「以前」の意味とは?その時を含む表現と含まない表現を解説

「〇〇以前」の表現で時間や期日を示すとき、その時点を含んでそれより前なのか、含まないでそれより前なのかで悩んだ経験はありませんか?また「以前はよかった」という使い方もありますが、このときの以前とはいつのことなのでしょうか?

そこでこの記事では、それらの疑問を解消できるよう、「以前」の意味や使い方を詳しく解説します。法律に使われる際の「以前」の考え方についても紹介しています。

「以前」とは?

「以前」の意味は”(その時を含んで)それより前”

「以前」の意味は、“(その時を含んで)その時より前”のことです。「3月以前」などと、日時や時間を用いるときに使われる言葉です。たとえば、「3月以前」というときは”3月を含むそれより前”という意味を表します。「3月15日以前」であれば”3月15日を含んでそれより前”という意味です。

他にも例を挙げると、「1980年代以前は雇用が安定していた」と言うときは1980年代も安定していたということを示しています。

法律に使われる「以前」の意味は”基準時点を含む前”

法令用語として「以前」が使われるときの定義は、“基準時点を含む前”のことです。つまり「(その時を含んで)それより前」と同じ意味です。たとえば「2020年3月以前の申請は無効となる」とある場合は、2020年3月を含んでいることが示されています。含まない場合は「以前」ではなく「前」を用います。

なお、法令用語の考え方として、「以前」「以降」は基準点を含み、「前」「後」は基準点を含まない、と覚えておくと間違いがありません。

「以」とは”それより”という意味

「以前」の「以」は、”それより”や”…から”という意味を持ち、範囲や方向などの基点を含む基準点を示します。つまり「以+前」とは「(それを含んで)それより前」という意味を表します。

「以」がつく漢字は以前のほかにも「以後・以上・以降・以内」などがあり、すべて「(それを含んで)それより」という意味で使われています。たとえば「30日以内」であれば、30日を含んでその範囲内であることを示しています。

その時を含まないときは「前」を使う

「以前」とは、”(それを含んで)それより前”あるいは”基準時点を含む前”という意味ですが、「(それを含まず)それより前」あるいは「基準点を含まない前」を表現をしたいときには、「以前」ではなく「前」を用います。

たとえば、「3月より前の月」とは”2月以前”という意味であり、「3月15日より前」とは”3月14日以前”という意味となります。あるいは、「2000年12月31日以前」は”2001年1月1日より前”だと表現できます。

また、法令用語としての「以前」と「前」の違いも、一般的な使い方の意味と同じく、基準時点を含むか含まないかの違いとなります。

数や時間を用いない「以前」の意味と使い方とは?

「今よりもだいぶ前」という意味でも”以前”を使う

「以前」は、数を用いない表現で「今よりもだいぶ前」という意味でも使われます。たとえば「以前から興味を持っていた」「以前はたびたび見かけた」「以前とは違う」「以前ほどではない」などの使い方です。

この場合は、「以前(それより前)」の「それ」の基点が、「だいぶ前」のどこかの時点を基点としています。そのため、基点の時点を含むかどうかは曖昧です。

「その事柄の前の段階に属する」という意味でも使われる

「以前」は、「それ以前の問題だ」「常識以前のことだ」などと、その事柄を論ずる前の段階にそもそも属していることだという意味でも使われます。

この場合の「以前」は、「その事柄の前の段階に属することだ」という意味で使われています。数や日付などの基準値を含む使い方とは異なる概念での使われ方であるといえます。

「以前」の類語と対義語とは?

「(その時を含んで)それより前」の意味の「以前」の類語は無し

時間や時を用いて「(その時を含んで)その時より前」という意味で使う「以前」の類語はありません。たとえば「…前」はその時点を含まないため、意味が違います。

「今よりもだいぶ前」の意味の類語は「従前」

「今よりもだいぶ前」という意味で使う「以前」の類語には「従前(じゅうぜん)」「先般(せんぱん)」などがあります。従前とは、「以前から今まで」を意味し、「従前とは一新させた」などと用います。

「以前」の対義語は”以後”や”以降”

「以前」の対義語は「以後」です。「以前」の考え方と同じく、”基準時点を含む後”という意味で使われます。

たとえば、「今月以後」は”今月を含んでそれより後”の時間関係を表します。今月を含まない場合は「今月より前」です。先に説明したとおり、法律においても同じ考え方で使われています。

「以後」と同じ意味で「以降」という表現もあります。以降は以後の意の漢語的表現です。

まとめ

日時などを定める際に法律で用いられる「以前」は、その基準時点を含んでそれより前という意味が定義されています。一般的な会話においても、基準時点を含む意味で使われています。

しかし、数や日付などを用いない表現での「以前」は、「だいぶ前」という意味で使われます。たとえば「以前はよかった」などの使い方です。さらに、大きな時間経過を示す「明治以前は〇〇だった」などの使い方をするときは、基準時点を含むこともあれば、含まないこともあります。

「以前」にその時を含むのか含まないのかがあいまいであるのは、歴史的にそのような使われ方がされてきたという背景があるようです。これは「日本語あるある」の一つであるといえるでしょう。