「シビリアンコントロール」が聞きなれなくても「文民統制」なら聞いたことがあるという方もいるのではないでしょうか。「文民統制」は軍人ではない文民による軍隊の統制という意味で、「シビリアンコントロール」の訳語であり「文官統制」と誤解されることもあります。
今回は「シビリアンコントロール」の意味と「文官統制」だと思われる誤解と理由のほかに、日本や中国、アメリカでのシビリアンコントロールについて紹介します。
「シビリアンコントロール」の意味とは?
「シビリアンコントロール」の意味は”文民による軍隊の統制”
「シビリアンコントロール」の意味は、“文民によって軍隊が統制されること”です。「文民」とは軍人ではない人という意味で、軍部が独自に活動せず、政治に介入することを阻止するための手段としてシビリアンコントロールは使われて、同時に民主政治を守るための原則としてシビリアンコントロールという制度が確立しました。
文民を担うのは、本来ならば国会、突き詰めれば主権者である国民ですが、実際には国民が選挙で選んだ政治家が文民としての職務を担っています。
日本語では「文民統制」と訳されます。
文民の意味は憲法66条に規定されている
「シビリアンコントロール」、つまり”文民統制”の「文民」は、日本では日本国憲法66条2項に内閣総理大臣または国務大臣であると規定されています。
「文民」という言葉は、日本国憲法を制定するときにシビリアン(civilian)という英語を訳すために作られた造語です。それ以前に「文民」という言葉はありませんでした。「文民」は広義的には一般市民という意味合いがありますが、国民を代表する政治家という意味だと解釈していいでしょう。
「シビリアンコントロール」の使い方と例文とは?
「シビリアンコントロール」とは文民と軍隊との関係を語るときに使われる
文民と軍隊との関係において、シビリアンコントロールの機能やそれに対する賛否について語られるときに、シビリアンコントロールという言葉は使われます。
- 「シビリアンコントロールがある以上、軍人は軍事アドバイスをすることしかできない」
- 「シビリアンコントロールによって、自衛官は政治活動を行わないことが定められている」
- 「シビリアンコントロールは民主主義の証」
【国別】「シビリアンコントロール」の意味とは?
ここでは、日本と社会主義国の代表として中国、そして軍事大国であるアメリカのシビリアンコントロールの意味を紹介します。
【日本】自衛隊がシビリアンコントロール下にある
シビリアンコントロールは文民による軍隊の統制という意味ですが、軍隊のない日本では自衛隊が取って代わります。自衛隊法によると、自衛隊は文民によって統制されていることが規定され、統制する文民とは国会であり、内閣と防衛相を指します。
【中国】軍部の最高司令官は国家主席
中国の中国人民解放軍の最高司令官は国家主席、つまり中国共産党中央部軍事委員会の主席になるという慣例が1993年から続いています。政治上の最高の実力者が軍の最高司令官を務めるという体制が取られています。
【アメリカ】文民は大統領
アメリカでは、シビリアンコントロールの文民は大統領だと定義しています。憲法2条2節に、大統領は陸海軍および合衆国の軍務のために収集された各州の民兵の最高司令官としています。
また各軍の司令官や国防長官にも軍人以外の人が就いています。
「シビリアンコントロール」を「文官統制」とする誤解
シビリアンコントロールは文官統制ではない
「シビリアンコントロール」の訳語は”文民統制”ですが、文民統制に似た言葉である「文官統制」がシビリアンコントロールだと誤解されることがあります。
「文官統制」とは防衛相内で官僚が自衛官よりも優位にあるという制度であり考え方のことです。そのため「文官統制」は”文官優位”とも呼ばれました。
シビリアンコントロールは文官統制だと誤解される理由は、文民統制を文官統制が支える関係があるからです。戦前、戦中での軍部の政治への介入を反省して、文民統制を強化するために文官が文民を支えるという構造が、シビリアンコントロールは文官統制だという誤解を生みました。
文官統制は2015年に廃止
日本では2015年、防衛相設置法第12条の条文が撤廃されたのに伴い、文官統制は廃止されました。
2000年代に入り、元防衛事務次官の汚職事件やイージス艦の情報漏洩事件などの不祥事があり、2009年の防衛参事官制度の廃止に続き、2015年には改正防衛相設置法が成立して、防衛官僚と自衛官は対等の立場となり両者が防衛大臣を支えるようになりました。
体制が変わったことにより、自衛官である統合幕僚長から直接、防衛大臣に情報が入るようになり、情報の迅速な伝達などの面が改善されました。
まとめ
「シビリアンコントロール」とは文民による軍隊の統制という意味で「文民統制」と訳されます。文民を補佐する文官との関係から、文官統制だという誤解がありますが、その文官統制も2015年に廃止されました。軍部が独自に活動しないように抑制するためにシビリアンコントロールという制度はあります。