「にて」は文章の中ではわき役でありながら、場所や手段などを表す重要な言葉の一つです。しかし、大切な語句の後ろについて意味を成す「にて」には、5つの意味と使い方がありますが、全てを把握している人は少ないかもしれません。
今回は「にて」をピックアップし、意味や使い方を中心に、似た言葉「で」「より」「おいて」と比較しながら、意味や使い方の違いを見ていきたいと思います。
「にて」の意味とは?
「にて」の意味①場所を表す
「にて」の意味は、“場所”です。「〇〇において」や「〇〇で」という意味で文章に用いることで、「どの場所なのか?」ということを説明しています。
- コンサートは各主要都市にて開催される予定です。
- 学校の校庭にて秋の大運動会が開催されます。
- 時代劇のクライマックスシーンを、京都の撮影所にて行います。
- 海岸にてゴミ拾いをします。手袋とビニール袋を忘れずに…。
「にて」の意味②時間・年齢を表す
「にて」は“時間や年齢”を表し、「〇〇の時に」「〇〇で」というニュアンスで文章中に使われます。たとえば「3時」や「午後5時」、「20歳」や「60歳」などのように具体的な時間や年齢でなくても、「時」や「年齢層」を示す「夜半」「明け方」、また「米寿」「晩年」などに対しても適切に使うことができます。
- 来週の定例会議は午後2にてスタートします。
- 明朝にてマラソン大会の予行練習を始めます。
- 祖母は99歳にて人生の幕を閉じた。
- 幼年齢にて、これだけの漢字が書けるとは…。
「にて」の意味③手段や方法(資格)を表す
「にて」は“手段や方法”を表します。ものごとのプロセスや仕方などを表すときに使いましょう。「〇〇を使って」「〇〇で」「〇〇によって」というニュアンスで文章に用います。主に「道具」や「乗り物」などに対して使うことが多いようです。また、文脈によっては有する資格やスキルに対して使うこともあります。
- ここはミキサーにて3種の果物を混ぜる。
- 抽象画は太めの筆にて、大胆さを表現できる。
- 20代までに自転車にて国内一周を試みたい。
- 九州への出張は飛行機ではなく、新幹線にて出向くつもりだ。
- 私は調理師資格にてホテルの主任シェフの座を得た。
「にて」の意味④材料を表す
「にて」は“材料”を表します。「〇〇を使って」「〇〇をまぜて」というようなニュアンスで用います。
- もう少し辛めに仕上げたい時は、ラー油にて味を調えて下さい。
- 唐揚げを美味しくするコツは、少量のガーリックにて風味を加えることである。
「にて」の意味⑤原因や理由を表す
最後の「にて」の意味は“原因”や“理由”です。こちらも「〇〇によって」「〇〇が原因で」「〇〇が理由で」「〇〇のため」という意味合いで使われます。主に、病やケガ、遅延や事故、悪天候などに対して使われることが多いようです。
- 姉は思わぬ骨折にて、仕事を2週間も休むことになった。
- 海外から届く初の荷物が、台風の影響にて数日遅れることになった。
- 本日はあいにくの雨にて多くの人が欠席となった。
そもそも「にて」とは?
「にて」は「なり」の連用形「に」に接続助詞「て」がついたもの
「にて」は、そもそも断定の助動詞「なり」の連用形「に」に接続助詞である「て」が後続してできたものです。
「にて」のタイトルは格助詞
「にて」のタイトルは格助詞です。助動詞の一種で、主に体現について、文章中にある他の語句や文節同士の関係(格)を示す働きがあります。
「にて」の他に格助詞に該当するものは「を」「に」「より」「から」「へ」などがあり、それぞれ文章を構成する大切な言葉として機能しています。
「にて」とどう違う?「で・より・おいて」の使い方(例文つき)
「にて」と似たような使い方ををする「で」「より」「おいて」について解説します。
「で」「より」「おいて」は「にて」と言い換えができる
格助詞の仲間でもある「で」「より」「おいて」は、状況や文脈によって「にて」と言い換える場合と、そうでない場合があります。それぞれ比較できるように、以下で例文を挙げてみます。
<文章例1>ミーティングは本社にて行われる。
- ミーティングは本社で行われる。
- ミーティングは本社により行われる
- ミーティングは本社において行われる。
この中では「で」が言い換えの語句としては最適な表現であることがわかります。
<文章例2>父はインフルエンザにて寝込んでいる。
- 父はインフルエンザで寝込んでいる。
- 父はインフルエンザにより寝込んでいる。
- 父はインフルエンザにおいて寝込んでいる。
この場合、言い換えるなら「で」や「(に)より」が良いでしょう。「おいて」でも間違いではありませんが、あまり文脈にフィットしているとは言えません。
「で」は最もなめらかに「にて」の言い換えができる
格助詞「で」は、「にて」が表す「場所、手段や方法、原因や理由、材料」など全てのパターンでなめらかに言い換えができるのが特徴です。話し言葉を中心に、よく使われる格助詞とも言えるでしょう。
「より」は「にて」よりも比較や起点を表すニュアンスが強い
「より」も「にて」と言い換えをすることができます。しかし、使い方の意味においては「今日より明日の方が都合がいい」「より美しいのはこのドレスだ」などのように、比較をする時、また「10月より冬服を着用する」「来年より事業がスタートする」などのように、ものごとの起点を表す色が濃いのが特徴です。
また、「歩くより仕方がない」というように、打消しの言葉と呼応して使ったり、「東京より京都に向かい、御社へ向かう」というように移動や経由する場所を示す時にも使われます。
「おいて」は時間・場所・事柄の3つを表す
「おいて」は人によっては使いにくいと感じることもあるようです。ほとんどの場合「時間・場所・事柄」の3つを表す時に使われ、他の格助詞「で」と比べても、より丁寧な印象を与えるのが特徴でしょう。例を挙げてみます。
- 現在においても事実が同じかどうかはわからない。(時間・時)
- この教会において結婚式が行われる。(場所)
- この炊飯器はデザインにおいて他に劣る。(事柄)
また「おいて」は漢字表記で「於いて」となります。
まとめ
「にて」は「場所、時間、手段・方法、材料」を表す格助詞の一つです。日本で教育を受けている人は、おそらく意識せず自然と口にすることができると思いますが、いざ身構えて意味や使い方をのぞいてみると、多くの意味を表すことに気づくのではないでしょうか?
文脈や文章の内容、またより丁寧に表現したい時などは、適宜、他の格助詞「で」「より」「おいて」に言い換えても良いと思います。それぞれの格助詞の特徴を把握しながら、美しい文章を構成するように心がけましょう。