「二律背反」の意味と使い方とは?例文・具体例や類語も解説

二者の相反する関係を「二律背反」と表現します。同じような意味を表す「パラドックス」や「ジレンマ」などの言葉もありますが、これらの意味や使い方はそれぞれ違うのでしょうか?

この記事では、「二律背反」の意味や使い方を、例文をまじえてわかりやすく解説します。あわせてパラドックスなどの類語の意味と、「二律背反」との違いも解説します。カントの「二律背反(アンチノミー)」についても紹介しています。

「二律背反」とは?

「二律背反」の意味は”相反する命題の一対”

「二律背反」の意味は、“相反する命題の一対”です。同一の根拠や前提から導き出された二つの判断が、矛盾して両立しないことを指す言葉です。「背反」とは”そむくこと”という意味です。「相反する命題の一対」とも表現できます。

もともとは論理学の用語ですが、「矛盾」と同じ意味で一般的な会話やビジネスの場でも使われます。たとえば経営においては、「利益を犠牲にせずに新商品を開発するという二律背反」などの使い方です。

哲学では「カント」の「二律背反(アンチノミ―)」が有名

哲学の世界では、ドイツの哲学者イマヌエル・カント(1724年~1804年)が、批判哲学の発端として提唱したアンチノミ―論が有名です。「アンチノミー(Antinomie)」は、「二律背反」のドイツ語表現です。

カントのアンチノミ―論

カントのアンチノミー論とは、同一のテーマに対して、一つは「〇〇は△△である」と肯定するテーゼを置き、もう一方は「〇〇は△△でない」と否定するアンチテーゼを置くものです。

たとえば、「世界は有限である(空間・時間的に始まりがある)」というテーゼに対して、「世界は無限である(空間・時間的に限りがない)」というアンチテーゼが置かれます。

カントは、このような形而上学的な理念の問題について、人間は経験的に結論を見い出すことができないため、純粋理性が陥るアンチノミ―だと問題提起しました。カントの主著『純粋理性批判』『実践理性批判』において、この問題が展開されました。

「二律背反」の使い方と例文とは?

「二律背反」とは二つが相反して拮抗するジレンマを表すときに使う

「二律背反」は、一つの目的を達成するために用意された二つの項目が相反するときの、「矛盾」や「ジレンマ」を端的に表すときに使われます。

例えば、「軽くすることと強くすることという矛盾する課題」と言うよりも、「軽くすることと強くすることという二律背反の課題」と表現した方が、両者の力が互いに同等で張り合っているという、拮抗する状態のジレンマを伝えることができます。

ビジネスや一般的な対象における「二律背反」の例文

「二律背反」を使った例文を紹介します。

  • 自律的な仕事の進め方が推奨されながらもマニュアルを押し付けられる二律背反の問題がある
  • 社会政策の課題は公平性と効率性との二律背反関係を解決することである
  • 人間は感情と理性がぶつかりあう二律背反の状態に陥りがちだ

「二律背反」の類語とは?

二律背反の類語①「ジレンマ」

二律背反の関係に陥ることを「ジレンマ」と表現します。ジレンマとは、二つの事柄について、一方を成立させるともう一方が不都合な結果になり、板挟みの苦しい状態を表します。二律背反の事実においてジレンマの状態が発生します。

二律背反の類語②「パラドックス」

「パラドックス(英語:paradox)」とは、一見成り立つように思える言説が、矛盾した内容をはらんでいて、論理的には成り立たないことを意味します。たとえば「「貼紙禁止」と書かれた貼紙」などです。

広義の意味では、「一見矛盾しているような形で、ある事柄を表そうとする言説」という意味の「逆説」も含みます。たとえば「急がば回れ」などです。

但し、一般的な意味においては、「二律背反」と「パラドックス」は先に示した例のように同じ意味で用いられますが、論理学(哲学)としての意味では両者は異なります。

「相互に矛盾する二つの命題がともに帰結すること」という意味が論理学(哲学)における「パラドックス」の意味です。「二律背反」は「相反する命題の一対」であるため、パラドックスとは着地点が異なります。

二律背反の類語③「トレードオフ」

「トレードオフ(英語:trade‐off)」とは、同時には成立しない二律背反の関係を意味する経済用語です。一般的な意味でも使われます。目的に向けて、一方を成立させればもう一方が成立しないといった、二つのあり方の関係を表す用語です。

「AかBかといったトレードオフの思考を転換する」などのように、「トレードオフ」には、どちらかを選択しなければならない状況であることを示唆する言葉合いが含まれています。

二律背反の類語④「アンビバレント」

「アンビバレント」は同じ対象や事柄に対して、一人の人が相反する感情を同時に抱くことです。英語の形容詞「ambivalent」が語源で、名詞は「ambivalence」です。

「母親に対して愛情と憎悪のアンビバレントな感情を持つ」などと、正反対の感情を同時に抱くことを表現するときに使います。「二律背反の感情を抱く」のがアンビバレントです。

まとめ

「二律背反」とは、同一の根拠や前提から導き出された二つの判断が、矛盾して両立しないことを意味します。論理学や哲学では「相反する命題の一対」という意味を持ちます。

自分の思い通りにしたいことが二律背反の状態になったとき、「ジレンマに陥る」と表現します。二律背反の関係のことは「トレードオフ」と言い、二律背反の感情を抱くことは「アンビバレント」という言葉で表現します。

二律背反や関連するカタカナ語は使いこなすのが難しいものもありますが、ビジネスシーンでは欠かせない言葉です。どのように使われているのかは、身の回りの記事や本などでも確認できますので、積極的に語彙に取り入れてみましょう。