小説やドラマなどで、借金の返済を断るときに「無い袖は振れない」という表現を聞いたことがあるかもしれません。なぜ「袖を振る」と表現するのかご存知でしょうか。今回は「無い袖は振れない」の意味や使い方を紹介します。また「無い袖は振れない」の由来や「袖を振る」の語源も紹介していますので、参考にしてください。
「無い袖は振れない」の意味とは?
「無い袖は振れない」の意味は”持っていないものは出せない”
「無い袖は振れない」の意味は、“持っていないものは出せない”です。基本的にはお金に使われる言葉で、仮にお金を出したい気持ちがあったとしても、「そもそも持っていないものを、出すことはできない」と表現しています。
浴衣や振袖を想像すれば理解しやすいですが、日本の着物は、袖が長く作られています。腕を振れば、一緒に袖も振ることができますが、そもそも袖がついていなければ振ることはできません。
「無い袖は振れない」の使い方とは?
借金の返済や損害賠償ができないときなど、お金について使われる
「無い袖は振れない」は、基本的にお金に関して使う言葉です。借金の返済や、相手の物を壊した場合などにする損害賠償をするときに使われることがあります。例えば、「借金の返済をしてください」という取り立てをしたときに、「持っていないのだから、返すことができない」という意味で「無い袖は振れません」と言います。
借金の返済や損害賠償以外にも、営業や勧誘を断るときに「無い袖は振れない」と使い、「お金がないから買うことができない」と伝えることもあります。また、お金の援助をして欲しいとお願いしたときの断り方として「無い袖は振れない」と断ることもあります。
「無い袖は振れない」を使った例文
「無い袖は振れない」を使った例文をご紹介しましょう。
- 「滞納している家賃を今すぐに払ってください。」
「電気やガスも止められており、無い袖は振れません。」 - 「少しでもいいのでお金を貸してくれませんか。本当に困っています。」
「困っているのを助けたい気持ちはあるけれど、私も今月は困っていて、ない袖は振れません。」 - 「この商品を買ってくれませんか?」
「先月は余裕があったし、買ったけれど、今月は無理です。無い袖は振れません。」
「無い袖は振れない」の由来とは?
袖に財布を入れていたことから
日本人か着物を着ていた頃、財布は着物の袖に入れていました。つまり、「財布がない」ことを「袖がない」と表現しているのです。袖がなければ、財布を入れるところもないですし、入れることができなければ持ってもいない、と解釈できます。
財布を袖に入れていたことが由来となっている言葉ですので、「無い袖は振れない」をお金以外のものがない場合に使うのは誤用です。例えば、意見が出てこない時に「無い袖は振れない」という使い方は間違っています。
「袖を振る」の由来は恋愛表現
「無い袖は振れない」よりも古い言葉に「袖を振る」という言葉があります。これは、万葉集の歌にも使われている言葉で、男女の恋愛を表現した言葉です。
有名なのは、「額田王(ぬかたのおおきみ)」という宮廷歌人が書いた「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」という歌で、「(愛情表現である)袖を振るような大胆なことをしたら、野守(野の番人)に見られてしまいますよ」という意味になっています。
つまり、「愛している」という気持ちを伝えるのが「袖を振る」という行為でした。恋愛表現として使われる前は、袖を振るのは、相手の魂を招き寄せる呪的行為だったとされています。
「無い袖は振れない」の英語や中国語表現とは?
「無い袖は振れない」は英語で”An empty bag will not stand upright.”
「無い袖は振れない」という表現は、袖の長い着物を着ていた日本人独特の表現です。しかし海外でも、似ている表現はいくつかあり、その1つが“An empty bag will not stand upright.”です。直訳すると「空の袋は、まっすぐ立たない。」で、「ないものはどうしようもない」という「無い袖は振れない」と似た意味になっています。
この他にも、「It is hard to get a stocking off a bare leg.」という表現もあり、直訳する「生足からストッキングを脱がすのは難しい。」となります。こちらも「ないものはどうしようもない」という意味です。
もう少し直接的な表現としては、「A man cannot give what he hasn’t got.」があり、「持っていないものは与えることができない」という意味です。
「無い袖は振れない」は中国語で”巧婦難為無米之炊”
「無い袖は振れない」は中国語で“巧婦難為無米之炊”と書きます。直訳すると「どんなに優秀な嫁でも、米がなければご飯は炊けない」となります。中国のことわざの1つで、「条件が整っていなければ、仕事はできない」という意味で使われています。
まとめ
「無い袖は振れない」は、「持っていないものは、出せない」という意味の言葉で、お金に関して使う言葉です。由来は、着物を着ていた時代に財布を袖に入れていたことから、お金がないことを「無い袖は振れない」というようになったとされています。お金以外の意見や考えを出せないときに使うのは誤用ですので注意しましょう。