「ブルジョワ」の言葉は、時代によってその意味や定義が変遷しました。現代では「金持ち」を揶揄する意味で使われることがあります。ブルジョワにはどのような歴史があるのでしょうか?
この記事では、ブルジョワの語源とその意味や、変遷の経緯について解説します。あわせて「ブルジョワジー」との違いや、「ブルジョワ革命」とは何かについて、さらに対義語の「プロレタリアート」も紹介しています。
「ブルジョワ」とは?
中世における「ブルジョワ」とは”中産階級の市民”を意味する
「ブルジョワ」の意味は、“中級階級の市民”のことです。「ブルジョワ」の定義は、時代によって変遷しました。中世ヨーロッパにおいては、上流市民の貴族と下層市民の労働者や農民との間に位置した「中産階級」の商工業者や市民のことを指しました。
封建的な体制を崩壊させ、近代社会が作られる引き金となった市民革命が起こった18世紀からは、ブルジョワの概念が変化してゆきます。市民革命における変化については、のちほど「ブルジョワ革命」のところで説明します。
マルクス主義においては、労働者階級に対して「資本家階級の人」を指す
19世紀に、カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスによって提唱されたマルクス主義においては、生産手段を持たず、賃金を得るために雇用される労働者に対比させて、生産手段を持つ資本家階級の人をブルジョワと定義しました。
1848年に書かれた『共産党宣言』では、人類の歴史は階級闘争の歴史であり、近代社会は「ブルジョワジー」と「プロレタリアート」に分裂しつつあるとし、資本を社会全体の財産に変えることによって階級支配が消滅し、協同社会が訪れると説きました。
「プロレタリアート」についてはのちほど詳しく説明します。
現代社会では「資産家」「金持ち」の意味で使われる
20世紀後半以降の現代社会では、階級の概念はなくなったため、ブルジョワは社会分析などにおいては扱われなくなりました。しかし一般的な言葉として、「あいつはブルジョワだから」などと裕福な人を揶揄するときなどに使われることがあります。そのときの意味は、「資産家」や「金持ち」の意味で使われます。
「ブルジョワ」の語源とは?
18世紀のブルジョワの家
「ブルジョワ」はフランス語”bourgeois”が語源
「ブルジョワ」は、フランス語の「bourgeois」を語源とするカタカナ語です。
「bourgeois」の言葉は11世紀に登場し、封建的支配から逃れる権利を持つフランス中世都市の住民を指していました。やがてその意味は、聖職者・貴族に属さず、肉体労働に従事せず、独立した生計を立てる者という概念に変わってゆきました。
しかし「ブルジョワ」が持つ「自由市民」という概念は共通しており、のちにも引き継がれてゆきます。
なお、英語のスペルは、フランス語「bourgeois」を外来語としてそのまま取り入れたため、同様です。
「bourgeois(ブルジョワ)」は個人、「bourgeoisie(ブルジョワジー)」は階級を指す
「bourgeois(ブルジョワ)」は単数形であるため個人を表し、複数形の「bourgeoisie(ブルジョワジー)」は階級としてのブルジョワを表します。個人を指すか、階級を指すかで使い分けます。
「ブルジョワジー」は「ブルジョワ階級」と同じ意味です。
「ブルジョワ革命」とは何か?
「ブルジョワ革命」とは”市民革命”のこと
「ブルジョワ革命」とは、”市民革命”と同義です。ブルジョワ(市民)が主体となって推し進めた革命のため、こう呼ばれます。世界史上の代表的なブルジョワ革命は「フランス革命(1789年〜1799年)」です。
18世紀のフランスは、「アンシャン・レジーム」と呼ばれる封建的な絶対君主体制をとっていました。国民には3つに分かれる階級制度があり、第一身分は聖職者で、第二身分は貴族、第三身分が平民でした。大多数である第三身分の平民が、少数の第一・第二身分を支える構造になっていたため、平民の不満が爆発し、革命を起こしたのです。
なお、身分制議会が制定された14世紀には、都市の大商人や法学者などが第三身分とされており、下層市民や農民は第三身分から除外されていました。しかしフランス革命の直前には、平民全体を第三身分と呼びました。
つまり、「ブルジョワ革命」に用いられる「ブルジョワ」とは、「平民(市民)」を指し、この時点では「資産家階級」を指していません。市民革命によって労働の資本主義的組織が始まり、近代ブルジョワ社会が形成される中で、経済的に成功して資産家となる市民が出てきたことにより、ブルジョワの定義が資産家階級の人へと変わってゆきました。
「ブルジョワ」の対義語とは?
「ブルジョワ」の対義語は、賃金労働者階級の人”プロレタリア”
資本家階級の人を指す「ブルジョワ」の対義語は「プロレタリア」です。賃金労働者階級の人を指します。労働者階級を指す「ブルジョワジー」の対義語は「プロレタリアート」です。マルクス主義の資本主義分析で用いられた用語です。
これらは資本主義社会の社会分析に用いられた言葉です。産業革命以後の社会は、雇用する側の資本家階級であるブルジョワジーと、それに対して雇用され、生産手段を持たないプロレタリアートに大きく分かれました。
第一次世界大戦後の1920年代から30年代にかけては、虐げられた労働者の現実を描く「プロレタリア文学」が流行しました。1929年(昭和4年)に発表された小林多喜二の小説『蟹工船(かにこうせん)』が代表的な作品です。
まとめ
歴史的に「ブルジョワ」とは、「中産階級」または「資本家階級」に属する人のことを指します。ブルジョワ階級のことを「ブルジョワジー」と呼びます。
市民革命による民主主義の発展と、産業革命によって発達した資本主義経済の中で経済的成功を収めたブルジョワジーは、上流市民階級を指す言葉になります。それに従い、資産家や経済的に裕福な市民をブルジョワと呼ぶようになりました。
戦後の日本では、歴史的文脈から離れて、台頭してきた成金的な金持ちに対して「ブルジョワ」が使われました。そのため、現在でも金持ちを揶揄する言葉としてブルジョワが使われることがあります。