「競業避止義務」とは労働者が競業を禁じる義務のことですが、なぜ競業を禁じているのでしょうか。今回は「競業避止義務」の意味と目的、取締役と一般社員それぞれの競業避止義務の異なる規定や就業規則との兼ね合いのほか、退職後の競業避止義務の有効性と不当な競業避止義務について解説します。
「競業避止義務」の意味と目的とは?
「競業避止義務」の意味は「競業行為の制限」
「競業避止義務」の意味は、「労働者が勤める企業の競合会社への就職、もしくは自らが競合する会社を設立・経営することを認めない労働者が負う義務のこと」です。
労働者の役職や立場によって競業避止義務を規定する法定が違いますが、もしも競業避止義務を違反すると、競業行為を差し止めるだけでなく退職金の減額や損害賠償請求や解雇請求などが下される場合があります。
「競業避止義務」の目的はリスク管理として有益
競業避止義務の目的は、自社の特別な技術やノウハウ、個々の経験に加えて人的なネットワークや顧客データなど企業が他社に流出されては困る情報流出のリスクを防ぐことです。特に競合会社にそうした情報が流出しては、自社経営の危機となります。
競業避止義務は社員が競合会社に自社の秘密情報を流出しにくくなるためのリスク管理として有益だと考えられています。
役職別の競業避止義務の規定と就業規則とは?
取締役は会社法により競業避止義務を規定
企業の重要な役職に就く取締役などは、競業避止義務を会社法によって規定されます。
会社法365条には、在任中は取締役会の承認がなくては営業に関する業務をしてはならないことが定められています。取締役会のない企業は、代わりに株式総会で承認を受けます。
もしも競業避止義務を違反すると、競業行為を差し止めるだけでなく、退職金の減額や損害賠償請求や解雇請求などが下される場合があります。
一般社員は労働契約により義務を守る
重要な役職に就かない一般社員は、競業避止義務が適用されません。しかし平成20年3月に施行された労働契約法により労働契約の遵守と真義誠実の原則には義務を履行しなくてはならないことが定められています。その義務のひとつとして競業避止義務も挙げられます。
そのため一般社員も労働者が負う義務として、競業避止義務を守るべきであると考えられています。
就業規則に記載しても社員一律で義務を負わせられない
就業規則に競業避止義務を規定しても、一律に社員全員に競業避止義務を課すことはできません。なぜなら取締役なら会社法、一般社員なら労働契約法による規定が一企業の就業規則よりも優先されるからです。
ただし就業規則に競業避止義務を記載すれば、損害賠償を求めるときなどの法的根拠として使うことはできますので、法廷で争う場合には有効的です。
退職後の競業避止義務は有効か?
職業選択の自由により競合会社に就職できる
法的に労働者は職業選択の自由が認められていますから、退職後した社員は、競業避止義務に問われることなく競合会社に就職することができます。
ただし利益を得る目的で営業秘密や自社の情報を漏えいした元社員に対しては、不正競争防止法により差し止めや損害賠償請求ができます。
退職後の競業避止義務遂行には法的な根拠が必須
企業によっては、退職後でも競業避止義務を求めるケースがあります。秘密漏えいや自社のノウハウが競合会社に流出することを恐れるからです。しかし、退職後は労働者には職業選択の自由が認められるますから、かつて勤めていた会社の競業避止義務を守る必要はありません。
競業避止義務には退職後にも競合他社に就職することを定めている誓約書や就業規則を認める競合禁止特約があります。これを使い、例えば入社時の契約書などに競業避止義務は退職後1年以内も有効にすることなどを記載しておけば、退職者は競業避止義務を守ることになります。企業はこの特約を法的根拠として、退職者に競業避止義務を守るように求めることができます。
競合会社に就職をするなら誓約書は拒否
競合禁止特約が行使されない場合は、退職後の競業避止義務は不当な制約です。退職後にも競業避止義務を守る誓約書を交わすことなく、また就業規則にも記されていなければ、企業が競業避止義務を退職者を求めることはできません。
しかし競業避止義務を守る誓約書に署名をしていれば、誓約書が法的根拠となり退職後にも競業避止義務を守らなくてはなりません。労働者の真意から署名をしていなければ無効になる可能性はありますが、法的な判断にゆだねられることが考えられます。
競合会社への転職が決まっていて、会社が何らかの条件を付けて強制的に誓約書への署名を求めてきたとしたら拒否すべきです。そして穏便に退職するために、予定している競業行為を競業避止義務の対象から外してもらうように交渉してみましょう。
不当な競業避止義務とは?
競業避止義務は企業の都合で行ってはいけない
競業避止義務は企業の都合で行ってはいけません。競業避止義務はリスク対策として有効ですが、過度に制約すれば不当になります。競業避止義務の不当となる例を挙げてみましょう。
- 長すぎる存続期間は不当
過去の判例を参考にすると、競業避止義務の1年以内の存続期間は認められているものの、5年以上となる長い期間となると不当だとされる傾向があります。 - 広すぎる場所的制限も不当
競業行為を会社の一定地域内で行わないと制限を設けることができますが、その地域が広すぎる場合は労働者に不利益となると考えられ不当だとされます。ただし地域の広さを制限する規定はありません。 - 多すぎる競合他社の職種も不当
どこまでを競合他社としてとらえるのかが難しい問題ですが、労働者に不利益をもたらすほどに対象となる競合他社や職種が多いと不当になります。 - 社員の地位以上の競業避止義務を負わせることは不当
社員の地位がそれほど高くなく、また情報漏洩の恐れが少ないにもかかわらず、社員に競業避止義務を負わせることは不当です。
不当と思える競業避止義務でも労働者がその義務を受け入れることになった場合、その代償措置として手当を支給して両者が納得するといったことも行われています。
まとめ
「競業避止義務」とは「労働者が協業行為を行わない義務」のことで、個人の利益のために競合会社に就職や、競合となる会社の設立を制限しています。一般社員は労働契約の信義誠実の原則において、取締役は会社法によって禁止されています。