日常生活ではひんぱんに「錯覚に陥る」ことがあります。「錯覚」とはどのような意味なのでしょうか?この記事では、錯覚の意味や原因、使い方と例文、および類語を紹介します。あわせて「幻覚」との意味の違いや、錯覚の一つである錯視を利用した図像なども紹介します。
「錯覚」の意味とは?
意味1:事実を「違うものに知覚する」こと(英:illusion)
「錯覚(さっかく)」意味は、“事実を違うものに知覚すること”です。「錯」は”混乱する・間違う”という意味があり、「覚」は”感じて知る”という意味があります。錯覚は、見ること以外にも、聞いたり、触ったり、味わったりするなど五感の全てにおける知覚に対して生じます。
誤った知覚による錯覚は、期待や恐怖、興奮などの心理状態からの影響が原因となって生じることがあります。たとえば、将来への不安からありえない詐欺話を信じてしまったり、アクション映画を見て興奮すると、自分も俳優のような力があると思ったりします。
英語では「illusion(イリュージョン)」と書きます。illusionはラテン語の「まどわす」という意味の言葉が語源です。手品のこともイリュージョンと呼びますが、まさに「錯覚」を利用したパフォーマンスが手品であるといえます。
意味2:単なる思い違いや勘違い(英:mistake)
2つめの「錯覚」の意味は、事実と違う認識として見たり聞いたりする「思い違い・勘違い・誤解」です。「友人だと錯覚した」「今日が日曜日だと錯覚した」など、単なる思い違いや勘違いの意味で「錯覚」の言葉を用います。英語では「mistake」にあたります。
この錯覚は「不注意性錯覚」と呼ばれ、対象への注意が不十分なことが原因で起こる錯覚です。見間違いや聞き違いなど、日常に経験する多くの間違いが含まれます。
意味3:視覚による錯覚「錯視」のこと(英:visual illusion)
3つめの「錯覚」の意味は、錯覚の中でも、視覚における錯覚の「錯視」です。英語では「visual illusion」と言います。
錯視では同じ色が違う色に見えたり、静止している画像が動いているように見えたりします。実際は目ではなく脳の活動に由来することが多く、脳の錯覚が原因と考えられますが、原因が解明されていない現象も多くあります。この錯視を利用した絵画が「だまし絵」「錯覚アート」です。
「錯覚」の使い方と例文とは?
「錯覚を起こす・錯覚に陥る」は違うものに知覚するときに使う
事実を違うものに知覚する「錯覚」は、”錯覚を起こす”や”錯覚に陥る”などの言い回しで使われます。
例文:
- 恐怖のあまり、誰もいない暗闇の中に人がいるような錯覚を起こした
- 簡単に儲かるかのような錯覚に陥らせるのが詐欺の常套手段である
- アクション映画を見たあとは、自分まで強くなったような錯覚に陥ることがある
「〇〇だと錯覚する」は単なる勘違いを表す
単なる勘違いの意味では、「〇〇だと錯覚する」と使うこと多いです。
例文:
- 他人の傘を自分のものだと錯覚して持ち帰ってしまった
- カレンダーを見間違えて、今日は会社が休みだと錯覚した
- 知り合いだと錯覚して知らない人に挨拶してしまった
「錯覚」の類語とは?
「誤認」は”誤った認識を認める”こと
ある事物を、間違った認識として認めることを「誤認(ごにん)」言います。「事実を誤認する」「誤認逮捕」などと使われます。
「事実を間違って感じ知る」という意味が「錯覚」ですが、「事実を他の事象と間違えて認める」のが「誤認」です。
「眩惑(げんわく)」は”錯覚により正常な判断ができない状態”
何かにまどわされて正常な判断ができない状態を「眩惑(げんわく)」と言います。「眩惑させられた」「眩惑に陥った」などと用います。錯覚によって正常な判断が失われた状態が「眩惑」です。
「幻覚」とは”何もないのに、何かが見えたり聞こえたりする現象”
外界からの刺激を誤って知覚することが「錯覚」ですが、実際に感覚の刺激がないのに知覚現象が現れることを「幻覚(げんかく)」と呼びます。「幻覚」は「錯覚」の類語とも紹介されますが、知覚の誤認や思い違いの意味「錯覚」とは、医学的な意味では区別されます。
幻覚は、幻視、幻聴、幻臭などに分類されます。これらは実際には何もないのに、何かが見えたり、音がしないのに聞こえたりする現象です。英語では「hallucination」と書きます。
「錯覚(錯視)アート」と主な作品とは?
「錯視アート」とは視覚による錯覚を利用した作品
実際の大きさと異なって見える図像や、見つめると模様が動いて見える図像など、錯視を利用した図像や作品を「錯視アート」や「トリックアート」と呼びます。また、「遠近法」などを利用して2次元の平面に3次元の世界があるように描いた絵画を「トロンプ・ルイユ」「だまし絵」と呼びます。
ここでは錯視を利用した図像と、原因が解明されていない「月の錯視」について紹介します。
不可能な立体に見える「ペンローズの三角形」
立体に見えるが、実際にはありえない形として感じられる図形を「不可能物体(立体)」と呼びますが、その中で元祖といえるのが「ペンローズの三角形」です。1958年に数学者のペンローズによって発表されました。
ペンローズの三角形
ペンローズの三角形は、三本の四角柱が繋がれた立体に見えますが、実際に3次元上に作ることは不可能な形です。
不可能物体をアートに高めたのがオランダの画家マウリッツ・エッシャーです。
「錯視」により動いて見える「フレーザー錯視」
「フレーザー錯視」「フレーザーの渦巻き錯視」と呼ばれる形状は、同心円でありながら、渦巻きに見える図像です。色の違う線を交互に配置して同心円を作ると、らせんを描いているように見えます。
位置によって大きさが違って見える「月の錯視」
月がその位置によって大きさが違って見える現象を「月の錯視」といい、紀元前からその理由について議論されてきました。地平線の近くの低い位置に見る月は、高い位置にある月よりも1.5倍ほどの大きさに見えます。これは物理現象ではなく、知覚の処理の特性による錯視現象だと考えられています。
人間の視覚空間は、垂直方向よりも水平方向により大きく広がる構造となっていることが月の錯視の成立に関わっていると考えられていますが、決定的な理由はまだよく解明されていません。
星座や太陽についても同じ現象が見られるため、総称して「天体錯視」とも呼ばれます。
まとめ
「錯覚」とは、事実を違うものとして知覚することです。期待や恐怖の気持ちが知覚の誤りの原因となる場合があります。また、注意不足を原因とする単なる勘違いの意味でも「錯覚」の語が使われます。
錯覚は、味覚や聴覚など五感のすべてに生じますが、視覚による錯覚を「錯視」と呼びます。錯視を利用した、立体に見えるが実際にはありえない形として感じられる図形は錯視アートなどと呼ばれ、近年人気を集めています。錯視は「月の錯視」の例にもあるように、錯覚の原因がわからない例もあります。