「耽美」の意味は?「耽美的」「耽美主義」や類語と作家作品も解説

「耽美」という言葉は小説や映画の世界観を表現するときに用いられます。耽美的なイラスト、耽美的なメイク、などと身近なものが紹介されることもあります。「耽美」や「耽美的」とはどのような意味なのでしょうか?

この記事では、「耽美」「耽美的」「耽美主義」の意味を解説します。あわせて耽美の類語や英語表現と、耽美小説などの作品も紹介します。

「耽美」の意味とは?

「耽美」の意味は「美を追求し陶酔すること」

「耽美(たんび)」とは、美を最も価値のあるものと考え、その世界を追求し、陶酔することという意味です。道徳を否定し、悪徳や享楽を肯定する「耽美主義」から生まれた芸術作品の影響から、退廃的で悪魔的な空想の美の世界感が「耽美」という言葉のイメージの根底にあります。

芸術の耽美主義とは別に、身の回りにある妖艶で美しいさまを耽美な世界、耽美な生活などと表現します。また、最近は人形のような顔を作るドールメイクのことを耽美メイクと呼んだりします。「耽美」の「耽」とは夢中になるという意味です。

耽美主義の芸術についてはのちほど詳しく紹介します。

「耽美的」の意味は「美を追求し陶酔する傾向のあるさま」

美を追求し、陶酔する傾向のあるさまを「耽美的な〇〇」と表現します。退廃的な美の雰囲気を持つものに対して使われる「耽美」とともに、そのような傾向があるというニュアンスが強いときに「耽美的」が用いられます。

また、耽美主義のカテゴリーに含まれなくとも、そのような傾向のある芸術家を耽美的な画家と呼んだり、耽美な雰囲気がある作品を耽美的な作品と表現したりします。

「耽美主義」とは「美の実現を至上の目的とする芸術思潮」

耽美主義とは、道徳に縛られず、美を唯一の価値あるものとして、極端な芸術への愛好を示す芸術思潮のことです。道徳を否定することから、破滅や倒錯、狂気の美など、人間の心の闇に見い出される美の追求であることも特徴です。

耽美主義は19世紀後半のフランス、イギリスを中心としたヨーロッパに起こり、明治末から昭和にかけて、日本の小説家たちに大きな影響を与えました。

「耽美」の類語

「唯美主義」は「耽美主義」と同じ意味

耽美主義は芸術至上主義と呼ばれる世界観と同じ世界を共有しています。芸術至上主義は芸術においては美を唯一絶対の目的として追求する立場をとります。そのため芸術至上主義は唯美主義(ゆいびしゅぎ)とも呼ばれ、耽美主義と共通の意味を持ちます。

芸術至上主義は、思想よりも視覚的美や感覚を重んじ、道徳に背を向けたことから生活の上では享楽主義と結びつき、そこから悪魔主義に近づく傾向を持ちました。

耽美的・悪魔的傾向を指す言葉「デカダンス」

「デカダンス」とは、フランス語で「退廃・衰退」の意味を持つ、19世紀末のフランスを中心とするヨーロッパに生まれた芸術思潮です。日本語では退廃派とも呼ばれ、耽美的・悪魔的傾向を持つ芸術や、道徳に反する芸術美を追い求めました。

退廃的な傾向を持つ生活態度をデカダンスと表現することもあります。

「耽美主義」の芸術家や作品とは?

耽美小説の代表的作家は「オスカー・ワイルド」

耽美主義が色濃い世紀末文学の代表的作家に、英国の詩人オスカー・ワイルド(1854年~1900年)がいます。芸術のための芸術を提唱し、耽美主義を身を持って実践しました。

新約聖書のサロメの物語をもとにした戯曲『サロメ』が代表作で、フランス語で書かれたものが世界各国に翻訳されました。日本では森鴎外が翻訳して広めました。世界中の舞台で上演されており、日本では昭和40年代に三島由紀夫が演出を手掛けた作品が上演されました。

日本の代表的な耽美主義の小説家「谷崎潤一郎」

日本における耽美主義の代表的な小説家は谷崎潤一郎(1886年(明治19年)~1965年(昭和40年))です。谷崎潤一郎の作品は生涯にわたってさまざまに変遷しましたが、特に反道徳的な感性と谷崎独自の美学が交錯する耽美主義が色濃い作品を多く残しています。

刺青師のフェティシズムを描いた『刺青』、少女への愛を描いた『痴人の愛』、谷崎作品の美の再骨頂だとされる『春琴抄』などがあります。

耽美主義の中心的作家として、他にも永井荷風(1879年(明治12年)~1959年(昭和34年))がいます。アメリカ・フランス遊学後に発表した随筆『あめりか物語』『ふらんす物語』や、大正初期の花柳界を舞台として金と色の腕くらべを描いた『腕くらべ』などがあります。

数多く映画化された谷崎潤一郎の耽美小説

谷崎潤一郎の耽美小説は数多く映画化されています。『細雪』『痴人の愛』『刺青』などは1940年代以降、何度も映画化されました。近年では2018年に『神と人との間』『富美子の足』『悪魔』の3本が、谷崎の小説を原案として現代劇として再構成され、公開されました。

耽美主義の画家「ビアズリー」

『サロメ』挿絵
(出典:Wikimedia Commons User:Dmitry Rozhkov)

世紀末美術を代表する耽美主義の画家にオーブリー・ヴィンセント・ビアズリー(1872年~1898年)がいます。オスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』の英訳版にビアズリーのイラストが使用され、耽美主義の挿絵画家として名声を得ました。

悪魔的な雰囲気の幻想的世界を鋭いペン画で表現し、大正時代の日本の美術にも影響を与えました。漫画家の魔夜峰央や山岸凉子も影響を受けたことが知られています。

「耽美」の英語表現

「耽美」は英語で「aesthetic」

英語の形容詞「aesthetic」は「美学の、耽美の、審美的な」という意味です。耽美主義は「aestheticism」となり、唯美主義、審美主義とも訳されます。

まとめ

「耽美」の言葉には、19世紀後半のフランス、イギリスを中心にヨーロッパに起こり、明治末から昭和にかけて、日本の小説家たちに大きな影響を与えた「耽美主義」の芸術思潮の傾向が色濃く反映されています。

日本では谷崎潤一郎の小説が耽美派としてよく知られていますが、永井荷風、泉鏡花、三島由紀夫など多くの作家が耽美主義の影響を受けています。

昭和の初期までの文豪たちが描いた耽美的世界は、現代人の感性とは異なる悪と美へのロマンが感じられる独特な世界観を持ち、現代の芸術家たちにも影響を与え続けています。