「爪の垢を煎じて飲む」とは手本となる人のようになりたいときに使われることわざですが、ずいぶん変わった表現ですよね。このことわざはどのようにして生まれたのでしょうか。今回は「爪の垢を煎じて飲む」の由来とともに意味を解説します。また類語や使い方に併せて例文も紹介しますので、ご参照ください。
「爪の垢を煎じて飲む」とは?
「爪の垢を煎じて飲む」の意味は”優れた人を手本にしてあやかるように心がけること”
「爪の垢を煎じて飲む」の意味は、“優れた人や尊敬できる人を手本にしてあやかるように心がけること”です。このことわざには、手本とする人の言動や行いを真似るといった意味も含まれています。
「煎じる」の意味は”茶などを煮詰めて成分を取り出す”
「煎じる」の意味は、“茶や薬草などを煮詰めて成分を取り出す”ことです。単にお湯を注ぐだけよりも、水に浸した茶や薬草をぐつぐつと煮出すことで薬効成分が抽出されます。また煮出された湯を飲めば、その成分が体に吸収されやすくなります。
「爪の垢を煎じて飲む」では、爪の垢のようなわずかなものでも煎じれば優れた人の良い部分が抽出されて、それを飲めばあやかれるという発想のもとで「煎じて飲む」という表現が使われています。
なぜ「爪の垢を煎じて飲む」のか?由来とは?
「爪の垢を煎じて飲む」の由来は、優れた人のようになるには、その人の爪の垢のようなわずかで汚いものでも薬にして煎じて飲めば、少しは似てくるかもしれないという考えです。
「爪の垢」は少量やほんのわずかなもののたとえとして使われる表現で、「爪の垢を煎じて飲む」ということわざでも「爪の垢」はたとえとして使われています。優れた人のほんのわずかなものでも飲みさえすれば、その人のようになれるのではないかという必死さが伝わってきます。
「爪の垢を煎じて飲む」の類語とは?
「採長補短」の意味は”人の長所を取り入れ自分の短所を補うこと”
「採長補短(さいちょうほたん)」とは、人の長所を取り入れて自分の短所や足りないところを補うという意味の四字熟語です。この四字熟語は、人に関してだけでなく物事についても使われます。物事のいいところを取り入れて不備なところを補うという状況でも使われます。
真似るという意味なら「右へ倣え」や「顰に倣う」がある
「爪の垢を煎じて飲む」の意味で優れた人の言動や行いを真似るという意味に着目した類語ならば、「右へ倣え(みぎへならえ)」や「顰に倣う(ひそみにならう)」があります。
「右へ倣え」は子供のころ、運動会などで聞いた覚えがある方もいるでしょう。自分の右手にいる人にならうという意味の整列するときの号令という意味の他に、比喩的な表現として「他人の真似をする」という意味があります。
また「顰に倣う」とは善悪に関係なくむやみに人の真似をすることという意味です。「顰」とは眉間に眉を寄せることです。春秋時代、中国にいるある美しい人が胸の病により苦痛で顔をしかめている表情を見た醜女が、勘違いして美しいと思い顔をしかめながら街を歩いた、というエピソードが由来のことわざです。
「爪の垢を煎じて飲む」の使い方と例文とは?
良い人にあやかってほしいと思うときに使われる
いいと思われる人、素敵だと思われる人、優れていると思われる人がいて、その人のようになってほしいと相手に求めるときに「爪の垢を煎じて飲む」は使われます。その相手とは、パートナーや自分の子供、友人や同僚などさまざまな人物が対象です。
- 「〇〇君はまたテストで100点を取ったんだって?うちの子に〇〇君の爪の垢でも煎じて飲ませたいな」
- 「隣のご主人は奥さん思いでとてもやさしいのよね。私の主人にも隣のご主人の爪の垢を煎じて飲んでほしいわ」
失態をしたときのお説教の文句として使われることもある
叱られるときや仕事で失態をしたときなどに、ある模範となる人物を引き合いに出して、人物の行いを見習いなさいと説教をするときに「爪の垢を煎じて飲む」が使われます。
- 「何時だと思ってるんだ!お隣の〇〇君はこんなに遅くまで外でふらふらしていないぞ。○○君の爪の垢でも煎じて飲みなさい」
- 「今月も営業成績がよくないんだ。部長から営業成績トップの〇〇の爪の垢を煎じて飲めって嫌味を言われたよ」
爪の垢を煎じて飲むことの効果とは?
「爪の垢を煎じて飲む」の意味を取り違えないように注意
「爪の垢を煎じて飲む」の意味は尊敬できる人にあやかるように心がけるという意味です。
「実際に人の垢を煎じて飲みなさい」と言っているわけではないので、言葉どおりには取らず、実践を通して尊敬する人の言行などを真似るなどして相手に近づけるように努力しましょう。
「爪の垢を煎じて飲む」の英語表現とは?
直訳の代わりに「follow in the footsteps of」
「爪の垢を煎じて飲む」の英訳は”follow in the footsteps of someone”という表現になります。意味は「(人)の足跡をたどる」で、転じて「(人)の先例にならう」となり「爪の垢を煎じて飲む」と同じ意味合いで使えます。
ただし「follow in the footsteps of」は「爪の垢を煎じて飲む」のように説教や説得するために使うことはありません。優れている人を倣い行動している人を説明するときに使います。
「爪の垢を煎じて飲む」を直訳すれば「drink the dirt of one’s nails」となりますが、この英訳から「爪の垢を煎じて飲む」の持つ意味で解釈されることはなく汚いなと思われるだけです。直訳せずに「follow in the footsteps of」を使うようにしましょう。
「爪の垢を煎じて飲む」の英語例文
「爪の垢を煎じて飲む」の英語例文をご紹介しましょう。
- “Mr. Goldberg follows in the footsteps of his father.”
「ゴールドバーク氏は自分の父親の足跡をたどる」 - “If I would follow in the footsteps of my tea teather, I might be like my tea teacher.
「もしも私のお茶の先生の詰めの垢を煎じて飲めば、先生のようになれるかしら」
まとめ
「爪の垢を煎じて飲む」とは優れた人のように心がけたり、その人の言行を真似たりすることです。自分にとって分が悪いときに使われることが多いことわざなので、あまりいい印象がないかもしれません。模範となる人がいることを幸いだと思い、ポジティブに考えるようにしましょう。