契約書でよく使われている「甲は~」「乙は~」という表現、目にしたことがある人も多いでしょう。でもこの「甲」「乙」の意味まで理解している人は少ないのではないでしょうか?ここでは知ると意外と面白い、「甲乙丙丁」について詳しくご説明します。
「甲乙丙丁」って何?
「甲乙丙丁(こうおつへいてい)」は「十干」の一部
「甲乙丙丁」は「こうおつへいてい」と読み、「十干(じっかん)」という集まりの一部です。十干は「甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸」の10個の要素で構成されており、十干のことを「甲乙丙丁」と表すこともあります。十干はそれぞれ音読みと訓読みの二つの読み方を持ちます。
- 甲(コウ/きのえ)
- 乙(オツ/きのと)
- 丙(ヘイ/ひのえ)
- 丁(テイ/ひのと)
- 戊(ボ/つちのえ)
- 己(キ/つちのと)
- 庚(コウ/かのえ)
- 辛(シン/かのと)
- 壬(ジン/みずのえ)
- 癸(キ/みずのと)
「十干」とは古代中国から伝わった考え方
十干はもともと古代中国から日本に伝わった考え方で、十二支と組み合わせて干支として使われます。干支と言うと「子・丑・寅・卯…」を思い浮かべる人も多いかと思いますが、これは干支ではなく十二支で、十二支と十干が組み合わさったものが干支なのです。
昔から干支は、方角や時間、暦を表すのに用いられてきました。今でも十干は順番や等級、成績などを示すのに用いられています。
契約書での「甲乙丙丁」の使い方
基本的な使い方
会社間の契約はもちろんのこと、賃貸物件やクレジットカード、携帯電話の契約時にも使用される契約書の中でも「甲乙丙丁」が用いられます。ここでは契約に関わる人物や会社名の代わりに「甲乙丙丁」を使用します。たとえば契約書の冒頭にはだいたい以下のような一文が書かれています。
「株式会社○○(以下「甲」という)と△△株式会社(以下「乙」という)とは、次のとおり業務委託契約を締結する。」
これ以降、この契約書中では株式会社○○は「甲」、△△株式会社は「乙」と表されます。契約書はたいてい雛形があり、その中の日付や固有名詞を適宜変更して使いまわします。固有名詞を「甲乙丙丁」に置き換えることで、使いまわす際には冒頭の1文だけを修正すればよくなります。そのため変更ミスや変更作業の手間が省けるというわけです。
関係者が3者以上の場合
関係者が3者以上になる場合は「丙」や「丁」も用いられますが、あまりにも関係者の数が多くなると「丁って誰だっけ?」「戊ってどの会社だっけ?」とかえって混乱してしまうので注意が必要です。
誰を「甲」にするかは要注意
契約書中で用いられる「甲乙丙丁」には順位の意味はありませんが、場合によっては「なんで我々の方が『乙』なんだ」と苦情が出ることもあります。そのため、より規模の大きな会社や契約上有利な立場にいる方を「甲」とするのが一般的です。たかが名前の置き換えといえど、余計なもめごとの種を作らないためにも契約書作成の際はどちらを「甲」とするか、よく考えることが大切です。
「甲乙付けがたい」その意味は?
成績や順序では「甲」が1番、「乙」が2番になる
「甲乙丙丁」は順序を示す言葉としても用いられます。「甲」を1番とし、そこから順番に「乙」を2番、「丙」を3番という意味で使用します。
なお、ここで用いられる「甲乙」は「1番、2番」という意味なので、3者以上で競っている場合には「甲乙付けがたい」とは言いません。
「甲乙付けがたい」とは「2者の能力が拮抗している」こと
「甲乙丙丁」を使った言葉の中でも特によく耳にする「甲乙付けがたい」、この意味は「甲」が1番、「乙」が2番だとわかれば理解できます。
「甲乙付けがたい」とは「1番か2番か、決めるのが難しい」。つまり「順位を付けるのが難しいほど2者の能力が拮抗している」という意味があります。
いろいろな「甲乙丙丁」
契約書以外でも様々なところで「甲乙丙丁」が使われています。ここではその一部をご紹介します。
焼酎の「甲種・乙種」
お酒好きの方なら目・耳にしたことがあるであろう焼酎の「甲種・乙種」、これは焼酎を蒸留方法で分類したものです。「乙種」は従来の蒸留方法で作られた焼酎、「甲種」はより新しい蒸留方法で作られた焼酎のことを指します。
なお「乙種」というとどうしても2番手のイメージがついてしまうので、これを払拭するために乙種焼酎を「本格焼酎」と呼ぶこともあります。
戊辰戦争
明治政府と旧幕府軍との内戦である戊辰戦争は、戦争勃発した慶応4年(明治元年)の干支が「戊辰」であったことがその名称の由来です。そのほかにも「甲午農民戦争」「壬申の乱」など、合戦や事件には勃発した年代が名称の由来となっているものがたくさんあります。
甲子園
高校野球でお馴染み「甲子園」の由来は、球場が完成した大正13年が、暦の上で十干の「甲」と十二支の「子」が60年ぶりに重なる「甲子(きのえね)」という縁起の良い年であったことから、球場を「甲子園球場」、その周辺地域を「甲子園」としたことにあります。
まとめ
普段あまり気に留めることのない「甲乙丙丁」にも、古い由来としっかりした意味があったのですね。日常何気なく使っている言葉の由来や意味を知る事で、思わぬ気付きを得られたり、表現の幅を広げることができるようになったりします。気になった言葉はぜひその意味を積極的に調べてみてください。