「固定残業代」という言葉に、ホワイト企業とブラック企業のどちらのイメージを持つでしょうか。固定残業代は正しく使えば、社員にもメリットの多い制度ですが、違法な使い方をするブラック企業が多いのも事実です。今回は、固定残業代の正しい使い方を解説し、違法な使い方をしていないか確認する方法を紹介します。
固定残業代とは?
「固定残業代」とは毎月決まった残業代が支払われること
「固定残業代」の意味は、「毎月同じ金額の残業代が支払われること」です。「みなし残業」とも呼ばれています。例えば「基本給200,000円、固定残業代46,875円(月30時間)」というような書き方がされていた場合には、月の残業時間が0時間でも、30時間でも、同じく246,875円の給料が支給されることになります。
「固定残業代」はブラック企業に悪用されている事例が多くある
固定残業代は、正しく使えば違法ではないですが、ブラック企業が違法な行為を隠すために悪用していることもあります。例えば、「月収30万円(固定残業代を含む)」という書き方がしてあると、そもそも基本給がいくらで残業代がいくらか把握できません。
正しい給料が支払われているのかを確認できないのは違法な場合が多く、判例によっては「全額基本給で残業代は支払われたことがない」とされた事例もあります。
さらに、かなり長時間の残業をし、足りないのではないかと会社に問い合わせたところ、「うちは固定残業代を含んでいるから何時間残業しても追加で払うことはない」という回答が返ってくる事例もあります。しかし、時給に換算して計算してみたら最低賃金を割っている場合もあり、明らかな違法になります。
違法な使い方がされていないか、自分で確認した上で働くことをおすすめします。
固定残業代のメリットとは?
メリット①残業しなくても残業代がもらえる
会社員にとって、固定残業代の一番のメリットは、残業をしてもしなくても、残業代が支給されることです。できるだけ早く仕事を終わらせて、早く帰ることができれば、それだけ自分の時間も持てますし、使えるお金が減ることもありません。
また、正しい使い方をしている会社であれば、予定していた残業時間を超えた場合には、しっかりと残業代が支給されますので、利益があっても、損をすることはありません。
メリット②予算の計画を立てやすい
会社側と社員側の両方に言えることですが、残業時間が変わっても給料が変わらないということは、先の予定が立てやすくなります。
例えば、固定残業代ではない社員が、最近残業が多く、数年はこの残業代がもらえるだろうと仮定して、高額なものを分割払いで購入したとします。しかし、急に会社の状況が変わって残業がなくなったとしたら、支払いが難しくなるでしょう。固定残業代の場合は、その心配がありません。
その点は会社も同様で、月によって支払う残業代を一定にしてしまうことで、予算の計画が立てやすくなります。
メリット③固定残業代を含む年収を書くと求人で注目されやすくなる
人材不足の社会では、求人情報も多く、求職活動をしている人にどうやって自社の求人情報に目を止めてもらうのかが大切なポイントです。
「基本給20万円、残業代は別途支給」と書いてあるよりも、「月収30万円、固定残業代10万円を含む」という書き方をしている方が高収入に見えるため、高収入の求人を探している人には注目されやすくなります。
ただし、固定残業代は悪用されることも多い制度ですので、「固定残業代」という言葉にブラック企業のイメージを持ってしまう人もいるかもしれません。書き方には注意しましょう。
固定残業代が違法か確認する方法とは?
固定残業代の正しい運用に関する判例
違法か確認するためには、判例の情報を確認するとよいでしょう。固定残業代に関する判例には以下のようなものがあります。
この3つの条件が揃っている場合に、固定残業代が違法ではなく、正しく運用されていると判断できます。以下で、違法ではないか確認していきましょう。
勤務時間が正しく記録されているかを確認
よくある固定残業代の違法な使い方の1つに、固定残業代で支払っているから残業時間を把握しなくてもよいという事例があります。しかし、そもそも会社には社員の勤務時間を正しく把握し、記録しておく義務がありますので、残業時間を把握していないのは違法です。
また、記録されている勤務時間と、実際に働いた時間が一致していないのも、当然違法です。
基本給と残業代が分かれて表記されているか確認
求人情報などでみかけることもありますが、「月収30万円(固定残業代を含む)」という書き方は、固定残業代がいくらで、何時間分支払われているのかがわかりません。先ほど紹介した判例に書かれていましたが、割増賃金部分が明確ではないため、正しい運用ではありません。
固定残業代は何時間分か、上限は超えていないか確認
こちらも判例にありましたが、固定残業代が5万円と明確に書かれていたとしても、それが何時間分なのかが書かれていなければ、正しい運用ではありません。
また、残業時間には法律で上限が定められています。基本的には月45時間までですので、毎月100時間分の固定残業代を払うというのは、法律違反の残業時間をさせているのかもしれません。注意しましょう。
就業規則に明記してあるか確認
固定残業代を会社の制度として使う場合には、働く人と合意する必要があります。基本的には入社したときにもらう個別の契約書や、労働条件通知書に書かれていると思いますが、ない場合は就業規則を確認しましょう。
就業規則に固定残業代を採用すると明記してあっても、金額や時間がわからない場合は正しい運用ではありません。正しい固定残業代の金額と時間を確認しましょう。
最低賃金を下回っていないか計算する
固定残業代の金額と時間を確認したら、最低賃金を下回っていないか計算しましょう。
固定残業代 ÷ 予定されている残業時間 ÷ 1.25(割増率)
例えば、月の固定残業代が3万円、残業時間40時間分と書かれていた場合、30,000÷40÷1.25=600です。600円では最低賃金を下回っているので違法です。
残業時間が予定を上回ったら差額の支給がされているか計算する
予定されている残業時間を上回った場合には、上回った時間分の残業代を支給しなければなりません。
例えば、固定残業代5万円、残業時間30時間分と書かれている場合に、月40時間の残業があったとします。この場合には10時間分の残業代を支払う必要があります。
以下で詳しい計算方法を紹介しますので、確認してください。
固定残業代が違法か計算する方法とは?
固定残業代が違法か確認するためには、固定残業代の制度がない会社が行うように、実際に残業した時間分の残業代を計算します。計算結果が固定残業代よりも高い金額だった場合は、正しい給料が支払われておらず、違法です。
雇用契約書、就業規則、給料明細などをチェック
まずは計算に必要な情報を集めましょう。雇用契約書、就業規則、給料明細などから、以下の情報を確認してください。
- 自分の支払われている基本給
- 固定残業代の金額
- 固定残業代に含まれる残業時間
- 実際に働いた残業時間
- 割増賃金の割増率
- 割増賃金の計算方法
割増賃金の計算方法は、会社によって多少異なります。就業規則や賃金規定などに記載されていれば、その方法で計算しましょう。
賃金規定などに計算方法が載っていない場合には、担当者に確認するか、下で紹介した方法で計算してみましょう。
月給を時給に換算する
基本的に、残業代を計算するためには、月給の方でも1時間当たりの給料を把握しなければなりません。計算方法は、会社によって多少異なりますが、基本的には月の出勤日数と所定労働時間で割ります。
1時間当たりの給料=月の基本給÷月の出勤日数÷所定労働時間
月の出勤日数は、就業規則に定められていない場合は、毎月実際に出勤する時間を使うか、1年間に出勤する日数から月平均を出して使う場合が多いです。
例えば、年間休日が125日の会社であれば、出勤日数は240日(365日-125日)ですので、12か月で割って平均を出すと、月20日出勤することになります。月の基本給が20万円の方は、1日のお給料は1万円で、所定労働時間が8時間であれば、時給1250円です。
割増賃金と残業時間をかけて正しい残業代を計算する
1日8時間、週40時間以上働く場合には、割増賃金になりますので、割増率をかけます。法律で決められている最低基準は25%ですので、1.25をかけます。会社によっては30%など、法律より高く設定している場合もありますので、就業規則を確認しましょう。さらに、残業時間をかければ、固定残業代ではなく、働いた時間分の残業代が計算できます。
働いた時間分の残業代=1時間当たりの給料×割増率(法定1.25)×残業時間
この金額が、もらっている固定残業代よりも多ければ、会社は差額を払わなければなりません。払っていない場合は違法です。
まとめ
固定残業代とは、実際の残業時間に関わらず、同じ金額の残業代が支払われる制度です。金額と時間を正しく設定し、設定した時間を超えた場合には追加で残業代を支給するのが正しい運用です。しかし、実際には金額と時間を正しく設定していなかったり、設定した時間を超えても追加の残業代を支払わないなどの悪用する会社も見受けられます。自分が残業した時間分の残業代を計算し、正しい金額を支払われているか、確認しましょう。
(小里機材事件・最高裁判決昭63.7.14労判523号、東京高裁判決昭62.11.30労判523号)