ビジネスシーンだけでなく、時代劇や文章でも度々目にする「忍びない」という言葉。聞いたことはあるけれど、実のところ正しい意味と使い方を知らない、という人は多いのではないでしょうか?今回は「忍びない」の意味から、ビジネスで使える敬語や英語表現、同じ読み方の「偲びない」との違いまでご紹介します。
「忍びない」の意味
「忍びない」の意味は「我慢や耐えることができない」
「忍びない」の意味は、「我慢や耐えることができない」です。「忍びない」の語源となる「忍ぶ」は、辛いことを耐える、堪えるという意味を持つ動詞。この否定形がそのまま言葉となったのが、「忍びない」という表現です。
「偲びない」との違いは言葉の意味
「忍びない」の代わりに、「偲びない」という字が使われることがあります。「偲びない」の語源「偲ぶ」は、「過去や人に想いを馳せる、懐かしむ」という意味。このように、両者はもともと全く意味の違う言葉ですが、「偲ぶ悲しみ」と「耐え忍ぶ辛さ」が似ていることから、時代と共に繋がりの深い言葉として交錯するようになりました。
とはいえ、本来の「我慢できず、耐えられない」ことを表すときには、「忍びない」の漢字を使う方が一般的です。
「忍びない」の使い方
自分の行動に対して使うときは「~するに忍びない」
自分の行動について「忍びない」を使うときは、主に「~するに忍びない」という形で、その動作に対して我慢が難しい様子を表します。
我慢と一口に言っても、「見るに忍びない」であれば、悲惨なニュースや嫌悪すべき場面を見て目を背けたくなる様子を表し、「捨てるに忍びない」であれば、大切なものや思い出の詰まったものを捨てることに躊躇している様子を表すことができます。
国語の教科書によく記載されている『山月記』には”到底語るには忍びない”という一文がありますが、これは「語ることに耐えられない、口に出すことも(恐ろしくて)できない」という意味になります。
相手に対して使うときは、相手の行動に「忍びない」をつける
まずは、相手の行動に対して「忍びない」をつける場合があります。例えば、「ご足労頂くのは忍びないので、こちらから伺います」と表現すると、相手にわざわざ出向いてもらうのは我慢できないため、自分から伺いますと伝えられます。
もう一つ、相手への自分の行動に対してつける場合もあります。例えば、「ご提案を無下にするのは忍びないですが」のように言いますが、この「忍びない」には「気が引ける、気の毒」といったニュアンスも含まれます。
謝罪の「申し訳ない」という意味ではない
ビジネスシーンでよく混同される間違いとして、「忍びない」を「申し訳ない」という意味で使っている人がいます。しかし、「申し訳ない」は謝罪の意であり、耐え難さを表す「忍びない」とは根本的に異なるものです。既に起こしてしまったことに対して「忍びなく思っています」というように謝罪するのは誤った表現ですので、ビジネスシーンでは特に注意しましょう。
忍びないを使って相手への申し訳なさを表したいのであれば、「大変忍びないのですが」というように、これから自分が起こす行動に対して「耐え難いほど心苦しさを感じている」という意味であれば問題ありません。
目上の相手に使う場合は、心苦しさの意味で「忍びない」
ビジネスシーンにおいては、目上の相手にも無理なお願い事をしたり、どうしても迷惑を掛けてしまったりする場面に遭遇します。そんなとき、「申し訳ない」以上に「心苦しさ」や「遠慮」を表す言葉として「忍びない」を使うとより効果的。例えば、「このようなお願いをするのは大変忍びないのですが…」や「ご提案頂いて誠に忍びないのですが…」といった使い方です。
「忍びない」に特定の敬語表現はありませんので、状況に合わせて使うと良いでしょう。
「忍びない」を使ったビジネス例文
「忍びない」を使った例文として、実際にビジネスシーンでも活用できるものをご紹介します。ここでは「お願いごとをするとき」「辞退の意を伝えるとき」の2シーンそれぞれを見ていきましょう。
お願いごとをするとき
- 「突然のお願いで忍びないのですが、ご対応頂けますでしょうか。」
- 「ご迷惑をお掛けして大変忍びないですが、どうぞ宜しくお願い致します。」
辞退の意を伝えるとき
- 「忍びないことではありますが、今回のご依頼はお受けできません。」
- 「折角の申し出を断るのは忍びないのですが、ご容赦願います。」
「忍びない」の類語
「忍びない」の類語は「辛い」「かわいそう」
「忍びない」の類語には、自分の行動に対して「辛い、耐え難い」または「目も当てられない、正視できない」という表現があります。一方で、相手に対して使うときには、「気の毒、かわいそう」や「不憫、労しい」といった類語を使うこともできます。
「忍びない」の英語表現
「我慢できない」「気の毒」などのニュアンスを表す英語を使う
「忍びない」をそのまま表す英語はありません。日本語で似た意味の「耐え難い、我慢できない」や「気の毒」といったニュアンスを表す英語を使って、場面に応じた英語表現を使いましょう。
I couldn’t bear to hear the news. I feel sorry for requesting such a thing.
(そのニュースを見るに忍びなかった。)
(こんなお願いをするのは忍びない。)
まとめ
「忍びない」という言葉は、ビジネスパーソンなら誰もが一度は耳にしたことがあるでしょうが、今回ご紹介したように「申し訳ない」と混同して誤った使い方をしている人も少なくありません。しかし、言葉を正しく使えてこそ、仕事相手として信頼されるのがビジネスの世界。使いどころを間違えずに、必要な場面で「忍びない」を活用していきましょう。
「目も当てられないほど酷い営業成績だ。」
「勝手なお願いで誠に恐縮ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。」
「せっかくのお誘いを断るのは心苦しい。」