「漁夫の利」と聞いて漢文の授業を思い出される方もいるかとしれませんが、それほどに有名なことわざです。しかし、その意味を今でも説明できるでしょうか。
「漁夫の利」を正しく説明できるために、今回はその意味や由来のほかに、例文とともに正しい使い方も解説します。また類語や対義語、そして英語表現も紹介します。
「漁夫の利」とは?
「漁夫の利」の意味は”2者が争っている間に第三者が利益を得る”
「漁夫の利」の意味は、“2者が争っている間に第三者が苦労もなく利益を得ること”です。「ぎょふのり」と読みます。
「漁夫」の書き間違いに注意
「漁夫」と同じ読み方をする「漁父」と書き間違う例があります。
どちらも漁師という意味ですし、元来「漁夫の利」は「漁父」という字が使われていました。しかし現在では、「漁夫の利」には「漁夫」の字があてられることが一般化されているので、「漁父」と書くと間違いになります。
故事成語としての「漁夫の利」
「漁夫の利」は故事成語のひとつとして挙げられますが、この故事成語とは、主に中国の古典や口承など昔から伝えられているものを言われとした成句のことです。
故事成語は、物事がどのように生まれたのかその由来を解き明かすものから教訓を示したものまで幅広く現代にも息づいています。
「漁夫の利」の語源はシギとハマグリの逸話
「漁夫の利」はシギとハマグリが争っているところにやってきた漁夫が両方とも捕まえてしまうという中国の古典『戦国策』のなかの蘇代(そだい)が用いたたとえ話が由来します。
中国の戦国時代、趙(ちょう)が燕(えん)を討とうとしていたとき、燕(えん)の蘇代が趙の恵文王に、「漁夫の利」の語源となる話を聞かせます。シギとハマグリをそれぞれ趙と燕にたとえて、2国が争っている疲弊したときに、第三国である秦が襲ってきて漁夫の利を得てしまうというたとえ話をします。
すると、その話を聞いた趙の恵文王は納得して燕を討つことを中止にしました。
「漁夫の利」が収められた中国古典『戦国策』
この「漁夫の利」の語源となった逸話が収められた『戦国策』は、前漢時代の劉向(りゅうきょう)(紀元前77年~紀元前6年)という学者であり政治家が、戦国時代の国策や逸話、遊説の言説などを国別に編纂されて、「漁夫の利」はその中の「燕策」に収められています。
ちなみに戦国時代という名称は、この『戦国策』から生まれました。
「漁夫の利」の使い方と例文とは?
「漁夫の利」は第三者が利益を得たときのたとえとして使われる
2者が争っている間に第三者が利益を得るといった状況をたとえる場合に、この「漁夫の利」が使われます。
また現代でも「漁夫の利」は日常的な会話や小説の中でもよく使われています。
例文:
「A社と争っている間に、B社にクライアントを取られたよ。まさに漁夫の利の形になってしまった」
「漁夫の利を得る」など「漁夫の利」を使った言い回し
- 「漁夫の利を得る」
「漁夫の利」とは第三者が利益を得るということから、「漁夫の利を得る」という言い回しがよくされます。
例文:
「A社とB社が競っていた隙に、無名の会社が漁夫の利を得てしまった」
「自分にも漁夫の利を得るチャンスはあったはずだ」
- 「漁夫の利を占める」
また利益を得たことを強調する表現として「漁夫の利を占める」もあります。利益を得た事実を誇張する表現です。
例文:
「漁夫の利を占めたのは、結局、あの泥棒じゃないか」
「二人が争っている間に、まったく関係のなかったはずの○○君が漁夫の利を占めた」
「漁夫の利」の類語と対義語とは?
「漁夫の利」の類語は”犬兎の争い”や”濡れ手で粟”
- 「犬兎の争い」(けんとのあらそい)
「犬兎の争い」とは、「2者が争い倒れているところを、第三者に利益を横取りされることのたとえ」です。
「犬兎の争い」も『戦国策』から生まれた故事成語で、犬が兎を追い回して疲れたところを、農夫が通りかかり2匹とも難なく手に入れたという逸話が由来です。
- 「濡れ手で粟」(ぬれてであわ)
「あまり努力などすることなく、多くの利益を得ること」という意味の「濡れ手で粟」は、特にやすやすと金儲けをすることのたとえとしてよく使われます。
濡れた手で粟をつかめば、たわいなくたくさんの粟粒が付いてくることから生まれたことわざです。
「漁夫の利」の対義語は”二兎追うものは一兎をも得ず”
- 「二兎追うものは一兎をも得ず」
「二兎追うものは一兎をも得ず」とは「欲を出して同時に2つのことをやろうとしても、どちらも失敗すること」という意味です。
有名なことわざで、2つのことを欲張ってやろうとしても失敗に終わるという意味のほかにも、一つのことに集中できていないことの戒めとしても使われます。
「漁夫の利」の英語表現とは?
英語で“Two dogs fight for bone, and the third runs away with it.”
「漁夫の利」と同じ意味のことわざが英語にもあり次のようになります。
“Two dogs fight for bone, and the third runs away with it.”
「2匹の犬が一本の骨を争っている間に、3匹目の犬がやって来てその骨をかっさらう」
英語のことわざでは、第三者が楽して利益を得ることを犬同士の争いにたとえられています。
まとめ
「漁夫の利」とは「2者が争っている間に、第三者が利益を得る」という意味の故事成語です。現代でもよく使われることわざで、由来となったエピソードも有名なので、教養のひとつとしてあわせて覚えておくのもいいでしょう。