「いささか驚いた」「いささかなりとも助けたい」などのように「少し」という意味合いで「いささか」を使うことがあります。古語のような雰囲気を持つ言葉「いささか」。社会人になると会議やビジネス文書などで「いささか」という表現を使って、文脈にアクセントをつけることもあるでしょう。
ここでは「いささか」の漢字表記、意味、使い方と例文、類語・対義語、また英語表現について解説していきます。
「いささか」とは?
「いささか」の意味は”ほんの少し・わずかに”
「いささか」の意味は、“ほんの少し・わずかに”です。ものの数量や気持ち、状態や状況の程度が「ちょっと」「いくらか」「少し」という意味があります。つまり、数量が多くなく、普通の程度より少ないこと、甚だしくないことを意味します。
「いささか」は古語の一つ
「いささか」はもともと古語の一つで、万葉仮名を使っていた頃から存在する古い言葉です。古語においても現代と同じ「ほんの少し」という意味で使われていました。
また「いささか」の漢字表記「些」は、訓読みにすると「ち(と)」や「ち(っと)」となり、これは現代の表現で「少し」を表す「ちょっと」の語源となっています。「ちと寒い=少し寒い」「ちっとも理解出来ない=少しも理解できない」などのように、ごく日常的に使われています。
「いささか」の使い方と例文とは?
「いささか」を自分に対して使う時は謙遜の気持ちが込められる
「いささか」を自分の事柄に対して使う時は、相手に気を遣い謙遜する気持ちで使われることがあります。たとえば、本当は「かなり」「多大」と伝えたいところを、謙遜して「少しばかり」と意味で「いささか」をあえて使うようなことを指します。
- いやいや、いささか体力がある位ですよ。(本当はかなり体力がある)
- 突然の転勤命令でいささか驚きました。(突然の転勤命令でかなり驚いた)
- 私ごとき、協力はいささかしかできませんが…。(多大に協力させていただきたい)
「いささか」を他者に対して使う時は婉曲の意図で使われる
「いささか」を他者の事柄に対して使う場合は、ストレートではなく遠回しに「婉曲する意図」で使われます。実際は重大で大きなことでも、程度がわずかであるという意味の「いささか」をあえて使うことを指します。
- 骨折されたそうで、いささか痛みもあることでしょう(骨折で痛みは多大でしょう)
- いささか注意が必要なのではないですか?(かなりの注意が必要なのでは?)
- Aさんの態度はいささか問題ですね。(Aさんの態度はかなり問題ですね)
「いささか」を否定形の語句をつけると”少しも・全く”の意味に
「いささか」は肯定的な意味で「少し」「ほんのわずか」という意味がありますが、後続に否定形の語句をつけると「少しも」「まったく」「何の」という意味になります。
- 間違いだなんて、いささかも思っていない。(間違いだなんて全く思ってない)
- 犯人である証拠は、いささかも揺るがない。(犯人である証拠は少しも揺るがない)
- 取引先から、いささかの躊躇もなく断られた。(取引先から、何の躊躇もなく断られた)
「いささかに」の変化形”いささかなりとも・いささかならず”
「いささか」には、他に形容動詞形「いささかに」のナリ活用「いささかなりとも」「いささかならず」などの言い回しがあります。
- いささかなりとも:少しでも(いささかなりとも英語を勉強したい)
- いささかならず:大変、少しでなく(迷惑をかけ続け、いささかならず反省している)
このように、後続に肯定的な語句がくるか、否定的な語句がくるかによって「いささかに」の意味が変わってきます。
「いささか」の類語と対義語とは?
「いささか」の類語は”やや”や”多少”など
「いささか」の類語として挙げられるのが、「やや」や「多少」、「いくらか」「わずか」などになります。どの類語も「普通の程度・状態より少なく、数量がわずかであること」を意味する言葉です。
現代の言葉なら「微妙に」や「ちょびっと」なども類語になりますが、おおむね親しい間柄や友達、家族に対して口語的に使われます。ビジネス文書や職場内では不適切な場合がありますので気をつけましょう。
「いささか」の対義語は”ずいぶん”や”たいそう”など
「いささか」の対義語は「ずいぶん(随分)」「たいそう(大層)」「非常に」などがあります。どの類語も「普通の程度よりも大幅にあり、程度が甚だしく多いこと、超えていること」を意味する言葉です。
しかし、これらの言葉は文章の内容を強調する効果があるため、使い方には気を付ける必要があります。肯定的に「非常にきれい」「非常に整っている」と使う分には問題ありませんが、否定的な意味で「非常に悪い」「非常に不愉快」というような表現を使った場合、周囲や相手に強烈な否定観念を与えることがあります。
「いささか」の英語表現とは?
「いささか」は英語で”somewhat”や”bit”など
「いささか」を英語で表す時は「somewhat」「bit」「slightly」などを使います。また「いささかならず」のように「全く~ない」や「少しも~ない」と否定的に使う場合は「not at all」「nothing」などを文脈に用いるのが通常です。
「いささか」を使った英語例文
「いささか」を使った英語例文をご紹介しましょう。
- I feel a little bit pressured sometimes.
いささかながら、時々プレッシャーを感じることがある。 - I tend to think everything somewhat negative.
私はいささか物事を否定的に考える傾向がある。 - I don’t agree with it at all.
いささかなりとも賛成ではない。
(付録)「いささか」に関する豆知識
「いささか」の漢字表記は”些か”と”聊か”の2つ
「いささか」には「些か」と「聊か」の2つの漢字表記があります。どちらも常用漢字ではなく、一般的にはあまり見かけない漢字の仲間です。
「いささか」はどちらかと言えば口語で使われることが多いため、あえて漢字表記を意識したことはあまりないという人も多いかもしれません。おおむね小説や新聞など活字媒体においては「いささか」とひらがなで表記する傾向にあるようです。
「いささか先生」は少し気難しい人という意味でつけられた?
余談となりますが、サザエさんで登場するちょっと気難しいキャラクター「いささか先生」も、「いささか」と関係しています。
「いささか先生」の本名は「伊佐坂難物」と言いますが、「少し気難しい人」という意味で名づけられた背景があります。「伊佐坂」は「いささか」の当て字となりますが、名前が示す通り「少し頑固でちょっとだけ気難しい人」と意味合いが込められているのです。
まとめ
「いささか」は肯定的には「ほんのわずか」「ちょっと」「少しの」という意味がありますが、後ろに否定形の語句をつけると「全く~ない」「少しも~ない」という意味に変化する言葉です。
自分のことを伝える時は「かなり」という状況でありながら、謙遜の意を込めて「いささか」と控えめに相手に伝えることがあります。日本独特の使い方となりますが、相手を立てる文化のある日本では往々にして会話が成り立つ言い回しとなります。
万葉仮名の時代から古語として意味も使い方も変わらないのが「いささか」。新しい言葉や略語が増え続ける中、こうした古語も社会の中でリバイバルして欲しいものです。