日本語には読み方が難解な言葉がたくさんありますが、「嚆矢」は意味を含めて馴染みの少ない言葉の一つでしょう。しかし、ビジネスシーンでは「始まり」や「最初」というようなニュアンスで用いることが多い言葉でもあります。
今回は「嚆矢」の読み方や意味はもちろん、使い方や具体例、類語・対義語、また英語表現についてまとめました。
「嚆矢」とは?
「嚆矢」の意味は”鏑矢・物事のはじまり”
「嚆矢」の意味は、“鏑矢・物事のはじまり”です。おおむね一般的に「嚆矢」を文脈で用いる時は、「物事のはじまり・最初」の意味がほとんどです。
「鏑矢(かぶらや」とは蕪(かぶら)の形状に似た長円形の矢のことで、矢柄の先端に矢じりにつける、木製、または竹製の道具を指します。鏑矢は中が空洞で複数の穴が空いているため、風を切って音響を発するのが特徴です。俗に言う鳴り矢のことですが、別に「蕪矢(かぶらや)」「鳴鏑矢(なりかぶら)」「響矢(なりや)」などとも呼ばれています。
「嚆矢」の読みは”こうし”
「嚆矢」の読み方は、“こうし”です。
「嚆矢」は開戦を示すための鏑矢が由来
「嚆矢」の語源は過去にあった中国での戦争にありました。当時、戦の初めの段階で「戦闘開始の合図」として敵陣に向けて鏑矢(かぶらや)を射ったことから、「物ごとのはじまりを示すもの」として解釈され、後に「物事のはじまり」や「最初」という意味で使われるようになったと言われています。
「鏑矢」は音を立てて飛ぶ矢であることから、何かをはじめる時の知らせとして最適なアイテムだったのでしょう。しかし、純粋に「戦争を始めるための合図」としてのみ使われるため、人を殺めたりすることを目的とした矢ではありません。
「嚆矢」の使い方とビジネス例文とは?
「嚆矢」の正しい使い方について解説します。日常生活でも使われますが、今回はビジネスや時事的な背景を例に具体例を挙げてみようと思います。
「嚆矢」は画期的で新しいことが始まった場合に使われる
「嚆矢」はものごとの始まりや最初という意味がありますが、言葉を使う適切な状況は「何かを画期的に始めた時」です。通常は世間が驚くような、また時代を揺るがす事柄に対して使うのが最も適切とされています。
たとえば、世界で初めての開発や、日本で世間を騒がせた画期的な商品などに対して使うのがベストです。
「嚆矢」は個人的な事柄にも使われる
上記では「嚆矢」は画期的なものごとのはじまりに対して用いるのが最適だとお話ししました。しかし、時代と共に、ごく普通の個人的な事情に対しても使われるようになってきた背景があります。たとえば、個人的に思い入れのある仕事や計画などに対しても使うことができます。
また、「最初」や「はじめ」という表現の代わりに「嚆矢」を使うことで、文章が引き締まる効果も期待できるでしょう。
「嚆矢」を使ったビジネス例文
「嚆矢」を使ったビジネス例文をいくつかご紹介しましょう。
- 校長とは学校設立の嚆矢から、親しくさせてもらっている。
- この計画には嚆矢から携わっているから、思い入れが深いのは当然だ。
- A社は寿司を専門に宅配するサービス業者の嚆矢となった。
- B社のロボット開発は国内における革新的技術の嚆矢として知られている。
「嚆矢」の類語と対義語とは?
「嚆矢」は一般的にあまり知られている言葉ではありません。そのため、別の理解しやすい表現に言い換えることも必要になってきます。ここでは「嚆矢」の類語と反対の意味を持つ「対義語」について解説します。
「嚆矢」の類語は”第一歩”や”滑り出し”など
「嚆矢」の類語は「第一歩」や「滑り出し」、また「出だし」「発端」「序開き」「冒頭」「水端(みずはな)」などになります。文脈によって適切な類語が決まってきますが、どれも「物事のはじまり」「活動における第一の段階」を指す言葉です。以下で言い換えのできるパターンを下記に挙げてみましょう。
<言い換えの例1>
- Aさんとは計画の嚆矢からお世話になっている。
- Aさんとは計画の冒頭からお世話になっている。
- Aさんとは計画の滑り出しからお世話になっている。
<言い換えの例2>
- 新規プロジェクトの嚆矢にあたる部分を担当した。
- 新規プロジェクトの出だしにあたる部分を担当した。
- 新規プロジェクトの水端にあたる部分を担当した。
「嚆矢濫觴」は「嚆矢」の意味を強めた四字熟語
「嚆矢」を使った四字熟語に「嚆矢濫觴(こうしらんしょう)」があります。これは「大きな川であっても、その始まりは、小さな觴(さかずき)から、およそ水があふれるほどの少量の流れ」を意味する言葉、「濫觴」と組み合わせてできた言葉です。基本的な意味は同じですが「物事のはじまり」をさらに強める意味で使われる表現となります。
「嚆矢」の対義語は”ラスト”や”終局”など
一方「嚆矢」と反対の意味を持つ類語も数多くあります。たとえば、「ラスト」「終局」「締め括り」「幕切れ」などです。
また、「フィナーレ」や「大団円(だいだんえん)」は、創作作品における最後の場面や、また、全てがめでたく丸く収まるような終焉の場で使われます。
「嚆矢」の英語フレーズとは?
「嚆矢」の英語フレーズを紹介して記事の幕を閉じたいと思います。わかりやすい英語例文と併せてご覧ください。
「嚆矢」は英語で”start”や”beginning”で表現
「嚆矢」の英語は非常にかんたんです。基本的には物事のはじまりや最初を意味する“start”や“beginning”を使います。しかし、よりネイティブに表現したい時は「dawning(ものごとの幕開け)」や「rise(ものごとの起り)」などを使うと、さらに意味合いが鮮明になるでしょう。
「嚆矢」を使ったビジネス英語例文
「嚆矢」を使ったビジネス英語例文をご紹介しましょう。
- I have been involved with this plan since beginning.
私はこの計画の嚆矢から携わっている。 - The development of healthy drink was literally the dawning to the health fad.
健康飲料の開発は日本における健康ブームの嚆矢となった。
まとめ
「嚆矢」は「こうし」と読み、「鳴り矢」と「物事のはじまり、最初」という2つの意味を持ち合わせる言葉です。会話や文章で見聞きする「嚆矢」は「物事のはじまり、最初」の意味で用いられることがほとんどで、改まった丁寧な表現としても好んで使われています。
日常生活ではあまり使われる言葉ではありませんが、意味や使い方を把握しておくと、大切なシーンで相手の話す内容を誤解なく理解することができます。ぜひ、この機会に「嚆矢」をマスターしてみて下さい。