の類語を紹介します。

「憎まれっ子世に憚る」の意味は「憎まれるような人ほど、勢力をふるうこと」

「憎まれっ子世に憚る(はばかる)」とは、人から憎まれるような人ほど、世間では勢力をふるって幅を利かせるものだという意味です。「悪貨は良貨を駆逐する」を人に対して使うときと同じような意味で使うことができます。

「割れ窓理論」は「軽い犯罪でも徹底的に取り締まることで治安が良くなる」理論

「割れ窓理論」(英:Broken Windows Theory)とは、建物の窓ガラスが割れているのが放置されると、管理していないと思われて地域の環境が悪化し、やがて犯罪が多発するということから名づけられた犯罪理論です。

ニューヨーク市長だったジュリアーニ市長が、割れ窓理論を実行して地下鉄の落書きなどを取り締まった結果、凶悪犯罪が減少して治安が向上したことはよく知られています。

悪いものが良いものを駆逐するという意味で使われる「悪貨は良貨を駆逐する」と「割れ窓理論」は、意味が重なる部分があります。いずれも、悪い芽は放っておくと周囲を巻き込んで増殖していくので、早い段階で摘み取ることが必要だという示唆が含まれています。

まとめ

「悪貨は良貨を駆逐する」とは、「グレシャムの法則」が表す経済のメカニズムを説明する言葉です。一般的には、悪いものが良いものを圧倒すること、あるいは悪いものがはびこると良いものが滅びるという意味で使われます。

もともとの意味である、貨幣の流通の法則を理解していないと、一般的な意味で使うときには誤用していないかという心配が起こりやすいことわざかもしれません。そのようなときは、「憎まれっ子世に憚る」の意味でも使えることわざだということを覚えておくと、使い方が明解になるかもしれません。