「啓蒙」の意味とは?使い方の例文と類語や「啓蒙思想」も解説

「啓蒙」や「啓蒙活動」という言葉を社会記事などでよく見かけます。会話ではあまり使わない言葉ですが、どのような意味の言葉なのでしょうか?

この記事では、「啓蒙」の意味や使い方、例文を紹介します。あわせて啓蒙の類語「啓発」との違いや、「啓蒙思想」についても解説しています。

「啓蒙」とは?

「啓蒙」の意味は”情報を持たない人々を教え導く”

「啓蒙」の意味は、“人々に正しい知識を与え、知的水準を高めるように教え導く”ことです。

「啓」は「未知のものを明らかにする」「教え導く」という意味があり、「蒙」は「知識不足」という意味があります。そのことから、情報を持たない一般の人々に、知識のある者がその知識を与え導くという意味合いが含まれます。

また、学術書などの専門書ではなく、一般の人の教養を高めることを目的に書かれた書物を「啓蒙書」と呼びます。

「啓蒙」が差別用語であるとの誤った認識に注意

「啓蒙」の「蒙」に「愚かなこと、無知なこと」という意味があることから、「啓蒙」は差別的な言葉だとする誤った認識があるようです。差別的な意味は啓蒙にはなく、あくまでも知識や情報を持たない人に新しい知識を与え、導くという教育的な意味の言葉です。

啓蒙が差別用語であるなら、啓蒙活動をうたうNPOや、啓蒙書との但し書きで本を発行する出版社などは差別を助長していることになってしまいます。

「啓蒙」は英語で”enlightenment”

「啓蒙」は英語で“enlightenment”と書きます。「啓蒙思想」は「the Enlightenment」です。啓蒙思想の意味はのちほど説明します。

動詞の「啓蒙する」は「enlighten」と書き、宗教用語の「悟る」という意味もあります。語源は「en- +‎ light」すなわち「光を中に(照らす)」という意味で、光は理性を表します。

「啓蒙」の使い方と例文とは?

「啓蒙」は社会全体に対する新しい考え方の導きの意味で使う

「啓蒙」は、社会全体に対する新しい考え方の導きを示す言葉として使われます。啓蒙を行う活動を「啓蒙活動」や「啓蒙を図る」などと表現します。時事的な記事や哲学などでも用いられることが多い言葉です。

社会に対する「啓蒙」を使った例文

社会に対する「啓蒙」を使った例文をご紹介しましょう。

  • 年金が不足する老後への備えのため、投資技術に関する啓蒙が必要だ。
  • 情報メディアの発達により、新聞が市民の教養を啓蒙する時代は終わったといえる。
  • 世間への啓蒙を図るという意味で、麻薬犯罪人への捜査活動が強化された。

社会に対する「啓蒙活動」を使った例文

社会に対する「啓蒙活動」を使った例文をご紹介しましょう。

  • 飲酒問題を解決するため、メディアを使った啓蒙活動が行われた。
  • 青少年のために薬物乱用防止の啓蒙活動を行っている。
  • 高齢者への詐欺被害防止のための啓蒙活動が各地で行われている。

「啓蒙」の類語とは?

類語①「啓発」は”知識を与える”という意味

「啓蒙」の類語に「啓発(けいはつ)」があります。「啓発」は、一般の人が見逃しがちな問題などについて、専門的な知識を持つ人が専門家の観点から知識を与えることを言います。「大いに啓発された」「啓発を受けた」などと受け身の形で使うのが一般的です。

「啓蒙」は知識のない者に新しい知識を与えるのに対し、啓発は一般的な人が見逃している知識を与えるという違いがあります。

類語②「教化」は”思想的な影響を与える”という意味

「人民を強化する」などと使われる「教化(きょうか)」という類語があります。「教化」は、人を教え導くという意味では「啓蒙」と同じですが、政治的権力者などが思想的な影響を与え、望ましい方向に人々を進ませるという意味で使われることが「啓蒙」とは異なります。

「啓蒙思想」とは?

「啓蒙思想」や、啓蒙思想に関する言葉「啓蒙主義」や「啓蒙時代」といった言葉は、知識のない人々を教え導くという意味の「啓蒙」に関連する意味をちますが、ある特定の思想運動を指す言葉です。

「啓蒙思想」とは17世紀ヨーロッパに起こった革新的思想運動のこと

「啓蒙思想」とは、17世紀ヨーロッパに起こり、18世紀後半に全盛期を迎えた革新的な思想運動です。聖書や神学にもとづく伝統的な価値観や権威を否定し、理性による思考の合理性を唱えました。

啓蒙思想の立場を取る「啓蒙主義」

啓蒙思想の立場や意見・主張を強調する表現が「啓蒙主義」です。「啓蒙主義の思想家」「啓蒙主義の論調」などと使います。

啓蒙思想が主流となった時代を「啓蒙時代」と呼ぶ

ヨーロッパの17世紀後半から18世紀にかけて、啓蒙思想が主流となりました。この時期のことを「啓蒙時代」と呼びます。

啓蒙思想の先駆となったフランス啓蒙思想

特にフランスでは、理性による人間の解放を唱える啓蒙思想が広まり、政治にも影響を与えました。国民の当時の社会体制に対する不満の高まりもあり、啓蒙思想はフランス革命への布石となりました。

モンテスキュー(1689年~1755年)は『法の精神』において、三権分立論や奴隷制度の廃止、市民的自由の保持など国家や社会改革を提言し、ヴォルテール(1694年~1778年)は腐敗していた教会を弾劾しました。

まとめ

「啓蒙」とは、「情報を持たない人々を教え導く」という意味の教育的な言葉です。啓蒙を受けることにより、それまで知らなかった新しい考え方や知識を知り、教養を高めたり知的水準を向上させることができます。

18世紀の哲学者カントは「啓蒙」を哲学的に考察し、「啓蒙とは、みずから招いた未成年の状態から抜け出ることだ」と述べています。未成年の状態とは、他人の指示を仰がなければ自分の理性を使うことができない状態であり、「自分の理性を使う勇気が必要だ」と論じています。

カントが論じたように「啓蒙」に重要なのが「理性」です。理性とは、物事の道理を考えたり、道理に従って合理的に判断したり行動したりする能力のことを言います。理性の対義語が感情です。啓蒙の対象である「情報を持たない人」とは、道理を考えず、感情のおもむくまま行動する人だと言えます。つまり、一般的な誰もがその対象であるといえるでしょう。